お金と仕事
「全国の890球場」制覇 達人が選んだ「名物球場」内野席で焼き肉?
「未知の球場」を求め、各地の野球場を巡り続ける男性がいます。元放送作家の斉藤振一郎さん(52)。北は稚内から南は石垣島まで、27年かけて踏破したのはなんと890球場。全国各地の球場を知り尽くした「球場巡りの達人」に死ぬまでに1度は行くべき地方球場を教えてもらいました。(朝日新聞スポーツ部記者・照屋健)
「そうですね。まずは球場マニア的にはベタなところでいきましょうか」。大好きな南海ホークスの黒いジャケットに身を包んだ斉藤さんが悩みながら挙げてくれたのがこの球場です。
■富士北麓公園野球場(山梨県富士吉田市)
テレビ朝日系人気番組「アメトーーク」の高校野球大好き芸人でも紹介された名球場。標高1035メートル。外野後方にそびえる富士山は絶景で、「これにかなう眺めはない。文句なしに『日本一の眺望を持つ球場』です」と斉藤さん。
■市営豊田野球場(長野県中野市)
日本一といえばこちらの球場も負けてはいません。この球場は中堅までの距離が137.7メートル。斉藤さんが把握する限り、「日本一広い球場」です。
プロ野球の規定では中堅までの距離は「約122メートル以上」となっていますが、球場マニアの間で広いといわれる愛知県の岡崎市民球場ですら126メートル。豊田野球場がいかに広いかがわかります。斉藤さんが観戦したリトルシニアの試合では球場が広すぎて二塁打が出まくっていたそうです。
■マドンナスタジアム(愛媛県松山市)
一瞬ドキッとする名前ですが、こちらは愛媛の高校野球の聖地・坊っちゃんスタジアムに隣接するサブ球場。「こんなネーミングセンスは全国でも例がない。松山の人は味があります」
坊っちゃんスタジアムには野球と縁が深い俳人・正岡子規の歌碑や高校野球の展示室もあるといい、まさに「高校野球ファンの聖地」だそうです。
■四国コカ・コーラボトリングスタジアム丸亀(香川県丸亀市)
2015年3月にオープンした新しい球場。この球場の一塁側にはテーブルといすが備え付けられたスペースがあり、なんとバーベキューができるそうです。
ファウルボールが飛んできたらどうなるんでしょう……。
「私は正直、試合に集中しないと選手に失礼な気がして、こういうのは『うーむ』と思ってしまうのですが、そういう考え方は古いんでしょう。野球と人の新しい関係を考えさせてくれる球場です」
■南原スポーツ公園野球場(東京都八丈町)
八丈島空港から徒歩1時間。ライト後方に海と八丈小島が見える風光明媚(ふうこうめいび)な球場です。斉藤さんいわく、景観を重視したのか、球場の向きが通常と違うそうで「フライを捕るときに太陽光が妨げになる」。
帰りの飛行機が欠航になるハプニングがあったそうですが、「スーパーでカンパチの刺し身を買い、ビールを飲んだのが非常においしかった」とのことです。
さてお話をうかがっていて、ふと、気になりました。なぜ、彼はここまで球場に足を運び続けるのか。なにが彼をここまで突き動かすのか、と。
「やっぱり、野球が好きなんですよね。いい試合を見たいという思いだけで、ここまでこられた」
斉藤さんには球場を巡るうえで、必ず決めているルールがあります。それは、写真を撮ることと見た試合のスコアブックをつけること。
「試合を見なければ、レストランまで行ってなにも食べずに帰るの一緒」と斉藤さん。帰りに電車で缶ビールを飲み、スコアブックを眺めるのが最高の楽しみだといいます。
球場巡りの宿命はだんだんと質の高い野球が見られなくなることです。当初はプロ野球や甲子園にも足を運んでいましたが、行ったことのない球場を探すうち、大会の序盤しか使われない小さな球場にしか行けなくなってしまいました。
「でも、それも野球。どんな試合にもドラマがあり、人生がある」と斉藤さん。大谷翔平選手の高校1年の試合を見ていたり、大ファンだった南海・金城基泰投手の面影を残す「金城2世」を宮古島で見つけたり。その楽しみは尽きないといいます。
これまで観戦した試合は約4千試合にのぼり、スコアブックは300冊近くまで達しました。それでも、新球場は次々とでき、まだ行けていない球場はあと100はあるといいます。全部行けるのでしょうか。「全部は無理だと思いますが、死ぬまで、続けたいですよね」
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