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SMAP「37万人署名」の拠点に潜入 「数は力」大人買いCDの行き先は?
年内での解散を発表しているSMAP。「あきらめたくない」と、グループの存続を求めて37万人の署名を集めた熱いファンの拠点を取材しました。解散報道以来、朝日新聞社にも連日投書が届きますが、「彼らを救って」「真実を明らかにして」といった内容が多く、その悲痛な思いとエネルギーに驚かされるばかり。実は署名活動の拠点は関西。手書き署名にこだわり、CDの大量買いなどかなりの資金も投入しています。なぜそこまで、という<謎>の理由を聞きました。(朝日新聞文化くらし報道部・滝沢文那)
国民的アイドルの地位を築いたSMAPですが、今回の署名活動の拠点は首都東京ではなく、関西だったのです。
活動の内容は「私たちは2017年以降もSMAP5人がグループとして活動を続ける事を強く希望します」という呼びかけで、直筆の署名を集めています。宛先は、事務所の幹部とSMAPメンバーです。
「誠実に話を聞いてくれるなら」と取材をOKしてくれたのは、「5☆SMILE~SMAP存続とグループ活動の継続を願う会~」の代表、木村恭子さん(46)。大阪在住の会社員です。
「東京のメンバーもいますが、関西の方が熱い。地方のファンは、テレビを見る以外、基本的に5人のそろうコンサートでしか生の姿に会えません。だから、解散されたら困るんです」
「東京の人たちは、番協(番組協力の略。ジャニーズファン特有の言い回しで、ファンクラブ会員が参加できる番組収録の観覧のこと)だったり、ロケだったりで普段からチャンスがある。そっちを守る方が大事で、グループが解散してもしょうがないという人も多いみたい」
手書きの署名を郵送で集めるという方法は、時間も手間の面でも非効率に思えます。でも、違いました。
署名の集計は、兵庫県尼崎市内のアパートの一室で行われていました。取材した日は20~40代の女性たち10人ほどが、サークル活動のように、わきあいあい。ツイッターの呼びかけをきっかけに集まった70人が「5☆SMILE」を支えています。もう1人の代表、主婦の田辺明恵さん(48)が部屋を提供しているんだそう。
至るところに積まれた署名の束、その数は11月28日現在37万筆以上です。中国、香港、ブラジル、米国など、世界各地からも届いています。
SMAPが活動を始めて四半世紀以上がたちました。同時代を生きて、歌にドラマに親しんだ人は多い。今回の署名では、解散を残念に思う一般の人が参加しやすいようにしたかったといいます。それが、手書き。
60代以上の女性も多く、手間はかかっても、気持ちを込めて草の根的に広げられるところが受け入れられたのでは、と代表の木村さんは分析していました。
何を求める署名にするかをめぐっては、やはり激論が交わされていました。
「活動存続」ではなく「解散撤回」という言葉を盛り込みたいファンは実際に多く、さらに過激な人も。激論の結果、「SMAP存続とグループ活動の継続」という表現に落ち着いたものの、こうした過程で「5☆SMILE」から離れていった解散阻止派も多かったようです。
ツイッター上では「本人たちが解散したがっているのに、止めるなんて自己中心的では」という意見も目に付きます。
木村さんは「いままでずっとやってきた40代の大人、働き盛りの男性が、多少仲が悪いからって解散って、そんなバカなことはないですよ」と主張。田辺さんも「なんの根拠もなくって言われたらそれまでですけど、20数年ずっと聞いているからわかるんです」。
解散発表時にSMAPのメンバーはFAXでコメントを発表しましたが、記者会見などで直接解散について語ったことはありません。そのことがファンのみなさんの疑問にも希望にもなっている。ただ、ただ、深い愛を感じました。
コンサート、CD購入、雑誌の切り抜き、番組の録画といった基礎的なこと以外にも、ファンの活動は幅広いようです。
