連載
#3 辺境旅
宇宙船の帰還、どうやって撮影? ちっさいカプセル追って大草原疾走
今年は、日本人宇宙飛行士の大西卓哉さんが、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在、多くのミッション遂行という、うれしいニュースがありました。その大西さんが地球に戻ってきた地が、中央アジアのカザフスタンです。ロシアの宇宙船ソユーズ帰還のたびに目にする光景ですが、実際に取材に向かうと、想像を超えるスケールの大草原。一方、目的のソユーズといえば、そのカプセルは感動するほどの小ささです。偉大な小ささに向けてシャッターを押しました。(朝日新聞映像報道部・竹花徹朗)
長い道のりを越えて目的にたどりつき、撮影できるのは一瞬。報道カメラマンの宿命です。ソユーズ帰還の撮影がまさにそのいい例でした。
国際宇宙ステーション(ISS)に滞在していた宇宙飛行士の大西卓哉さんの帰還を取材するため、10月下旬にカザフスタンに向かいました。成田空港を出発してロシア・モスクワを経由、中央アジアのカザフスタンの真ん中あたりにあるカラガンダまで2日ほど。着地地点に近い街とのことでしたが、そこからの道のりが本番です。
今回のソユーズ帰還では、日本のメディアだけが現地での取材ツアーに参加していました。案内役はロシアの旅行社です。着陸地点までは約500キロ。総勢20人ほどが車に分乗し、約10時間、無舗装の草原を走るという行程です。
現地で用意されていた車のほとんどが日本メーカーのオフロード車でした。通訳の方に聞くと、カザフスタンでは壊れにくい日本車への信頼が圧倒的に高く、特にオフロード車は大人気だそうです。
道中、ユニークな「儀式」に参加しました。草原で事故が起きないための験担ぎに、ツアー会社のロシア人が皆でウォッカを飲もうというのです。
誰かがスピーチをしては1杯。互いの偉大さをたたえて、また1杯。その繰り返しで、ショットで言えばトリプルは優に超えるであろう酒を、紙コップで数杯飲み干すことになりました。おかげで草原を揺れながら爆走する車内でも爆睡でした。
早朝に出発し、着陸予定地点の近くに到着した時には辺りは真っ暗に。その夜は車中泊をして大西さんの帰りを待ちました。
そして迎えた朝、9時過ぎに大西さんを乗せたロシアのソユーズ宇宙船は青空の広がる草原に姿を見せました。ここから写真を撮る仕事がやっと始まります。
「ドン、ドン」。パラシュートの開く大きな音がして、見ると大きな傘の下にソユーズの帰還カプセルがぶらさがっています。待ち受けていた一行から「おー」と大きな声が上がります。
着陸予定地といっても、その範囲は広大で、まるでクラゲのように揺れながら地上に近づいてくるパラシュートを追って、車を走らせます。
でこぼこ道を15分ほど走ったでしょうか。多くの人に囲まれ、機体は「気をつけ」の姿勢をしたように、まっすぐ降りたっていました。
宇宙空間から地球への突入時の高温のせいで機体は黒く焦げて、そばに立つと臭いが鼻をつきます。「よくこれで帰ってきたなあ」と、まず思ったくらい、3人の飛行士を乗せて宇宙から帰還したという偉業に対して、その姿はとても小さいのです。
現場に集まったロスコスモス(ロシア連邦宇宙局)のスタッフが、カプセルの上部にハシゴと滑り台をセット、まずは機長が運び出され。2人目に大西さんが笑顔で出てきました。今回の取材のハイライトとなった場面でした。
一瞬を逃すまいとシャッターを切るカメラマンに対し、ロスコスモス側は、作業の合間にスマホでソユーズの記念写真を撮るなど、なごやかです。終始誇らしげな表情なのも印象的でした。
大西さんの雄姿が現れてから、医学検査のためにテントへ入るまでの撮影時間は約10分。新聞紙面に載った大西さんが笑顔で関係者に抱えられる場面に限っていえば、撮影時間は約16秒間でした。
この記事は12月10日朝日新聞夕刊(一部地域11日朝刊)ココハツ面と連動して配信しました。
1/24枚