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飼育員の事故、環境の変化… ゾウの「はな子」、波瀾万丈の69年
国内最高齢のゾウでした。
東京・井の頭自然文化園で飼育されていたアジアゾウ「はな子」が死んだと東京都が発表しました。はな子は69歳。国内で飼育されたゾウでは最高齢でした。
今年3月、はな子の環境にある変化がありました。飼育員の安全確保のために、ゾウ舎の運動場に安全柵を設置。柵を警戒したはな子は、室内にこもるようになりました。それでも、柵を撤去し、複数の飼育員がふれ合いながら餌をあげるようになると、5月中旬には体調も安定してきていました。
はな子がタイから日本に来たのは、まだ戦後の混乱期にあった1949年8月。名前は戦時中の猛獣処分で殺された上野動物園のゾウ「ワンリー(日本名・花子)」にちなんで名付けられました。殺処分のため餓死させられることになったゾウたちが、エサを求めて芸を披露する童話「かわいそうなぞう」にもなっています。悲惨な記憶に重ね合わせ、人々は2歳半の子ゾウを熱狂的に出迎えました。
しかし、56年と60年、ゾウ舎に入り込んだ男性と、飼育員を死なせてしまう悲劇が起きます。殺処分は免れたものの、一時、ゾウ舎内で脚を鎖でつながれたはな子。不自由な暮らしから、食事を食べなくなり、体はやせ細った。そんなはな子を飼育員たちは支え続けました。
その飼育方法についても、半世紀以上の間にたびたび変わりました。飼育係とべったりだったり、遠ざけられたり、またかわいがられたり。2011年4月からは、飼育係がじかに接する直接飼育から柵越しに世話をする準間接飼育になっていました。元々は森林の中で集団生活をしているアジアゾウ。今春には「飼育環境が悪い」と指摘され、海外メディアも巻き込んだ議論も起きました。
井の頭自然文化園が2007年、還暦のお祝いメッセージを募集したところ、「父親や母親より長生きしていたのか……。どうせなら、あと40年頑張ってほしいもんだ」などといったメッセージが、全国から数百通が寄せられました。深いシワ。たるんだ首もと。うるんだ瞳。晩年のはな子には、その一つ一つに、人気者が歩んできた山あり谷ありの半生がにじみ出ていました。
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