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カプコン10年ぶり「乙女ゲーム」の新境地 ありのまま受け入れる世界
「モンスターハンター」や「バイオハザード」などの人気作を抱えるカプコンが、10年ぶりに乙女(女性向け)ゲームを発表しました。幽閉されたイケメンと仲を深めていく異色の内容が話題となり、iPhoneやAndroid向け有料アプリランキングで1位を獲得。開発チームが考え抜いたのは、プレイヤーの女性に「リアルな胸キュン」を体感してもらう方法だといいます。乙女ゲームとは縁遠い男性たちにも参考になりそうな、胸キュン術を教えてもらいました。
開発チームのゲームデザイナー、白鳥有葵(ゆうき)さんは「久々の乙女ゲームのプロジェクトで、ノウハウが社内でも失われていました」と振り返ります。
開発チームは十数人のうち、約7割が女性。目指したのは、男女の一対一の濃密なコミュニケーションをゲームで再現することでした。不慣れな分野で予算も限られる中、約3年をかけてつくりあげたのが、限定された舞台の中で展開される、囚われの身の男性との恋愛ゲームでした。
こうして8月末に配信した、スマホ向け有料ゲーム「囚われのパルマ」の舞台は、孤島にある転地療養のための収容施設です。プレイヤーは主人公の女性相談員となり、記憶を失い心を閉ざしている青年ハルトと仲を深めていきます。ただ、ハルトは殺風景な部屋に閉じ込められ、会える機会はガラス越しの面会だけです。スマートフォンのガラスを、面会室のガラスのように感じられる画面構成になっています。
最初の面会では、主人公が「はじめまして・・・」と話しかけても、ハルトは無言。しかし表情や体の動きで、緊張や不安が伝わってきます。
スマホ画面をタップして、面会室のガラスをたたいてみます。
ハルト「・・・聞こえてる。」
画面に現れる選択肢から、話しかける言葉を選びますが、ハルトは無愛想なまま面会は終了。しかし部屋に帰り、携帯端末でメッセージを送ると、少し気を許してくれたのか、こんな一言が返って来ました。
ハルト「面会では悪かった。怒っていたわけじゃないんだ」。
白鳥さんは「開発にあたり女性メンバーで、どんなときに胸キュンするのか、徹底的に話し合いました。たとえば突然彼が『君が好きだって言ってたやつ、買ってきたよ』とプレゼントをくれたら、ものすごく嬉しいですよね。前に私が言ったことを覚えていてくれたのって」。
そこで面会やメッセージの中には、プレイヤーの好みや経験などを知るための選択肢が、いたるところに仕込んであるといいます。
それらはゲーム内でさりげなく生かされます。
「プレイヤーが犬が好きだと選ぶと、ハルトくんは『あ、犬好きなんだ』という返答だけで終わります。でも、そこから時間がたって、別の話でたまたま犬の話が出てきたら『きみ、そういえば犬が好きって言ってたよね』って返してくれるんです。こういうちょっとした会話に、ときめくことってありますよね」
もう一つが、心理学者ユングが提唱した「タイプ論」を応用した、プレイヤーの性格分析です。ユングのタイプ論では一般的に、人間の性格を「内向的」「外向的」など、様々に分類して分析します。
囚われのパルマでも、ハルトへの言葉の選び方で、プレイヤーがどのような性格傾向にあるかを分析しているといいます。
「現実でも、人と話をする時にその相手によって言葉を選んだ経験があるかと思います。ハルトくんも同じで、会話の中で相手の性格を見て、プレイヤーが周りに気を使う人だと思えば、ゲーム内で悩んでいる主人公に『君は周りに気を使うからなんだね』と、言葉をかけてくれる。プレイヤーの性格を理解して、共感する言葉をどう返してあげるかというところに、こだわりました」
恋愛ゲームでは主人公の選択によって、相手からの好感度が変わり、恋が成就するか左右されるものが多くあります。
しかし、囚われのパルマでは「好感度を設定せず、会話のやりとりに正解も間違いもない設計にしました」(白鳥さん)。
実際、ゲーム内では「コミュニケーションに正解なんてものはないんだよ。だから、必ず本当の気持ちを選んで送ってね」とアドバイスが表示されます。
会話の選び方によって、ゲームオーバーになったり、ハルトから嫌われたりする心配を排除。白鳥さんは「今までのゲームの多くは、攻略する相手の好みにプレイヤーが合わせてしまいがちでした。そこを『囚われのパルマ』では、プレイヤーのありのままの姿を受け入れるゲームを目指しました」。
毎週連ドラのように追加されるストーリーのほか、特別なシチュエーションの面会も有料配信されています。
作り込まれた異色の胸キュンゲームは、どこまで人気を広げるでしょうか。
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