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祖母の手作り弁当をトイレに…女子高生の葛藤描いたweb漫画が書籍に
無料WEBサイトで公開された漫画「良い祖母と孫の話」が、小学館クリエイティブから書籍化されます。
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無料WEBサイトで公開された漫画「良い祖母と孫の話」が、小学館クリエイティブから書籍化されます。
「完璧なラストに衝撃を受けた」「吐き気をこらえながら読んだけど声を出して泣いた」と話題になった、無料WEBサイトで公開された漫画「良い祖母と孫の話」。祖母の手作り弁当を学校のトイレに捨てる高校生の葛藤と成長を描いたこの作品が、小学館クリエイティブから書籍化されます。出版に至るまでの経緯や、完成するまでの苦悩を、作者の加藤片さん(25)に聞きました。
無料WEB漫画サイト「電脳マヴォ」に掲載された、全4話からなるこの作品。作者の加藤さんは、企業で働きながら漫画を描いています。
ストーリーは、主人公の高校生「しょう子」と祖母の関係を中心に描かれています。同居することになった祖母が毎日お弁当を持たせてくれますが、しょう子はそれを学校のトイレの便器に流し、菓子パンを買って食べています。
ある日、入れ忘れた箸を学校に届けにきた祖母に、菓子パンを食べているところを見つかります。祖母は、気づかなかったふりをして接しますが、次第に二人をとりまく環境や心情が変化していきます。
感情をぶつけるのが下手で、表面上は取り繕いながら生きているしょう子。認知症になった祖母との交流を描きながら、正反対のように見えた祖母と自分が重なったり、学校での変化があったり。そして、ラストシーンでお互いの感情が交差します。
この作品がwithnewsで取り上げられると、電脳マヴォに複数の出版社から書籍化の申し出が寄せられたそうです。
小学館クリエイティブのコミックス編集を行う子会社「アイプロダクション」の頭根宏和さんは、職場で第4話を読み、周りに気づかれないよう涙を必死にこらえたといいます。
「正直な話、第3話までの段階では書籍化は難しいと思っていました。それに、うちの部署はエンタメ系の出版物が多いこともあって、うちからは出せないなと。でも、素直に『家族をテーマにしたこの作品の感動を、多くの人に伝えたい』と思ったんです」
社内会議で上司を説き伏せてコンペを勝ち抜き、小学館クリエイティブからの出版にこぎつけました。
職業としての漫画家になる誘いを断って、仕事と漫画を両立させる道を選んだという加藤さん。作品が完成するまでの経緯や、書籍化が決まったことについて話を聞きました。
――この作品ができるまでについて教えてください
「電脳マヴォの竹熊健太郎さんが、多摩美術大学で漫画について教えていて、友達から『作品を持ち込んだら見てくれるらしいよ』という話を聞いたんです。私は別の大学に通っていたのですが、初めて描いた漫画『良い祖母と孫の話』のオリジナル版(第1話のみ)がネット上で好評だったので、竹熊さんに感想をもらおうと持ち込みました」
――竹熊さんの反応は
「じっくり読んでもらえて、『問題提起で終わっている。続きが読みたい』と言われました。そこからオリジナル版をリメイクして電脳マヴォに掲載し、第4話まで描きました」
――4話目を公開するまでに2年ほどかかっています。2話目以降を作る上で苦労した点は
「はじめからラストシーンは決めていました。1話目でしょう子の葛藤を描ききっていたので、その後に何を描くかに悩みましたが、2話目の見開きについて、竹熊さんから『これは物語を象徴する場面だ』と言われて、少し楽になりました」
――どんな場面ですか
「のちに認知症の兆しが表れてくる祖母が、手押し車を押しながら坂を下るシーンです。反対側からは親子連れが坂を上っています。家の近くの坂を特別意識せずに描いたつもりだったんですが、竹熊さんから『人生の坂をひとりで下り始めた祖母と、これからを生きる若い世代の対比。ここからの展開がこの一コマに凝縮されている』と褒められました」
――竹熊さんと議論になったことは
「当初は3話で完結させようと考えていたのですが、竹熊さんから『おばあちゃんの話とちゃんと向き合っていない』と言われました。私は悲劇ではなく、しょうこ子の成長を描きたかったのでカチンときましたが、納得する部分もあったので書き足しました」
――オリジナル版を出した段階で「漫画家にならないか」と大手出版社から誘いがあったそうですね
「オリジナルの書籍化ではなく、新しい話を描かないかと誘われました。ちょうど就活も終えて、ほぼ内定が決まっていた時期でした。めちゃくちゃ迷いましたが、漫画を描く能力もなく連載は難しいだろうと考えていたので就職しました。漫画は仕事をしながらでも描けるという思いもありました」
――今回、書籍化が決まったことについては
「書店で並べてもらえるレベルになったのかと達成感があります。紙の漫画を読んで育った世代なので、長年の目標がかないました」
――ネットと紙の違いについては
「今までと違う出会い方をしてくれる人がいて、これまでと違う反応があったらうれしいです。でも、紙になって値段がつくので、辛辣な意見が寄せられないかと心配でもあります」
――これからの活動については
「良い孫と祖母の話は、震災後に言われた『絆』や、善や偽善といった自分の中の疑問をはき出して作りました。私自身はキラキラしたエンタメっぽい作品が好きなので、そういったものにも挑戦していきたいと思っています」
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