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2016年08月31日

いじめ、勇気を持って逃げて 奥田愛基を突き動かした鴻上尚史の言葉

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鴻上尚史さん(右)と奥田愛基さん=竹谷俊之撮影

鴻上尚史さん(右)と奥田愛基さん=竹谷俊之撮影

 夏休み明けの9月1日は、子どもの自殺が突出して多いとされています。学生団体「SEALDs」創設メンバーの奥田愛基さん(24)は、中学時代にいじめを受け、一時は死も考えたそうです。そんな奥田さんが立ち直るきっかけとなったのが、劇作家の鴻上尚史さん(58)が執筆したあるコラムでした。新学期を前に、2人が語り合いました。

「透明人間ゲーム」で狂いそうに

 ――奥田さんは自伝『変える』のなかで、中学時代のいじめ体験について赤裸々につづっています。一番つらかったことは?

「無理やり殴り合いをさせられるとか色々ありましたけど、一番こたえたのは『透明人間ゲーム』です。中1の時、『いないことにしようぜ』みたいな感じで無視されて。テニス部の部活中も球を回してもらえない。やってる方はからかい半分なのでしょうが、狂いそうになりました」


 「テニスの練習場が教室からよく見えるんです。実際には誰も見てないんですけど、『見られている』という感覚がキツイ。自分では友達は多い方だと思っていたし、ケンカだって弱くないし、というプライドがあったので」


「トイレに押し込めて水を掛けたり、教科書に落書きしたりするようなやり方は、いじめの最新トレンドじゃない。大人にバレないように、透明人間ゲームだとか、給食に髪の毛のフケを入れて食べさせるだとか、証拠の残らないいじめ方をするんだよね」




中学時代のいじめ体験を振り返る奥田愛基さん=竹谷俊之撮影

中学時代のいじめ体験を振り返る奥田愛基さん=竹谷俊之撮影

ブロック塀に額をたたきつけた

「外傷がないから、親にもしんどさをうまく伝えられなくて。自傷行為で、ブロック塀に額をたたきつけたこともありました。めっちゃ泣くんですけど、泣いた顔では家に入れないから涙をふいて。帰ってきて親から『どうしたの?』って聞かれても『転んだ』みたいな」


「なんで親に言いにくいんだろう」


「小6から塾に通っていて、それなりに成績も良くないと、という思いはありました。周囲から『いい高校行きたかったら、ちゃんとしなさいよ』と言われてきて、義務教育でつまずいたら人生おしまいだっていう恐怖感があった。ズルズル生きるより、死んだ方がいいと思い込んでました」


「まじめなんだね」


「『生をどう肯定するか』っていう部分が欠落した世界に浸っちゃうと、大事なことが思い出せなくなる。あの友達と仲良くできないとか、クラスのなかでいい位置に立てないとか、部活に行けないとか、成績が下がったとか、生きることに比べたら全部どうでもいいことなのに」




奥田愛基さんの言葉に耳を傾ける鴻上尚史さん=竹谷俊之撮影

奥田愛基さんの言葉に耳を傾ける鴻上尚史さん=竹谷俊之撮影

「逃げて」の呼びかけ、割れた賛否

 ――鴻上さんは2006年に朝日新聞の「いじめられている君へ」という連載企画で「あなたに、まず、してほしいのは、学校から逃げることです」「あなたが安心して生活できる場所が、ぜったいにあります。それは、小さな村か南の島かもしれませんが、きっとあります」と呼びかけました。


「当時は『逃げることをたきつけるとは何事だ!』という反応が半分ぐらいあったけど、いまでは9割ほどが『逃げていいんだ』という風に変わってきました」


「鴻上さんの記事を読んで、グーグルで『南の島』『中学』『不登校』と検索して、中学2年の時に北九州市から沖縄の鳩間島に転校しました。不登校になって、死ぬか生きるかでずっと悩んで……。その選択から1回逃げたんです」


 「でも、逃げることもある種、能動的な行動なんですよね。島に行けば自分と同じようなヤツがいる。違う社会がある。世界はもうちょい広いかもしれない。行ってみようって」


「鳩間島は子どもの受け入れに熱心だからね。しかし、コラムには『南の島』としか書かなかったのに、よく鳩間にたどりついたよね。実は2000年ごろに鳩間に取材に行ったことがあって。その時に小学5年生の子に『島に来てどう?』って聞いたら、『子どもらしくなりました』って言ったの」


「その発言が子どもらしくないですね(笑)」


「そうそう(笑)。でもその言葉があったから、コラムで『逃げろ』って書いたの。とにかく逃げちゃえって。だから、奥田くんがあれを読んで鳩間に行ったと聞いて驚いたよ」




いじめをテーマにした小説を連載している鴻上尚史さん=竹谷俊之撮影

いじめをテーマにした小説を連載している鴻上尚史さん=竹谷俊之撮影

リストカットとオーバードーズ

 ――親元を離れての鳩間での生活はどうでしたか。

「里親のおじいとおばあには『お父さんお母さんと呼びなさい』と言われてました。掃除の仕方一つとっても『腰が入ってない!』とか、結構厳しかったですね。僕も、ここで見放されたら死んじゃうかもしれないっていう危機感があったので必死でした」


