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2016年12月02日

「元の自分に戻れなくなる」 28歳女性がテレビ業界を辞めるまで

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過酷な体験を語った女性

過酷な体験を語った女性

 職場での嫌がらせや異常な長時間勤務。テレビ番組制作会社に数年前まで勤めていた女性(28)は、体も心も限界に近づく中、退社することを決めた。せっかく入れた憧れの業界。正社員の職を3年も待たずに辞めることに抵抗がなかったわけではない。電通新入社員の過労自殺が「他人事ではない」と語る女性は「仕事は続けることが大事なんじゃない」「辞める選択肢もある。命を絶たないでほしい」と強く訴える。

異動しても、劣悪な環境は変わらず

 新人時代は、午前10時から午後10時、昼休みは15分という過酷な環境だった。番組を担当すれば週に2日は徹夜した。それでも「まだもう少しがんばれる」と耐えた。


 入社から1年後には、撮影用カメラなどを扱う技術系の部署に異動。新たな人間関係ができ、何かが変わるかも知れない。わずかな希望を胸に、働き続けたが、状況は変わらなかった。

 女性の訴えに耳を貸さない上司。職場での嫌がらせを見て見ぬふりする同僚たち。パワハラやセクハラを訴える窓口は会社になかった。就職面接でお世話になった総務部の社員に相談したり、上司に直談判したりしたこともある。話を親身に聞いてくれる人はいたが、何も変わらなかった。

「愚痴とか言われると迷惑」

 悩みを共有できる同期もいなかった。同期も過酷な勤務状況だったはずだが、会社での雰囲気は「同期は競争相手」。別々の部署に配属後は激務の中で接する機会もなかった。

 その上、ある同期から呼び出しを受け「おまえが愚痴とかネガティブなことを言うと同期全体の印象が悪くなるから迷惑。同期のためにも絶対に言うな」と言われたことがあり、なおさら相談はできなかった。

 ただ、いくら追い詰められても自殺を考えたことはなかった。心身ともに弱る中でも先輩たちへの怒りや哀れみのほうが大きかった。「自分が死ぬなら、先輩たちに死んでもらいたい。あの人たちは手のかかる子ども。愛情不足な子が、いびつな表現をしてしまうように、この仕打ちも自分への愛なんだろう」。そんな風に思うと、理不尽な言動に触れても少しは心が落ち着いた。

 テレビ業界へのあこがれは強かったが、自分への仕打ちはどう考えても理不尽だと思った。母親から「他の人たちががんばれているなら、もしかしたらあなたにも問題があるかも」とアドバイスされたこともあったが、「自分はこの業界のルールには染まれない」。だんだんと、仕事を辞めることに心が傾いていった。

会社、辞めます

 「俺の時はもっとひどかった」で済ませる上司では話にならない。会社の幹部に直接相談すると、真剣に話を聞いてくれ、「考え直してみて」と引き留められた。

 会社自体が嫌いなわけでも、仕事が嫌いなわけでもない。よくしてくれた先輩たちもいる。それでも「このままだと失うもののほうが大きい」と、退社を決め、幹部に伝えた。それから3カ月は、撮影現場の仕事も続けながら本社で退社への事務手続きや幹部との話し合いを重ねた。

過酷な体験を語った女性

過酷な体験を語った女性

退社 開放感しかなかった

 入社から2年。手続きを終え、ついに退社の日を迎えた。送別会はなかった。「お疲れ様。これからも頑張って」。幹部にねぎらわれ、本社の建物から出ると、開放感が胸にわき上がった。「ここから人生が始まるんだ」。

 その日は実家で家族とともに食事した。移動中やトイレの個室で食事をかきこんだ日を思い出すと、家族とのんびりすごす時間がうれしくてしかたなかった。「こんなに早い時間に夕食が食べられるなんて」。

 今は親からの支援と貯金で学費を払い、大学院で学び直しながら、就職先を探している。勤めていた会社のそばを通ることもあるが、窓からもれる明かりを見ると「もうあそこに戻らなくていいんだ」と嬉しくなるという。

選択肢ある 人生絶たないで

 30歳も近づき、この先の不安がないわけではないが、「悔いはない。辞めることは逃げることじゃないと思う」。大学時代は、「お金も稼ぎたい。すごい仕事をしていると思われたい」という気持ちもあったが、今は違う。企業の知名度や給与にとらわれず、自分らしく働ける新しい職場を見つけたいと思っている。

 もしも、あのままだったら限界を迎えていた。がんばり続けて心を病んでしまった同業者も見てきた。テレビ業界全体が悪いとも、会社が悪いとも思わないが、過酷な職場があるのも現実。他人事と思わず、もし自分だったらと置き換えて、周囲への優しさを持ってほしいと願い、今回は取材に応じてくれた。

 友人に会うと、顔つきが前のように戻ったと言われるといい、「今は本当に幸せ。自分を取り戻せた気がする」と晴れ晴れとした表情で話す。だからこそ、電通の新入社員の過労自殺のニュースを見た時は胸が痛んだという。

 「私は自分を責めすぎずに、相手がおかしいのではと思えたけど、真面目な人ほど自分を責めてしまうんだと思う。会社のためになんか死なないで。仕事は続けることが大事なんじゃない。自分らしく生き生きと働けないと、大切なものを失う。お願いだから、人生を絶たないで、別の選択肢があることも、考えてほしい」

電通の過労自殺問題は、厚生労働省の強制捜査にまで発展した=7日午後4時9分、東京都港区、時津剛撮影

電通の過労自殺問題は、厚生労働省の強制捜査にまで発展した=7日午後4時9分、東京都港区、時津剛撮影

出典: 朝日新聞

1人で悩まず相談を

 新入社員や若手社員などは社内での立場も弱く、悩みを一人で抱え込んでしまうことも多い。過労死等防止対策推進法が2014年に施行されたことなどを受け、仕事上での人間関係や長時間労働の悩みなどの相談に、社会保険労務士や保健師、臨床心理士らが対応する電話窓口を厚生労働省が設けている。

 同省によると、2015年9月の開設から半年で約3千件の相談が寄せられたという。

 「こころの耳電話相談」(0120・565・455)で、受付日時は月・火曜日の午後5時~午後10時と、土・日曜日の午前10時~午後4時(祝日、年末年始のぞく)。

過労自殺「死ぬくらいなら辞めれば」ができない理由 体験漫画に共感
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