地元
新スタジアム「海ポチャ」仕様の理由 フェンス作るより合理的?
ボールが海に落ちる危険がありますので、蹴りすぎにはご注意ください……。試合前にそんなアナウンスが流れそうなスタジアムが北九州市に完成しました。こけら落としとなったラグビーの試合で、早速ボールがスタジアムを飛び越えて「海ポチャ」。さて、このボールどうなっちゃうんでしょうか。(朝日新聞西部本社報道センタースポーツ担当記者・堤之剛)
話題の舞台は、JR小倉駅近くに北九州市が新しく建設した「ミクニワールドスタジアム北九州」(北九州市小倉北区)です。サッカーJ3のギラヴァンツ北九州の新たな本拠地で、約99億円をかけて今年1月に完成しました。
約1万5千人収容で、Jリーグの本拠地としては全国初となる海に隣接したスタジアムです。多くの観客席から源平合戦で知られる関門海峡を往来する船舶が眺められます。
スタジアムのこけら落としは、2月18日にあったスーパーラグビーのサンウルブズ対トップリーグ(TL)選抜の強化試合でした。
後半早々、TL選抜のSO田村熙(ひかる)選手(東芝)が大きくタッチキックすると、ボールは高さ6.5メートルのバックスタンドを越え、海の方向へ。スタジアムに集まった1万1577人の観客からはどよめきが起こりました。
このボールの行方を、北九州市の担当者が目撃していました。ボールは、岸壁から3メートルほどのところに「海ポチャ」。事前にラグビー協会が用意していたゴムボートを使って、ボールは無事回収されました。
「海ポチャ」は選手も意識していました。18日の試合で、このスタジアムでの初めてのトライを挙げるなどして活躍し、最優秀選手(MVP)に輝いたTL選抜の山田章仁選手(パナソニック)は「『海ポチャ』出来なかったのはすごく残念です」と試合後の会見で笑って話しました。
「海ポチャ」の可能性が最も高いのは、岸から3メートルしか離れていない東側のバックスタンドです。試合中にボールが海に飛び込むことは予想されていました。フェンスを高くして防ぐことは可能ですが、海に近いため風も強く、倒れる危険性が出てきます。スタンド近くに柱を数本建てて、ネットを張るという対策も考えられますが、費用がかさむそうです。
北九州市の担当者は「ボールは安いものではない。それに、海に飛び込んだボールを放置しておくのは、ゴミの投棄になる」。考えた末、フェンスを建てて防ぐより、「海ポチャ」したボールを回収した方が費用が安いという結論に。ボールがスタジアムから出た場合、試合の運営主催者に自ら回収してもらうことにしました。
気になるのは、海に浮かんだボールに、簡単にボートで近づけるのかという点。北九州市によると、スタジアム近くは砂津川の河口付近で川から水が流れ込んでいますが、潮の流れが少なく、海面は穏やかだそうです。
同じように海に隣接するスタジアムで有名なのが、大リーグ、サンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地、AT&Tパークです。右翼フェンスの後方がサンフランシスコ湾の入り江で、フェンスを飛び越えて大きな水しぶきを上げる場外本塁打は「スプラッシュヒット」と呼ばれます。
ボールを手に入れようと、ボートなどに乗ってファンが待ち受ける姿は、大リーグ名物の一つです。2001年にシーズン最多本塁打記録となる73本のアーチを放ったバリー・ボンズ選手がジャイアンツに所属していた際に、記念のホームランボールを手に入れようと、ボートやカヌーが押し寄せたのは、まだ記憶に新しいところです。
3月12日、J3北九州は新本拠地で開幕戦を迎えます。スタジアムに集まったサポーターたちは、Jリーグではおそらく初となる「海ポチャ」の目撃者となれるでしょうか。
1/19枚