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選挙ポスター、誰が貼ってる? 「あらゆるツテ頼る」 業者プランも
選挙の始まりはいつも掲示板が教えてくれる。「もう1人の本人」と言われ、陣営の組織力が試される「選挙ポスター」。ネット全盛の時代、いったい誰がどんな狙いで貼っているのか? 6月22日の公示日、午前8時半。候補者の届け出開始時刻、掲示板の前で取材してみた。(朝日新聞名古屋報道センター記者・斎藤健一郎)
参院選の立候補届け出が始まった22日午前8時半、名古屋市中村区役所裏の選挙ポスター掲示場へ歩を向けた。午前8時58分、ポスターが丸められたスーパーの袋を持ち、歩いてきた女性が一番乗りだった。
担当の候補者に抽選で割り振られた番号の枠を掲示板で確認し、雨でぬれた枠内をぞうきんで丁寧に拭く。ポスターの裏のテープをはがし、曲がらないように慎重に位置を合わせて一気に押しつけた。最後に四隅を画びょうで補強。3分足らずで作業を終えた。
ご近所の主婦で78歳、政党の支持者だという。「今回頼まれて初めて貼りましたけれど、うまくできました。あとは当選ね」
その30分後、地元の衆院議員と県議会議員の秘書2人が軽乗用車でやってきた。すでに貼られた3枚のポスターにライバル候補がいるのを見て「さすがだな」。パソコンでポスター貼りマップを作って臨んだが、朝からまわった3カ所全てで、ライバルに後れをとったという。
「それは早く貼れたほうがいいですよ。それだけ長くアピールできますから」と衆院議員秘書。「あとは目のつきやすい1番とか2番とか、上のほうに貼りたかったです」。秘書が貼った候補者ポスターは一番下段だった。
愛知県選管によると、掲示場は名古屋市内に2723カ所、愛知全県で1万2342カ所ある。ポスターの作成費用は公職選挙法に基づき、愛知県の場合は1枚の単価73円×掲示場総数の2倍で算出した額を公費で負担する。愛知での上限は180万1932円だ。
ただし、対象は法定得票に達した候補者のみ。貼る費用は全額自前で、早速、財力と組織力が試される。
ある陣営幹部に話を聞いた。「ポスターは各地の市町村議員、支援者、仲間、あらゆるつてを頼って貼る」。ボランティアが基本だが、協力者の力が及ばない地域は業者に頼むこともある。500枚で30万円弱はかかるという。
ポスター貼りに関する作戦の一部をこっそり教えてくれた。「費用対効果が悪い」と、県東部のある農村ではポスター貼りをやめた。候補者の写真は、納得いくまで3回撮り直した。
でも、これで票を引き寄せられるのか? 何を言っているのかという表情で幹部は強調した。
「ポスターはもう一人の本人。本人を知ってもらう手段として一番重要です」
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