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電通不正が暴露した「業界の悪しき体質」 ネット広告の革命児が語る
表示させていなかった広告の料金を請求した電通のネット広告不正はなぜ起きたのか。商社から大手広告会社を経て独立した加藤公一レオさんは、費用対効果を考えずイメージだけで勝負してきた広告業界の体質に原因があると指摘します。「ネットはすべて数値化される。逃げ場がない。でもそれが本来の広告」。不正問題が明らかにした「既存のカルチャーをぶっ壊すインパクト」について聞きました。
ブラジル生まれ、アメリカ育ちの加藤公一レオさんは、日本の大学を卒業後、三菱商事に入社します。その後、大手広告会社のアサツーディ・ケイ(ADK)に転職。2000年に独立し「売れるネット広告社」を立ち上げました。ちなみに名前は本名です。
広告会社時代から加藤さんは一貫してネット広告を究めてきました。「広告といえばテレビ、マスだった時代。まわりからは変な目で見られていたでしょうね」。勝負するのは、数字が求められる通販業界。効果の高い広告を数字に基づいて決める「A/Bテスト」などを駆使して、実績をあげてきました。
現在は、ヤフーのようなポータルサイトなどに、バナーと呼ばれる広告の枠を効率的に表示させるコンサルティングの会社として、全国の大企業を顧客に抱えています。
「うちのお客さんなら半日で気付きます」
表示させていなかった広告の料金を請求した電通のネット広告不正について、加藤さんは、そう言い切ります。
通常、ネット広告は管理画面を使って最新の状況を確認しながら、表示させるサイトを考えていきます。実際に作業をするのは広告会社の担当者ですが、お金を出している広告主である企業にとっても、管理画面の数字は重要です。
「管理画面を見せていなかった。理由はそれだけです。うちは必ず見せます。だから、急に数字が落ちれば『何があったんだ』と思って企業側も連絡してきます」
なぜ、管理画面を見せない広告会社が多いのでしょうか。加藤さんは、電通のような大手を中心にした広告会社の体質に問題あると言います。
「大手広告会社は、広告とはブランディングという企業の認知度を上げることが目的だと言ってきた。広告は直接、物を売る場ではないと。だから数字に対する意識が低かったんです」
そんな体質に対し、加藤さんは異を唱えます。
「この広告でいくら売り上げが伸びますか? そう言われて答えられる広告会社がどれだけいるか。でもそれって変じゃないですか。売り上げに貢献しないなら、広告費を社員の給料にまわすべきですよ」
認知度を上げるという考え方は、主にテレビ広告のスタイルで強く出ているそうです。
「一番最後にロゴが出てこないと、結局、どこの広告かわからないCMってありますよね。何の意味があるんですか、あれ? 広告会社のクリエーターの趣味で作っているんじゃないかって」
加藤さんが問題視するのが、費用対効果がブラックボックスになっていることです。
「広告会社にとって、費用対効果を求められるのが一番、つらい。だから、効果測定を『ブランディング』という名のブラックボックスにしてそれを維持した。数値目標は企業の宣伝担当にとっても、たいへんだと感じるかもしれない。逃げ場がないから。だから、両者がブラックボックスをそのままにしてきた」
それでも、加藤さんは、数字に向き合うべきだと訴えます。
「広告費って従業員が必死になって稼いできた『命のお金』なんですよ。貴重なお金を使う以上、お客様のアクションを測る指標を作って健全化しないといけない。その認識がないから、管理画面の共有をせずに、広告会社がまとめるリポートで済ませてしまう。リポートと生の数字である管理画面、両方見ていれば不正なんて起こりようがないのに」
ネット広告でのブランディング効果は、インプレッションという広告が画面に表示された回数で測られます。表示されれば「その広告を見た」と考えるやり方です。
ただ、ネットの画面だと、様々な情報が同時に現れるので、「表示=見た」と言えない場合もあります。テレビCMや新聞の全面広告ならば、広告以外の情報は視聴者や読者の目に入りません。でも、ネットだと、記事の間に広告がはさまったり、画面の右上に広告が出たりするので、「見た」という判断がしにくい構造になっています。
加えて、ネット広告の多くは、アドネットワークという様々な企業の広告を集約して、企業が出したいページに振り分ける仕組みを通じて表示されます。そのため、広告を出せば掲載されたかどうかわかるテレビや新聞と違って、管理画面を見なければ、表示結果を把握するは困難です。
ちゃんと広告がユーザーに届いているかどうか、より詳しく調べるには、表示されたバナー広告をクリックした数や、広告を表示してクリックしてもらい商品購入するまでにかかった費用(CPA=Cost Per Acquisition)を分析します。
加藤さんは、最低でもクリック数を計測するべきだと主張します。
「本来はCPAがすべてです。厳しい世界ですが、広告を担当しているメンバーにもプライドがあります。デザインに問題があるなら『すぐ作り直します!』ってなるし。表示させている媒体が原因なら『出し先、変えます!』ってなる。そして、クライアントの企業に『うまくいきました!!』って報告する」
「全員が費用対効果を最大化させるために知恵を絞る。そういうチームプレーがあれば、不正なんて起きません」
加藤さんによると、日本のネット広告に大手が参入してきたのは最近のことだそうです。
「日本では最初、費用対効果を重視する通販会社しかネット広告を積極的に出さなかった。なぜなら、大手広告会社は大企業にもうけが大きいテレビCMを売り込んで、ネット広告に見向きもしなかったから」
その風向きは5年ほど前から変わってきたそうです。
「新聞や雑誌、ラジオなどそれまでのマス広告の存在感が小さくなり、大手広告会社がネット広告に本気になってきた。ところが、ブランディング重視や、費用対効果を考えない体質も持ち込んでしまった。そのひずみが今回の不正となって現れたと思います」
加藤さんは、独立前、クライアントの会社を「つぶしたことがある」と明かします。
「26歳ころです。ものすごい予算を使って広告を打ったけどうまくいかなかった。クライアントの従業員は解雇です。広告って、会社をつぶすこともあるんです」
ネット広告を巡っては、電通のデジタル・アカウント部でネット広告を担当していた新入社員が過労の末に自殺した問題も起きています。
「たしかにテレビ広告に比べれば厳しい世界です。でも、テレビほどもうからないだけで、まったくもうからないわけではない。一連の問題によってマイナスなイメージが広がってほしくない。だって、これからネット広告は、ますます人々の生活に欠かせない存在になるんですから」
オフィスは赤一色で、ファッションも個性的なキャラクターの持ち主ですが、加藤さんの言っていることは直球です。そんな人柄から、ネット広告の国内最大級の展示会「アドテック」の人気スピーカーを決めるイベントでは、何度も1位になっています。
「広告業界にあったブラックボックス。それをネットがぶっ壊した。でも、広告ってアートでもエンタメでもない。本来の形になったと思います」
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加藤公一レオ(かとう・こういちれお) 1975年、ブラジル・サンパウロ生まれ。アメリカで育ち、西南学院大学を卒業後、三菱商事入社。大手広告会社のアサツーディ・ケイ(ADK)などを経て、2010年に売れるネット広告社を設立。
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