 「だけど、死にたいぐらいに気持ちが追い詰められたことがあって、リストカットして倒れてしまったんです。睡眠薬をオーバードーズ(過剰摂取)して……。普通、血だらけで倒れてたら心配するじゃないですか。『帰りたかったら帰っていい』って、めっちゃ怒られて。島で生きていくんだったら、漁に行って家を建てないと一人前になれない。『それでいいのか』って。考え方が八重山基準なので」


「八重山基準だとダメな男だと」


「はい(笑)。それで島にいさせてください、と答えて」




対談は、SEALDs解散会見の直後に行われた=竹谷俊之撮影

対談は、SEALDs解散会見の直後に行われた=竹谷俊之撮影

「そうすると、『鳩間の青い海や白い雲に傷口を癒やされた』というストーリーじゃないわけ?」


「ていうか、『自分ではどうしようもないもの』っていう意味で、僕のなかではおじいもその一部なんです。台風が来て、2週間電気が止まる。水が来ない。ああ、思うようにはいかないんだな、みたいな」


 「ウミガメやサメを見たり、ぼーっと海に漂ったりしているうちに、『死にたい』『誰かを殺したい』っていう衝動はなくなっていきました」


「なるほどね。海とかおじい、おばあも含めて、圧倒的なものに触れるってことか」


「一人になれ、大人になれってことですよね。ビックリしたのは、島の人たちって人間関係の深いことを聞かないんです。それでいて、島の祭りのこととかでは怒鳴り合いのケンカをする。一升瓶2、3本空けて、ガラスも割れて。でも後から振り返ると、何でケンカしたかみんな覚えてない。何もかもむき出し。そんな島の人たちと暮らせたことは大きかったなと思います」




いじめについて語り合う鴻上尚史さんと奥田愛基さん=竹谷俊之撮影

いじめについて語り合う鴻上尚史さんと奥田愛基さん=竹谷俊之撮影

「いじめられて鳩間に来た子で、どうしても学校の正門をくぐれない子がいてね、近づくと身体が震え始めちゃう。軽トラの荷台に乗せてあげて、目をつぶっていればなかに入れるんだけど、さすがに毎回乗せるわけにもいかないでしょ。結局自分では入れず、鳩間を去ったという話は聞いたことがある」


「合わない子もいると思います。一方で自分みたいに、ビックリするぐらい変わるヤツもいる」


 「知り合いに、小学校の間ずっと引きこもっていた子がいて。鳩間に来てからも、最初は『お母さん、帰りたいよ』みたいな感じだった。色白で少し太めだったんだけど、いまではマッチョで真っ黒。陸上の県大会にも出場しているそうです。チャンスが平等にあったら、みんなこんなに生き生きするんだって」




「いじめゼロ」への違和感

 ――いじめを防ぐには、どうしたらいいのでしょうか。

「僕が中学生の頃も『いじめゼロを目指そう』みたいなことが言われてましたが、間違ってると思うんです。『いじめはあるだろう』『あったらあったで対処しよう』という方が正しい。問題をないことにすると、解決もできなくなってしまう。みんなが仲良くなれるはずはなくて、言い争いもあれば、ノリの違いもある。一人ひとり違うんだということを認め合っていかないと」


「教育委員会とかの発表で『死につながるいじめではなかった』という言い方が普通にあるんだよ。死につながるかどうか、誰が判断するんだって。そんなの当人しかわからないわけで。肉体的な暴力じゃなくて言葉だけだったとか、単に無視しただけだったとか、まったくリアリティーがないよね」


 「人間の最大の欲望はカネでも異性でもなくて、実は権力欲なんだって説があってさ。いじめが続く理由っていうのは、人間が人間をもてあそぶ快感、全能感なのかもしれない」




「いじめゼロ」という標語への違和感を語る奥田愛基さん=竹谷俊之撮影

「いじめゼロ」という標語への違和感を語る奥田愛基さん=竹谷俊之撮影

「同調圧力は日本人の宿痾なのかも」

 ――鴻上さんは過去の作品でも、いじめをテーマに取り上げていますね。

「いま『小説現代』で『青空に飛ぶ』という小説を連載しています。いじめられている中学生と、特攻隊の生き残りの人が出会う話です。中学生の方はフィクションだけど、特攻隊の方は佐々木友次さんという実在の人物。9回特攻を命令されて、9回帰ってきた人がいるのよ」


