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「消えた金メダリスト」からのFBメッセージ…柔道マンガの巨匠動かす
表舞台から消えた金メダリスト。ひょんなことで届いたフェイスブックのメッセージが縁で生まれた漫画「JJM女子柔道部物語」の連載がスタートします。原作を務めるのは、知る人ぞ知る女子柔道初の日本人金メダリスト。脚色、構成、作画を担当するのは、「What's Michael?」などでも知られる漫画家の小林まことさんです。
リオデジャネイロ五輪が5日から始まりました。「日本のお家芸」と言われる柔道ですが、小林さんが1985~91年に描いた「柔道部物語」は、「平成の三四郎」こと92年バルセロナ五輪金メダルの古賀稔彦さんや、柔道界で男女通じて世界唯一、五輪3連覇を果たした野村忠宏さんらも愛読し、「柔道家のバイブル」と呼ばれました。
当初は、小林さんがかつて所属した新潟県立新潟商業高校柔道部での日常をギャグ色強く描いた作品だったのですが、そろそろ辞めようかと思ったころに古賀さんから「毎週楽しみに読んでいます。柔道部って非常に肩身が狭いので、この漫画だけが頼りです」とファンレターが来たことにより、主人公の三五十五を強豪選手にする方針転換をして続けた逸話があります。
小林さんは2014年に「劇画長谷川伸シリーズ 瞼の母」を描き終えた後、漫画家を引退し、「晩年は音楽三昧の生活をしたい」とバンド活動に専念していました。
ある時、バンドメンバーから「みんな、フェイスブックのメッセージ機能で連絡をし合っているから、(小林さんも)始めて欲しい」と要望され、仕方なく15年5月にアカウントを開設したところ、ファンに見つかり、1日100人以上から友達申請が来るように。
その中で、「漫画のファンでした。おかげで、五輪で金メダルを取れました」と書いてきたのが、96年アトランタ五輪女子61キロ級で、柔道が正式競技となってから日本女子初の金メダルを獲得した恵本裕子(43)さんでした。
やりとりをしているうちに、恵本さんの住まいが小林さんの仕事場から徒歩1分のところにあると分かり、近所付き合いが始まりました。恵本さんは北海道立である旭川南高校に入学し、テニス部に入りましたが、蚊に刺されるのですぐに辞め、「やせるよ」と言われて柔道部に入りました。
それが、始めて5日やそこらで受け身も教わらないうちにあった試合に出させられ、それで勝ってしまったことで気持ち良くなり、柔道を続けることに。それからわずか8年後には五輪の表彰台の頂点に立っていました。しかし、2年後に引退。その後は結婚したこともあり、表舞台からは消えていました。
小林さんは当時の裏話を聞くうちに、「この人を忘れちゃいかん。こんな面白いものを無視できない」と思うように。そんな中、恵本さんの情報を集めていたら、五輪前年の世界選手権で11秒で負けた試合の動画を発見。五輪は、屈辱からの栄冠だったのでした。
「もう、これは我慢ならない」と恵本さんに「漫画にしよう」とアプローチを開始。最初は小林さんいわく、「何言っているんだ、このおっちゃん。そんなの無理だよ、みたいな感じ」だったそうですが、第1話からの構想を明かしたら「面白いですね」と恵本さんの目の色が変わり、漫画化が決まりました。
主人公「神楽えも」の名前は、恵本さんが周囲に「えも」と呼ばれていることから決まりました。「恵本裕子物語」ではなく、架空の女の子についてのフィクションとはなりますが、小林さんは「面白おかしくは描いているけれど、ストーリーはほぼ実話だと思って良い」と言います。
恵本さんについて周囲に聞くと、「真面目で一生懸命やっていた」などという話はどこからも出てこないそうです。ただ、小林さんが感心したのは、ガッツがあるところ。恵本さんにとっては初の漫画原作となりますが、少しでも良い原作を書こうと研究熱心で、何でも真剣に吸収しようとする。
「恵本さんと知り合って、改めて、ガッツって大事だなっていうことを勉強させてもらった」と話します。ちなみにタイトルについている「JJM」は、打ち合わせのメールのやりとりの際、「女子柔道部物語」と書くのが長いと、恵本さんが書くようになったことが始まりだそうです。
小林さんの女子柔道へのイメージも、恵本さんとのやりとりや取材を通じて変わりました。「柔道をワーッとやってはいても、家では刺繡が趣味だったり、クッキーを作ったり、お花が好きだったり。女の子らしいものなんだ」
「柔道部物語」の登場人物たちがゲスト出演することがあるそうですが、物語の根幹には関わらないそうです。理由は、三五は90年に宮城県であった全国高校総体に出ているのですが、まさにその大会には恵本さんも出場。三五と恵本さん、さらには恵本さんと同じ時間軸を歩む想定の神楽えもは計算上、同級生になり、一緒に出し過ぎるとかえってストーリー展開で不都合が出てくる可能性があるためだそうです。
その代わり、同じアトランタ五輪に出場した古賀さんや野村さんは「出るでしょうね。一緒にみんな、やっていたわけだし」とのことです。
女子柔道と言えば、「女三四郎」こと山口香さんをモチーフとし、五輪2連覇の谷亮子・元参院議員の愛称にもつながった「YAWARA!」(浦沢直樹さん作)という漫画がありましたが、小林さんは「実はね、1回も読んだことないんだ。読んでいないから意識しようがないが、あの漫画は柔道の知名度向上にすごく貢献したと思う」と話します。
将来的に、「えもちゃん」という愛称の柔道選手が出てくるようなヒット作となるか。リオ五輪での熱戦ともども、目が離せません。連載は、9日発売の漫画雑誌「イブニング」(講談社)でスタートします。
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