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和歌山の県民食「グリーンソフト」 「緑色の未知の食べ物」正体は…
抹茶のソフトクリームを和歌山では「グリーンソフト」と呼びます。地元の企業がつくる商品名で長年市民に親しまれているソフトクリームです。実はこのグリーンソフトは、いまでは全国にある抹茶ソフトの発祥とされ、60年近い歴史があります。(大阪本社生活文化部記者・山下奈緒子)
つくっているのは和歌山市のお茶の会社「玉林園」です。抹茶と言えば京都・宇治などが有名ですが、なぜ和歌山なのでしょうか。歴史をたどると、グリーンソフトのすごさがわかってきました。
玉林園の5代目の林巳三彦(きみひこ)さんの手によって、1958年に誕生しました。きっかけは、夏はお茶が売れないという悩みでした。夏によく飲まれるのは麦茶だからです。
抹茶の輸出業者から「海外では抹茶にミルクを混ぜて飲む」と聞き付けた林さんは、ソフトクリームに目を付けます。ソフトクリームが日本で初めて販売されたのは51年で、当時はまだ珍しい食べ物でした。
ソフトクリームに抹茶を混ぜてみたところ、緑色の未知の食べ物に最初は驚きつつも、口にした人は必ずおいしいと喜んだそうです。
玉林園の店は和歌山市内を中心に6店舗あり、インターネット販売もあわせて年間160万個も売れています。地元市民のグリーンソフト愛を受けて、主なコンビニ各社も市内で取り扱いを始めています。
グリーンソフトには2種類あります。一つは店で売っている、コーンの上にソフトクリームをくるくる巻いて載せたもので、その場ですぐに食べる人向け。もう一つはコンビニで売っている袋に入ったタイプ。低い温度で凍らせているので、アイスが固めで持ち帰りに便利です。
地元では店のを「ソフト」「やらかいの」と言い、コンビニタイプを「ハードタイプ」「ハード」などと呼ぶそうです。この用語を使うと、グッと通っぽくなります。
玉林園が経営する飲食店「グリーンコーナー」では、ラーメンとセットで食べる人が多いようです。想像しただけで、なんだか口と胃の中がもたれそうですが、食べてみると意外に合います。
グリーンソフトがさっぱりしていて、食べた後は口の中が甘ったるくなるのかと思いきや、爽快さを感じるほど。
和歌山へ行けない方は、インターネット通販で「ハードタイプ」を注文していただくしかないので、「やらかいの」を食べるチャンスがないのが残念です。
でも、ひょっとするとすでに食べているかも。というのも、玉林園のグリーンソフト液を使って抹茶ソフトを出しているところが、全国約100カ所ほどあるそうです。グリーンソフトの名前で売る場合もあれば、別名での場合もあります。よく味わい、思った以上にさっぱりした味だったら、それはグリーンソフトかもしれません。
和歌山のソウルフード、グリーンソフト。和歌山市出身で「やらかいの」派という東洋大学教授の竹中平蔵さん(65)に、グリーンソフトの思い出を聞きました。
――いまも和歌山に帰ると食べるそうですね
「和歌山に行くと、毎回必ず(玉林園の)店に立ち寄ります。今年も食べました。行程の中に組み込まれていますね」
――「ソフト」が好みとか
「どちらかと言うと、やわらかい方が好きですね」
――グリーンソフトとの思い出を教えてください
「初めて食べたのは小学生のころだったと思います。母親に連れられて丸正百貨店に行って、その向かいに玉林園のお店があったんですよね。当時は百貨店に行くってすごい楽しみじゃないですか。その帰りにグリーンソフトを食べたのが初めての経験」
「ほのかに甘くて、こんなおいしいものがあるのかと思ったんですよね」
――緑色の食べ物を初めて見たときはギョッとされたのでは
「和歌山に『ひき茶パン』っていうのがあって、すごい好きだった。これも抹茶味のパンで、だから何の抵抗もなかったですね。ちなみにひき茶パンは『ナカタのパン(名方製パン)』(和歌山市)で売っているので、それも和歌山に行ったら、時々買って飛行機の中で食べてます」
――ほかの抹茶アイスとは違いますか
「私は和食を食べると必ずと言っていいほど抹茶のアイスを頼むのですが、グリーンソフトに勝るものはない。袋に『あと味さっぱり』って書いてあるけど、そうなんですよね。甘すぎない。他のはちょっと甘いんだよね」
「だから、全国で売ってほしい気持ちと、そっと私の秘密にしておきたい気持ちと、両方あります」
――全国配送もあって、就職などで和歌山を出た人が注文しているそうです
「せっかく素晴らしいものをつくったんだから、全国に広めていただきたい。5代目(開発した林巳三彦さん)の精神を引き継いで、誇りを持ってがんばってほしいですね。私のようなファンも多いんじゃないですか。たぶんね、DNAに染みつく味なんですよ」
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