自分の応援するメンバーが広告していたり、出演番組のスポンサーだったりする企業の商品を、みなさん徹底して買ってました。例えば、草彅さんファンの木村さんは「しょうゆはヤマサ」と決めています。草彅さんがCMに出演しているヤマサ醬油の「昆布ぽん酢」だけでなく、「しょうゆは全部ヤマサ」なんだとか。「『1本満足バー』なんて家にどれだけあるかわからない」とも。
その点、「木村君のファンは、単価が高くて大変」らしいです。確かに、木村拓哉さん出演のCMといえば、タマホームにトヨタ、日本和装……。「知り合いにタマホームで家を建てたファンがいる」というので驚きました。コンビニはセブンイレブン、自転車保険はJA共済などなど、同じ原理に基づいて選んだといいます。
田辺さんは、「スポンサーとの契約を切られないんじゃないかっていうのがあるので」と説明します。
代表曲「世界に一つだけの花」のCDを購入する「花摘み」も話題に。1人で数十枚購入していると言います。
実際、14年前にリリースされたこの曲が、オリコンのチャートで上位になる現象まで起きました。「家に積み上げて楽しんでる人もいるけど、私は久しぶりに会った同級生とかに配っています」と木村さん。田辺さんも、「署名してくれた友達の友達とか、下手したら顔も知らない人に渡している」。
ただし、旦那さんの稼いだお金を「SMAP活動」には充てないのが田辺さんのプライドで、パートの収入でまかなっているといいます。
だんだん、わかってきました。
次に数字です。買うことだけではありません。テレビ局やラジオ局に感想や意見を、スポンサーには起用してくれた感謝を書いてはがきやメールを送るのは普段からですが、解散発表後はさらに活発に。東京新聞の一口広告もデビュー記念の9月9日にはファンの声で埋め尽くしました。
他にも、番組の感想をツイッターでつぶやいてリアルタイムで番組を見ていることをアピールしたり、関連するサイトのアクセス数を増やしたり…。
大事にしているのは、目に見える結果や数字です。署名を集めることも「数って、細工されないかなっていうのもありますよね」と田辺さん。「これだけの人が思いをもっていることを示せるでしょ」
首長のリコール署名などとも違って、法的な拘束力はありません。困難と知りつつ、行動するにはもうひとつの理由がありました。
ファンの一部が怒りを向けるジャニーズ事務所に対しても、「5☆SMILE」のメンバーは「言いたいことはあるけど、ジャニーズあってのSMAPというのは間違いない」という見解でした。
新聞社に届く手紙やネット上のファンの声では、「本人たちは解散を望んでいない」「無理やり解散させられる」といった意見も多いのですが、事務所に対しては、あくまで「お願いする立場」だそうです。
草彅剛さんのお茶の間ファンだった木村さんが本格的な活動を開始したの15年ほど前。離婚して落ち込んでいたときに、妹さんからコンサートに誘われ、「ライブの一体感、空間が、もう楽しくて」。
「今は人生のほぼ、すべてです」。「もし彼らがもう一度SMAPをやりたいと思ったとき、帰ってきてもいいんだよというメッセージを送りたい」
田辺さんは、「願いなんです。例え一回解散という形になっても、その先のアザーサイド(『Otherside』=2015年9月リリースの現時点でのSMAP最新曲)で実を結ぶ。SMAPが求められていたことが、彼らの中に絶対に残ると思う」
「なんだかすごい熱量だった」というのが率直な感想です。一人東京へ戻る私のかばんには、勢いに押されて受け取ってしまった「世界に一つだけの花」のCDと「1本満足バー」が入っていました。
木村さんたちは、この署名を、ファンクラブを運営する東京都渋谷区の「ジャニーズファミリークラブ」に運んで手渡すつもりでした。クラブ側は10月に移転し、これまでファンレターなどを直接受け取っていた窓口が休止しているので、郵送するよう求めています。
ジャニーズファミリークラブは朝日新聞の取材に「他のファンレターと同様、郵送であれば受け取る」と答えました。木村さんは、「多くの人の思いがこもった特別なもの。直接受け取ってほしい」。引き続き直接渡せる方法を模索しています。
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