感動
ツイッター漫画が届けた…涙に寄り添う手紙 杏さん愛読「夜廻り猫」
ツイッターで発表していた漫画家・深谷かほるさんの「夜廻り猫」が、第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞することが決まりました。猫の遠藤平蔵が、夜回りをしながら心の涙をかぎつけ、その涙にそっと寄り添う8コマの漫画です。ツイッターでファンを増やし単行本になった「夜廻り猫」。スマホの画面を通じて共感が広がるSNS時代のマンガの姿が浮かび上がります。
深谷さんが夜廻り猫を描き始めたきっかけは、長男の入院でした。
自宅の階段に猫の絵を飾っていましたが、「その猫の話が読みたい」と言うので、暇つぶしになれば、とA4の紙1枚に描きつけました。
せっかくなら発表しようと、ツイッターでつぶやき始めると「想像以上に反響がありました」(深谷さん)。
2017年3月には講談社から単行本1、2巻が出版され、直後に重版決定。
ウェブコミックの「モアイ」、朝日新聞夕刊やウィズニュースでも連載しています。
「夜廻り猫」の魅力は、どんなところにあるのでしょうか。
講談社の担当編集者は、「常に、弱いひとたちへの優しい目線があるのが、読まれる理由では」と話します。
単行本が出てから、毎日のようにファンレターが来たり、メールで反響が寄せられたりするそうです。
「誰にも言えないことや、苦しいことも、否定しないで受け入れてくれると感じるのではないでしょうか」
また、ツイッターで漫画を発表する手法が広まり、受け入れられるようになったことも人気を後押ししました。
夜眠る前に、ふとスマホでツイッターをのぞいて、夜廻り猫を読む。そんな読み方をしている読者も多いはず。
担当編集者は「『手軽にぱっと見たい』という思いに合致したのかも。ツイッターだからこそ刺さった部分はあるかもしれません」と話します。
手塚治虫文化賞の選考委員で俳優の杏さんは「1ページでここまで膨らませることができるのか、深く想像させてくれることができるのか、と思わせてくれる」と絶賛。
雑誌連載から単行本という流れが多いマンガの世界で、ツイッター発はまだ珍しい存在です。実は、今回の選考では、杏さんが推薦作品に「夜廻り猫」を挙げました。
杏さんは「皆が皆、愛おしい。猫がかわいいなと思って手にとっても、猫達や関わる人々のあたたかさに心がじんとくる」と評します。
選考委員のひとり、漫画家の里中満智子さんは「気がつくと何度も繰り返し読んでいる…… 不思議な説得力あり」とコメントしています。
深谷さんは「手塚作品は、太陽や月のように遥かかなたで輝くもの。漫画表現は、ほとんど全てが手塚先生の遺産で、私も先生から言葉を与えていただいて、今、誰かに漫画という手紙を書くことができるのだと思っています」と言います。
「でも、それも、ちっぽけな葉っぱの手紙のようなもの。太陽や月が見てくれているとは夢にも思いませんでした」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。3月23日、講談社から単行本1、2を発売した。自身も愛猫家で、黒猫のマリとともに暮らす。
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