お金と仕事
楽天トラベルでラブホ「解禁」 女子会・外国人…進む脱「エロ」戦略
宿泊予約大手の楽天トラベルが、ラブホテルの掲載を6月下旬にも始めることがわかりました。とは言っても、狙いはビジネス客や旅行客。「エロ」のイメージが根強いラブホテルですが、最近は、普通のホテルと見違えるようなラブホテルも増えており、楽天側もビジネス客や観光客の利用が見込めると判断したとみられます。イメージ変化の背景には、ラブホテル業界が抱く、市場縮小への強烈な危機感があるようです。
ラブホテルは、休憩利用ができて、主にカップル客が多い施設のことです。自動精算機を設置して、従業員と客が会わずに利用できるようにするなどすると、風俗営業法上の規制を受け、18歳未満の利用が禁じられます。従業員が接客するなどして旅館業法上の許可で営業しているホテルを「レジャーホテル」などと呼ぶこともありますが、一般的にはどちらもラブホテルとして認識されています。
業界関係者によると、最盛期は80年代後半。バブル期にはピラミッド型の外観のホテルや、お城を模したホテルなど、派手な外観のホテルも次々とできました。しかし、若者の「草食化」や、少子化、車離れなどが進み、近年は減少傾向です。北関東の幹線道路などには、バブル期に建てられたとみられるラブホテルが廃墟となってたたずんでいます。
正確な統計はありませんが、ラブホテルの数は現在、1万件程度あるとされています。観光庁の統計では、訪日外国人の増加などで大阪や東京のビジネスホテルの稼働率が8割を超える一方、ラブホテルの稼働率は「年々下がってきている」(業界関係者)のが実情です。
こうした状況が、ラブホテルに新しい客層の開拓を迫っています。
昨年12月に1億5千万円をかけて改装した福岡市博多区の「HOTEL&SWEETS FUKUOKA」。フロントの横には食べ放題のケーキやマカロンが並ぶショーケースが設置され、奥のガラスの向こうには専任のシェフが洋菓子を手作りする様子が見えます。
白を基調とし、窓からは光が差しこむ室内。インテリアもすっきりとして、いわゆるラブホテルには見えません。このホテルが狙うのは、女性同士の旅行客やビジネス客の開拓。3月には女性同士の旅行客ら10組ほどが宿泊したそうです。
運営会社社長の森藤紳介さんは、会社員を辞めてホテルの跡を継ぐことに。しかし、若い女性たちに話を聞くと、ラブホテルのイメージの悪さに愕然としたと言います。
「このままじゃ10年、20年後にはなくなっているかもしれない」。そんな危機感を抱き、大幅な改装に踏み切りました。「イメージを変えて、カップル以外の人たちにも来て欲しい。値段もお手頃なのに、高級ホテル並の内装や設備があるホテルもたくさんあるんです」と話す森藤さん。女性同士の客を来客全体の1割ほどに上げることを目標にしています。
ラブホテルで飲食したり宿泊したりする「ラブホ女子会」もブームが続いています。業界関係者によると、5~6年ほど前に専用プランを設けるホテルが出始めました。今では数万円でリムジンに乗れるプランや、岩盤浴付きのプラン、美容グッズの無料貸し出しなど、多くのホテルが様々な専用プランを競っています。
女子会プランを利用した東京都の会社員女性(24)は新宿区の南国リゾート風のホテルで、友人3人で女子会を開きました。フラワーバスに入って、お笑いのDVDを大画面のテレビで見ながら飲食を楽しんだそうです。「居酒屋よりも家的な感覚でリラックスできて、リゾート的な非日常感も味わえた。いやらしい感じも全然なくて、1人4千円という値段もお手頃に感じましたね」と話します。
東京都新宿区のラブホテルは、昨年3月に訪日外国人の受け入れを始めました。宿泊予約サイト「エクスペディア」などを通じて集客。案内表示や食事メニューには英語表記を追加しました。英語のできる従業員を雇い、客を部屋まで案内して設備の使い方も教えます。
経営者によると、アメリカやヨーロッパからの客が多く、訪日外国人の宿泊が売り上げの2割を占めるまでになりました。1人で泊まるビジネス客もいるそうです。「ラブホテルがない国が多く、外国人客は悪いイメージを持っていない。豪華な設備や広い部屋にビジネスホテルと比べても安い価格で泊まれると好評だ」と話します。
昨年4月には外国人向けに日本のラブホテルを紹介する専用サイトも登場。エクスペディアやブッキング・ドットコムなどに部屋を掲載するホテルも増えています。一方、ラブホテルの看板を下ろし、中国人の団体客向けのホテル改装する例もあります。
高齢者に狙いを定めたラブホテルもある。65歳以上限定のイベントを企画したり、風呂に老眼鏡を置くスペースを設けたりしています。
ラブホテル業界誌を発行するテイダンの青木由香さんは「最近はアメニティーを充実させたり、清潔感のある内装にしたり、女性目線を意識したホテルが増え、イメージを変えようとしている。カップル向けに『エロ』を前面にしていたホテルは少なくなりつつあり、従来のラブホテルのイメージはもはや古くなってきている」と話しています。
楽天トラベルのラブホテル解禁を、ラブホテル業界は歓迎しています。ただ、出張の経費精算にラブホテルの領収書が認められるのかなど、課題もありそうです。
楽天トラベル以外には、ヤフー・トラベルも昨年夏から試験的に関西地域を地盤としたホテルチェーンの約40施設を掲載し、反響などを調べています。これまで、国内の大手宿泊予約サイトはどこも「イメージ悪化が怖い」「ラブホテルと知らずに泊まった客から苦情が来かねない」「主なターゲットの家族層には受け入れられない」などとして、掲載は断ってきました。しかし、楽天やヤフーの試みが成功すれば、ラブホテルに対するイメージはさらに変わっていくのかもしれません。
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