 「上官から『何があっても死ね』『帰ってくるな』と言われながら、出撃の度に相手の船を沈めて帰ってくる。日本人にそんな人がいるんだよ。すごいでしょ」


 「連載のために特攻隊の資料やいじめの資料を読んでいると、同調圧力っていうのは日本人の宿痾なのかもしれないという気がしますね。『特攻に志願する者は前に出ろ』と上官が言って、誰も動かないと『出るのか、出ないのかハッキリしろ!』と叫ぶ。すると、全員がザッと前に出る」


 「個に目を向けず、全体が一つであることが美しいっていう価値観は、いまも連綿と続いている。それが、『いじめゼロ』っていう標語にもつながっている感じがしますね」




「同調圧力っていうのは日本人の宿痾なのかもしれない」と話す鴻上尚史さん=竹谷俊之撮影

「同調圧力っていうのは日本人の宿痾なのかもしれない」と話す鴻上尚史さん=竹谷俊之撮影

 ――LINEいじめのような、新しい形のいじめも出現しています。

「ちょっと前ならミクシィとか、学校裏サイトでした。僕もモバゲーのチャットやミクシィでやられた経験があります。そういうグループがあるだけで、自分の知らないところで何をやってるんだろうとプレッシャーになる。常に見られている感じがして、キツかったです」


 「いじめちゃう側の心理として『本人にバレないから別にいいか』となるのかもしれないけど、いつの間にか思ってないことまで言ってしまったりするから、気を付けた方がいい」


 「それから、落ち込んでいる時はいったん携帯を置く。自分を保って、相手との距離感を考えながらコミュニケーションをとることが大切です。最初に『すぐ返信できない時がある』と言っておくのも一つの方法ですね」




鴻上尚史さんが「ヒゲがないとやさしい顔だね」と話しかけると、奥田愛基さんは「そうですか?」とはにかんだ=竹谷俊之撮影

鴻上尚史さんが「ヒゲがないとやさしい顔だね」と話しかけると、奥田愛基さんは「そうですか?」とはにかんだ=竹谷俊之撮影

「すみませんけど、生きていてくれませんか」

 ――いじめられている子や、その親たちにメッセージをお願いします。

「死なないために、奥田くんのように逃げてほしい。いじめられている子は自分に責任があるんじゃないかと思いがちだけど、そうじゃない。理由なんてなくて、本当にたまたまなんです


 「親御さんは、子どもに食欲不振、寝られない、口数が減る、ケガをして帰ってくるといった兆候が表れてきたら、1回学校を休ませて。『いじめられてるの』と聞いても絶対答えないから、質問してもしょうがないんだよね」


 「学校にとっては責任問題だから、敵に回すと『いじめは絶対にない』と意固地になる可能性もある。場合によってはスクールカウンセラーや第三者の力も借りて、学校ぐるみで子どもを守りながら対処していくのがいいと思います」




「兆候が表れたら、親は子どもを休ませて」と話す鴻上尚史さん=竹谷俊之撮影

「兆候が表れたら、親は子どもを休ませて」と話す鴻上尚史さん=竹谷俊之撮影

「学校に行けなくなった時に、毎日友達が訪ねてきてピンポンしてくれて。でもそのなかには、僕のことを無視してたヤツもいたし、ケンカしたことのあるヤツもいたんですね」


 「いじめって、構造的にやらなくていいゲームをやらされてる感じがある。被害者や加害者の役割をやらなきゃいけなくて、たまたまその分担になったっていうか。それがわかって、すごく救われました」


 「『生きていて』っていう言葉はある種暴力的だし、無責任です。それを聞いて、しんどさが軽くなるわけでもない。いじめられてる子からしたら、お前に何がわかるんだと思うかもしれない。それでもやっぱり、生きていなければ何にもできないし、生き残ることが一番大事。だから、『すみませんけど、生きていてくれませんか』と言いたいですね」




いじめられている子へ「逃げて」「生きていて」と呼びかける、鴻上尚史さんと奥田愛基さん=竹谷俊之撮影

いじめられている子へ「逃げて」「生きていて」と呼びかける、鴻上尚史さんと奥田愛基さん=竹谷俊之撮影

 〈こうかみ・しょうじ〉 1958年、愛媛県生まれ。作家・演出家。日本劇作家協会会長。1981年に劇団「第三舞台」を結成し、小劇場ブームを牽引(2012年解散)。現在はプロデュースユニット「KOKAMI@network」などを中心に活動中。主宰する「虚構の劇団」が、代表作「天使は瞳を閉じて」を、8月31日~9月4日に東京・東池袋の「あうるすぽっと」で再演する。

 〈おくだ・あき〉 1992年、福岡県生まれ。明治学院大在学中の昨年、友人らとSEALDsを創設。安保関連法に反対して国会前で抗議活動を行った(今月15日解散)。今春大学を卒業し、6月に自伝『変える』(河出書房新社)を刊行。

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