お金と仕事
恋人できないのは政治のせい?派遣法と恋愛格差「年収300万円の壁」
18歳以上が投票できるようになった今回の参院選ですが、正直、まだちょっと興味が持てない人もいるでしょう。そんな人の目を覚まさせる研究があります。「恋愛経験の差を生み出したのは政治である」。思春期ど真ん中の18歳にとって最大の関心事「恋愛」が選挙と関係してるって……どういうこと?調べてみました。(朝日新聞大阪生活文化部記者・浜田知宏)
今から11年前の2005年、私は神奈川県の海沿いにある高校の3年生でした。サッカー部を引退し、彼女が出来て浮かれていた頃、ちょうど衆議院選挙がありました。
05年9月の「郵政解散総選挙」です。というのは後付けの知識。当時の私は、政治家の名前もほとんど知りませんでした。小泉純一郎元首相の「感動した!」っていうモノマネが流行していたな、と思いだすぐらいです。
当時の争点とされたのは、国営だった郵便局の業務(郵便・簡易保険・郵便貯金)を、民営化するかどうかでした。結果は当時の与党が大勝。「数合わせ」と思って、比例名簿に登録した人たちが当選し、驚きの声が各地であがったそうです。
それほど話題になった選挙ですが、選挙権もなかったし、選挙の話題も特に気にしていませんでした。やっぱり、選挙権を持っていたとしても、行ってなかったと思います。
でも「それはもったいない」と、今は思います。では、どんな話題なら当時の私は興味を持っただろうと考えてみると……気になる研究者を見つけました。
恋愛を科学的に読み解く「恋愛学」を研究し、一見かけ離れたように見える政治にも詳しい早稲田大の森川友義教授です。
森川教授は「モテたいなら投票に行こうと」と、呼びかけています。その理由を聞きました。
まずは、20代後半~30代前半の未婚率の推移をまとめたグラフをみてください(国勢調査から)。
私と同世代の20代後半に注目してみます。男性約72%、女性約60%が結婚していません。これは高校の部活仲間を思い浮かべてみても、肌感覚と一致します。
「お見合いで結婚する人が減った今、結婚相手を探すなら、95%が能動的に恋愛しなければいけない環境になったわけです」と、森川教授。
では、自由恋愛を謳歌できる状況で、恋愛や結婚の機会は誰にでも等しく訪れているのでしょうか。
次に、新しいグラフを示します。内閣府がまとめた「結婚・家族形成に関する調査」から、20代のデータを抜き出しています。年収によって、既婚・未婚や恋人の有無などに差があることが一目瞭然です。
ひときわ目を引くのが、年収300万円未満の男性です。既婚者の割合は、年収300万円以上の層に比べて3分の1。女性との交際経験が「ない」という人は35%に上ります。森川教授は「年収300万円の壁」と呼びます。
女性でも、年収が低いほど「交際経験なし」の比率が高くなる傾向は同じように見て取れます。
生き方はもちろん人それぞれ。「草食系」といった表現もありますが、森川教授の見方は異なります。
「デートを重ねるにしても『お金・時間・労力』が要ります。非正規雇用で低収入の若年層にとっては、恋愛はしたくてもできないというのが実情です。ここに政治が影響しているのです」と森川教授は説明します。
働く人の非正規化は1980年代の労働者派遣法の成立から、2000年代の派遣業種拡大などの規制緩和まで、じわりと進んできました。
総務省の労働力調査(詳細集計)をみると、非正規の割合は近年、増加傾向にあります。
代々の有権者が選んだ政治家が政策を選び取り、その積み重ねが若年層の非正規化につながった。結果として恋愛経験の差も生み出した、という指摘です。
「だからこそ、若者に伝えたいのです。『モテたいなら、投票に行きましょう』と」と、森川教授は語ります。
一見かけ離れたものでも、実はどこかでつながっている――。少しだけ年を重ねてみて、意味が分かるようになった言葉です。
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