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2016年08月17日

スピーカーと記念撮影 「極上爆音」映画館が決断した6千万円の投資

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上映作品のポスターなどが並ぶ館内

上映作品のポスターなどが並ぶ館内

 「このふざけた劇場へ、ようこそ」。そんなキャッチコピーで、独自の路線を突き進む映画館がある。「極上爆音上映」にこだわり、アリーナコンサート級の音響設備を整備。最近では6千万をかけて、新たな「爆音」を導入した。映画館の新たな魅力を発掘した、このチャレンジ。仕掛け人に狙いを聞いた。(朝日新聞統合編集センター記者・山下周平)

ノンストップの重低音が支配

 極爆の震源地、東京都立川市の「シネマシティ」で、上映中なのが「マッドマックス 怒りのデス・ロード」。「あれ、いまごろ?」と思うかもしれないが、2015年の公開作品のリバイバル上映が、半年近く続いている。アカデミー賞も受賞した壮絶なカーアクションと極爆の組み合わせを求めて、「空港から映画館への道順を聞く電話がかかってくる」人気だ。

 場内を見渡すと男性に混じって、20代らしき女性の二人連れもいる。スクリーンの両脇には壁に固定された重厚感あるスピーカー、中央下にはサブウーファーが、暗闇にうっすらと浮かび上がる。

 開始早々、タイトルカットから重低音の波動と圧倒的な音量が内臓を揺さぶる。高鳴るエンジン音、銃撃、爆発……目の前の出来事のような衝撃に、感覚が支配されていく。ノンストップの重低音を浴び続け、コーラを飲むことも忘れ、気づけば2時間の上映が終わっていた。何かにとらわれたように頭がしばらくぼーっとしていた。

約6千万円超かけ、スクリーン横に設置されたラインアレイスピーカー=東京都立川市曙町2丁目

約6千万円超かけ、スクリーン横に設置されたラインアレイスピーカー=東京都立川市曙町2丁目

 SNSで極爆上映を知り、浜松市から訪れた会社員、熊谷亮さん(31)は興奮気味に語った。「音がやばい。音圧で背中がびりびりした。話の筋は知っているのに、これからどうなるんだろうって。もう完全に狂気(マッド)です」。

 確かに、記者も3D上映を含めて5回はこの作品をみていたが、まるで別物だった。音楽活動もしているという熊谷さんは「コンサートでもないのに、何千万もするスピーカーを入れるなんて、本当に異常ですよね(笑)」

「このふざけた劇場へ、ようこそ」

 シネマシティは2009年から、音にこだわり、音楽モノやミュージカル作品などで専門家に音響調整してもらう上映を続けてきた。ジュラシックパークやスターウォーズの続編など大作目白押しの15年、同館では最大の382席のスタジオの音響システムを強化。数百万円かけて重低音部分を増強する「サブウーファー」を買い替えた。

 こけら落としの上映作品が、30年ぶりの新作「マッドマックス」だったのは、企画室長の遠山武志さん(40)が、ネットで予告編を観たときから決めていたことだった。考えた宣伝コピーは、アニメ「北斗の拳」の主題歌にかけた「あなた(you)は衝撃(shock)を受ける 『音』で空が落ちてくる」。

 そして、こう誘った。「このふざけた劇場へ、ようこそ」

 この「ノリ」がネット上で話題となり、夏休みの7~8月は連日満員、全館でこの年、最高の興行収入を上げた。

©2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

©2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

6千万円のスピーカー 社員も「まじか」

 さらに、この人気に勢いづいて、シネマシティは、よりクリアな音を響かせるスピーカーの導入を決定する。その額、設置費用込みで6千万円。遠山さんが提案した当初の倍の額になった。「社長が決めました。さすがにまじかって思いましたけど。でも音を聞くと、大きな音だからといってやかましくないし、小さな音はしっかりクリアに聞こえてくる。本当に良くって……」

 「狂気はまだ振り切っていなかった」「思考するな、臆するな、ただ突き進め」。4月からの再上映には、そんなコピーに吸い寄せられるように観客が訪れ、最初の1週間の興行収入は封切り公開時の1週目を超えた。

 重低音をより感じたいファンがあえて最前列を埋め、上映後、スクリーンの左右に鎮座する2台の巨大スピーカーの記念写真を撮る列ができる。9月2日までの上映延長が決まっている。遠山さんは言う。「上映後に客席から自然と拍手が起こる日もあって、感動的です。映画館に人を呼ぶのが大変な時代に、自分たちがどれだけ熱くなれるか。ぶれずにやったら、それがお客さんに伝わったんだと思います」

極爆を仕掛けた企画室長の遠山武志さん。企画の発案、宣伝、イベントの進行まで1人でこなす。映画をプロデュースするのが夢だ=東京都立川市曙町2丁目

極爆を仕掛けた企画室長の遠山武志さん。企画の発案、宣伝、イベントの進行まで1人でこなす。映画をプロデュースするのが夢だ=東京都立川市曙町2丁目

中毒者続出 鑑賞「22回」の猛者も

 この「極爆」上映はアニメ映画にも広がり、昨年11月からロングランを続けるのが、女子高校生が戦車に乗って戦う「ガールズ&パンツァー劇場版」。

 東京都国分寺市の会社員、長谷川直人さん(25)はすでに3回通った。「一度(極爆で)観てしまうと、ほかでは物足りません」。館内のファンがコメントを書き込めるコーナーには、鑑賞「22回」と記す猛者も現れている。

館内の専用コーナーに貼られたガルパンのチケット。「22回目」の鑑賞を記すファンまで=東京都立川市曙町2丁目

館内の専用コーナーに貼られたガルパンのチケット。「22回目」の鑑賞を記すファンまで=東京都立川市曙町2丁目

極爆、拡散狙う

 シネマシティに感化されたのは観客ばかりではない。兵庫県尼崎市の塚口サンサン劇場も昨夏、ライブハウスで使うスピーカーをレンタル。マッドマックスやガルパンの「重低音ウーハー上映」が好評だった。今年5月からはスピーカーを常設している。営業担当の戸村文彦さん(41)は「映画の新しい見せ方ができました。上映する映画館の工夫やこだわりが、映画の作り手にも良いシナジーを生むのではないかと思っています」。

 遠山さんは、ブランドに育てた極爆を、さらに広げていきたいという。「音には感動を全身に訴える力がある。天井にスピーカーを埋め込んだらどうなるんだろうかとか、できるかはわかりませんが、やりたいことがいっぱいあるんです」

塚口サンサン劇場であったガルパンのイベント上映「これが本当の“塚口流戦車道”フェスタです。」に集まった観客ら。上映中は紙吹雪やクラッカー、絶叫してもOK=2016年5月、劇場提供

塚口サンサン劇場であったガルパンのイベント上映「これが本当の“塚口流戦車道”フェスタです。」に集まった観客ら。上映中は紙吹雪やクラッカー、絶叫してもOK=2016年5月、劇場提供

音に6千万円、極爆の世界 劇場内部に潜入
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音響を増強したa studioがあるシネマ・ツー。ガラス張りの建物の1階にはカフェが入る=東京都立川市曙町2丁目
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