IT・科学
「クソゲー供養会」が伝えたゲームの原点 熱きクリエーター魂に拍手
ヒットを狙って作ったのに、全然、ウケなかった…そんなゲームに成仏してもらう「クソゲー供養会」が7月2日、東京で開かれました。発表したのは、個人でゲーム作りを楽しむクリエーターたち。シンプルな作品をめざしたら地味過ぎる中身なった人。想定しない遊び方をされ高スコアを連発されてしまった人。そんな「迷作」たちに惜しみない拍手が贈られる展開に。会場は中野にある古民家という「供養会」らしい雰囲気の中、ゲーム作りの原点が垣間見える熱いイベントになりました。
エントリーしたのは11組。基本的に本業が別にあり、趣味でゲームを作っている人たちです。それぞれがゲームの紹介と、ウケなかったポイントを発表。実際のゲーム画面をプロジェクターで映して、みんなで「供養」をしました。
スマホゲームを発表するには、アプリとして登録する必要があります。登録するには、様々な要件を満たす必要があります。プレゼンで盛り上がったのは、アップルからゲーム内容の不備を指摘され発表できなくなる「リジェクト」のエピソードです。
「ぐるぐる」というゲームを開発した「tatsuya1970」さんは、普段は銀行員をしています。「言語の壁を超えて、誰でも遊べるゲームを作りたかった」。その思いを形にした「ぐるぐる」は、スマホの画面に出てくる円を、制限時間内に何回、指でなぞれたかを競うという、極めてシンプルなゲームです。
「tatsuya1970」さんは2回ほど「リジェクト」を食らっています。あまりにシンプルだったのでアップルの審査が通らなかったのです。
「tatsuya1970」さんは、アップルから届いた「リジェクト」の理由を会場で紹介しました。
容赦ないダメ出しに、参加者からは同情の爆笑が巻き起こりました。
クリエーター魂を刺激された「tatsuya1970」さんは、クラウドソーシングでこれを解決しました。
エンジニアが集まるクラウドソーシングのサービスで仲間を募集。そこで知り合ったロシアの青年に改修を依頼します。
グローバルなコラボによって「ぐるぐる」には、回すごとに画面が光るギミックと効果音が追加されます。
しかし、これもアップルから「リジェクト」に。ここで「tatsuya1970」さんは、直談判をします。
「これは忙しい人でも隙間の時間で楽しむためのゲームなんだ!だからシンプルでいいんだ!」
結果、アップル側も「ぐるぐる」の価値を認め、晴れてゲームは公開されました。
ただ、ダウンロード数は全世界で45という結果に……。やはりゲームがシンプル過ぎたのかもしれません。
「タックル」さんは「SWISH!」というバスケットボールのゴールを狙うゲームを開発しました。放物線を描いてボールがゴールにおさまる様子を、クールなデザインで表現しています。
いざ、ゲームを公開したところ、とんでもない事態が起きました。ユーザーは、ひたすらボールを投げまくって、「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」状態になったのです。
洗練されたデザインの画面は無残にもボールが飛び交うカオスな状態に。何とかスコアを調整しようとしましたが、この最強作戦の前にはかないませんでした。
ダウンロードも357にとどまりました。「タックル」さんはこう振り返ります。
「想定外の遊び方が生まれたのは、作り手の考えたゲームの面白さを形にできていなかったら。ボールを投げる瞬間と、ゴールする瞬間、その楽しさを最大化できていればよかったのかもしれません。レビューをお願いした専門家からは『普通にプレーすると、まるで苦行ですね』と言われました」
イベントを企画したのは「面白法人カヤック」の人事担当の部署です。なぜ人事が? 担当者の佐藤謙太さんは次のように説明します。
「私たちは、失敗を褒め、アイデアは否定しないという雰囲気を大事にしています。失敗をみんなで語り合うというのは、まさに、その延長にあると思いました」
発表が終わった後は、投票によって「クソゲー大賞」が選ばれました。受賞したのは度重なるアップルからの「リジェクト」に耐え抜いた「ぐるぐる」の「tatsuya1970」さんでした。
懇親会では「クソゲー供養会」をさらに盛り上げるアイデアが話し合われました。
個人のこだわりと、アップルからのダメ出しという社会の物差しとの葛藤。クラウドソーシングによる国境を越えた絆。「裏技」に通じる予想外の遊び方による広がり。
はからずもゲーム作りの原点が凝縮された「クソゲー供養会」。次回の開催にも期待が高まります。
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