ネットの話題
オルタナ・ファクトって何だ? 言葉の門番、トランプ政権にダメ出し
辞書会社に真意を聞きました。
【ネットの話題、ファクトチェック】
"alternative facts"(オルタナ・ファクト)。直訳すると「替わりの事実」という意味の言葉が今、ネット上で注目されています。きっかけは、アメリカのトランプ大統領就任式での、報道をめぐるいざこざ。政権側から、この言葉が飛び出しました。それに対し「替わりの事実はない」とダメ出しをしたアメリカを代表する辞書会社の投稿は、「言葉の門番」の"ダメ出し"として4万8千リツイートされました。トランプ政権の言葉を、私たちはどう読み解けばいいのでしょうか。ツイートをした辞書会社や専門家に聞きました。
1月20日にあった大統領就任式。観客数について米メディアが「過去最少だった」と報じたところ、トランプ政権が猛反発しました。ホワイトハウスの情報を一手に発信するスパイサー報道官は、根拠を示さぬまま「観客は過去最多だった」と述べました。
スパイサー氏の発言について、米メディアは一斉に反論。2009年のオバマ大統領就任式の写真と比較して、報道官発言が虚偽であることを示しました。
問題の言葉は、ここで登場します。報道官の発言後、米NBCテレビの討論番組「ミート・ザ・プレス」に出演したコンウェイ大統領顧問、選挙期間中は選挙対策本部長を務めた「大物側近」ですが、次のような発言をしたのです。
司会「報道官はなぜ、ウソだとすぐにバレるような発言をしたのですか?」
コンウェイ氏「ウソではなく、彼はalternative factsを示したのです」
思わず、司会はこう切り返しました。
「『替わりの事実』っていうけれど、『替わりの事実』は『事実』ではない。それはウソじゃないか」
"Alternative facts are not facts. They are falsehoods," Chuck Todd tells Pres. Trump's counselor Kellyanne Conway this morning. WATCH: pic.twitter.com/Ao005dQ13r
— Meet the Press (@MeetThePress) 2017年1月22日
この"alternative facts"という言葉に、ツイッターの利用者が激しく反応しました。政権を皮肉る意図も相まって、「ウソ」という意味で使われ始めています。日本語で「#オルタナファクト」というハッシュタグもできました。
さらに、米国を代表する英語辞書「メリアム・ウェブスター」のツイッターアカウントが「事実とは実際に存在するもの、あるいは客観的に本当であるもの」とツイート。"alternative facts"という言葉を否定するものとして、4日間で4万8千回以上のリツイートを集めて、広がりました。
📈A fact is a piece of information presented as having objective reality. https://t.co/gCKRZZm23c
— Merriam-Webster (@MerriamWebster) 2017年1月22日
「言葉」の門番であるメリアム・ウェブスター社(マサチューセッツ州)。ツイートの真意を尋ねたところ、マーケティングディレクターであるメーガン・ランギ氏からメールで回答がありました。
ランギ氏は「政権の発言に答える立場にはない」としつつ、こう答えてくれました。「多くの人がトランプ政権に対しての関心と怒りを持っている。だからこそ多くの言葉がトレンド入りして、私たちのツイートに対して幅広くリツイートされたのだろう」。
メリアム・ウェブスター社では2010年から、ツイッターで話題になっている「言葉」の意味を示すツイートをしており、今回もその一環だったとのこと。
トランプ氏に関する言葉だと他にも、"carnage"や"claque"という言葉についての意味も示しています。
"carnage"は「殺戮(さつりく)の後の惨状」という意味で、就任演説でトランプ氏が使いました。"claque"は「さくら」という意味で、トランプ氏が米中央情報局(CIA)を訪れた際、実際に拍手をしていた職員は雇われた「さくら」だったという指摘がなされており、注目を集めているようです。
誤った発言を「替わりの事実」と強弁する、トランプ政権高官。「今年の単語」として2016年、オックスフォード英語辞典が選んだ「ポスト・トゥルース」も頭に浮かびます。
「真実の後」というこの言葉。客観的な事実よりも、感情に訴えることの方が影響力がある状況を意味しています。様々な情報が発信され、中には真意や出どころのはっきりしない発言やニュースも混じっている現代社会において、情報の受け止め方も難しい問題です。米国政治について詳しい前嶋和弘・上智大教授に聞きました。
前嶋教授はまず、「アメリカではトランプ政権を称賛している『トランプ支持者』が多数いるのは事実。残念ながら政権は、ウソでもそれを言い続ければ、それが真実だと思わせることができると信じているのでしょう」と分析。「アメリカを含めた全世界で『ポスト・トゥルース』がはびこり、鳥肌が立つような怖さを覚えます」と、その危うさを教えてくれました。
また、人々の情報の取得の仕方についても「SNSが発達した現代社会で、我々は自分の好むニュースしか目にいれなくなりがちで、トランプ大統領はそこを上手に利用しています」と解説。「既存メディアへの信頼度が低下していて、メディアを攻撃すればするほど喜ぶことをよく分かって、『偽ニュース』とのレッテルを貼っています」と読み解いてくれました。
「米国の状況は深刻で、人々がきちんとリテラシーを身につける必要があります」と話す前嶋教授。一方でそれは、私たち日本人にとっても同じことと指摘します。
「政権でもメディアでも、発信した情報が本当に正しいのかを疑いましょう。可能な範囲で複数の事実と照らし合わせたり、ネットで検索したりするだけでも、全然違うかもしれません。できることから始めてみることが、リテラシーを身につける一歩です」
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