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10秒切れていない4人がなぜ銀メダル? 「ちょっと怖かった」決断

男子400メートルリレー決勝 第2走者の飯塚(右)から第3走者の桐生へリレー=代表撮影
男子400メートルリレー決勝 第2走者の飯塚(右)から第3走者の桐生へリレー=代表撮影

目次

 リオデジャネイロ五輪の陸上男子400メートルリレーで、山県亮太、飯塚翔太、桐生祥秀、ケンブリッジ飛鳥の4人で臨んだ日本が、37秒60のアジア記録を出し、この種目で初の銀メダルを獲得しました。国別ではジャマイカ、米国に次ぐ世界歴代3位となる驚異の記録が出た背景には、予選から決勝にかけて4人が下したある決断がありました。(朝日新聞スポーツ部記者・増田創至)

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「半足にする?」「いや、4分の1でいこう」

 シューズ4分の1足分、7センチほどに込めた勇気が、日本陸上界の歴史を塗り替えました。

 決勝の前日にあった予選は、全体2位で通過したものの、タイムは37秒68。このままでは決勝ではメダルに届かない、と判断した選手たちは話し合いました。「半足にする?」「いや、4分の1でいこう」。一体、何のことなのでしょうか。

 選手たちはリレーのスタート前、自分がスタートする地点から、自分の靴を使って逆方向への距離を測り、テープを貼ります。そこに前の走者が来たら自分がスタートする、という目印にするためです。この位置を、2走の飯塚は、予選より靴4分の1足分、遠ざけました。

男子400メートルリレーで第4走者のケンブリッジ飛鳥(中央)にバトンを渡す第3走者の桐生祥秀(後方)=林敏行撮影
男子400メートルリレーで第4走者のケンブリッジ飛鳥(中央)にバトンを渡す第3走者の桐生祥秀(後方)=林敏行撮影 出典: 朝日新聞

「半足分だとちょっと怖かった」

 予選では、バトンパスのところで完全にはスピードに乗り切れていませんでした。前の走者がより遠くにいる時点でスタートすれば、それだけスピードに乗ったところでバトンを受け取ることができます。ただし、テイクオーバーゾーンと呼ばれる受け渡し区間内でバトンをもらえず、失格になるリスクも増えます。

 「半足分だとちょっと怖かった」と飯塚。時速40キロ近い世界だけに、数センチの差でも影響が大きいからです。

男子400メートルリレー決勝、第3走者の桐生祥秀(右)にバトンを渡す第2走者の飯塚翔太=西畑志朗撮影
男子400メートルリレー決勝、第3走者の桐生祥秀(右)にバトンを渡す第2走者の飯塚翔太=西畑志朗撮影 出典: 朝日新聞

「気配はなかったけど、信じていた」

 1走の山県がスタートダッシュを決めます。2走の飯塚がつけたマークを、山県が通過。それを見て、飯塚がスタートしました。

 2人の距離はなかなか縮まりません。それでも、飯塚は走りを緩めませんでした。「気配はなかったけど、来ると信じていた」。山県は、ゾーンぎりぎりで追いつきました。

男子400メートルリレーで銀メダルを獲得し、優勝したボルト(左から4人目)らジャマイカチームと記念撮影する(右から)ケンブリッジ飛鳥、山県亮太、桐生祥秀、飯塚翔太=19日、五輪スタジアム、林敏行撮影
男子400メートルリレーで銀メダルを獲得し、優勝したボルト(左から4人目)らジャマイカチームと記念撮影する(右から)ケンブリッジ飛鳥、山県亮太、桐生祥秀、飯塚翔太=19日、五輪スタジアム、林敏行撮影

 3走の桐生は予選より4分の1足分、ケンブリッジは半足分、テープの位置を遠ざけていました。これが、予選より0秒08、記録を詰めることにつながりました。予選の記録のままなら、タイムは米国(結果的に失格)とカナダを下回っていました。

 代表が固まってから、合宿を通じてバトンパスを熟成させ、「絶対に失敗しない」と自信を持っていたからこそ持てた勇気。誰一人として100メートル10秒を切れていない4人が、金メダルまで後一歩のところまで迫り、世界に衝撃を与えたのです。

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