感動
読者と埋めた空白の台詞…「大人になった私へ」再び話題に 漫画化も
昨年ツイッターに投稿され、多くの反響を呼んだ3枚のイラストが、再びネット上で話題になっています。
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昨年ツイッターに投稿され、多くの反響を呼んだ3枚のイラストが、再びネット上で話題になっています。
昨年ツイッターに投稿され、多くの反響を呼んだ3枚のイラストが、再びネット上で話題になっています。夢をあきらめた女性が、少女時代の自分から手紙を受け取る内容で、セリフの中には大きな空白があります。当初、入れるべきセリフが作者にも思いつかず、ツイッターで呼びかけて完成させました。なぜ再び「空白のイラスト」が注目を集めたのでしょうか? イラストの作者に話を聞きました。
今年の5月5日、「こどもの日にこれ見て超つらくなった」というコメントとともに、3枚の画像がツイッターに投稿されました。このつぶやきは、リツイート・いいねともに3万を超えています。
写っているイラストは、昨年ツイッター上で話題になったもので、どこかの壁に貼られているのを撮影したようです。
1枚目のタイトルは「大人の私へ」。少女が将来の自分に向かって書いた手紙を読み上げています。「デザイナーになるゆめは、かないましたか」
2枚目は「子供の私へ」。脱力して伏し目がちなスーツ姿の女性がこう答えます。
「デザイナーには、なれませんでした。何度か恋をしたけれど、どれも上手くいきませんでした。仕事は大変で、毎日怒られて、時々何のために生きているのか分からなくなります。私は自分が思っていたより弱くて、ずるくて、自分をごまかすのが上手でした。素敵な大人になれなくて、ごめんなさい。夢を叶えてあげられなくて、ごめんなさい」
そして、3枚目。少し表情の和らいだ女性が少女から手紙を受け取って、「でも、 。お手紙ありがとう。大人の私より」と語ります。「でも、」の後には、何かを言おうとしてやめたように、大きな空白があります。
ネット上では「涙が出てしまった。私もまだダメだ」「今週一番泣いた。でも何がゴールかなんて、自分も含めて誰にも分からない」といった声が上がっています。
イラストを描いたのは、にいちさんです。ネット上でイラストを発表していて、今年4月にはKADOKAWAから個人作品集「彼女の季節」が発売され、早くも重版されています。
KADOKAWAの担当者は、にいちさんの作品についてこう語ります。
「Twitter、ニコニコ静画、pixivで話題になっていましたので、出版のご相談をさせていただきました。女の子のキャラクターが可愛いのはもちろんなのですが、何より各エピソードが単体で完結しながらも、つながり合っているんです。1冊の書籍にまとまったものを読みたい!と思わせる力がありました」
そんなにいちさんの作品が話題になったのは昨年4月。さきほどのイラストをツイッターに投稿し、こう呼びかけました。「あの日の私から届いた手紙と、あの日の私に送る手紙。(3枚目の空白に入る言葉は、皆さんそれぞれ考えてみてくれたら嬉しいです)」
この空白に対し、多くのセリフが寄せられました。
「数年お金を貯めて美術系の学校に再進学し、広告会社で必死にやってます」
「あの日の私が想像した大人には慣れないけど、あの日の私が失望しないように頑張って生きていきます」
「あなたが絵を続けてくれたおかげで私は多くの友人とつながりがもてました。夢は叶わなくても別の形になるんだってことを覚えておいて欲しいです」
あの日の私から届いた手紙と、あの日の私に送る手紙。
— にいち@作品集4/27発売 (@niichi021) 2015年4月23日
(3枚目の空白に入る言葉は、皆さんそれぞれ考えてみてくれたら嬉しいです) pic.twitter.com/Tz6DDnpGcW
他にも、「これは空白が正解だと思います。人によって答えなんて違っていい」という意見や、「これを見て、とても大事なことを思い出したような気がします。あの頃の思い描いていた夢を、やりたかったことを、時間がないとか忙しいとかで諦めてた気がします」といった声も寄せられました。
呼びかけから5カ月後の9月、最終的には以下のセリフが入りました。
「諦め切れない想いがあって、背中をそっと押してくれる人もいて、だから、もう少し夢を忘れずにいようと思います」
再び話題になっていることについて、作者はどう感じているのか? 当時はどんな思いで空白を埋めるセリフを呼びかけたのか? にいちさんに話を聞きました。
――話題になっていることはご存じですか
「はい。5月5日のツイートの翌日に『彼女の季節』の編集者の方と打ち合わせがあり、雑談している際に『そういえばツイッターで……』と教えていただきました」
――どのように感じていますか
「自分の絵が自分の知らない所で広まってしまうというのは、少し不安ではありますが、どういう形にしろ、いろんな人に自分の絵に接してもらえるのは嬉しいことだと思います。そこから情報をたどって私にコメントを下さる方もいて、そういった交流が持てたのも良かったと感じています」
――昨年は、空白に対して多くのコメントが寄せられました
「正直に言うと、当初、私自身も空白に入る言葉が分からなかったんです。子どものころの夢と大人になってからの現実のギャップって、一体どういう言葉なら埋めることができるんだろう、って。だからいろんな人の考えを聞いてみたくて、呼びかけを行いました」
――空白をめぐるやりとりの中で、にいちさんが感じたことは
「人それぞれ、いろんな答えが返ってきたのですが、中でも印象的だったのは、人物関係の言葉を入れている人が多かったことです。例えば、『良い人に巡り合えました』『友人とのつながりが今の自分を支えています』などです」
「子どもの頃って、対象となる『夢』とそれを目指す『自分』の二者間の関係しか考えないことが多いけど、大人になるとその周りに多くの人がいることに気づくんだなぁと感じたんです。その気づきが、『この街で、夢を見る。』という漫画作品につながるきっかけとなりました」
――あのイラストが物語化されたものが「この街で、夢を見る。」なんですね
「空白をめぐる皆さんとのやり取りを経て、『もしかしてこの空白を埋めるのは、夢を目指す自分自身じゃなくて周りの人との関わりなんじゃないか』と思うようになったんです」
「だから『この街で、夢を見る。』という作品は、『真白のあたふた東京駅紀行』と『君がいない、初めての春』という二つの作品とつながっています。自分の気持ちを隠して友達の夢を応援する『直』、その直に背中を押され、夢を目指して東京へ出てきた『真白』。彼女らの純粋な気持ちに触れて、『この街で、夢を見る。』の主人公『理子』は、自分の夢を見つめなおすことができます。もともと空白だった『大人のわたしへ。子どもの私へ。』の3枚目の空白を埋めたのは、そんな彼女たちとの関わりそのものだと言えると思います」
――KADOKAWAから「彼女の季節」を出版しました
「昨年の春くらいに、『漫画を描いてみないか』というお話を頂きました。当時はイラストばかり描いていたので、いきなり漫画と言われても何を描けばいいのかさっぱりで、かなり悩みました」
――反響は
「予想していたよりはるかに多くの方から、『出版おめでとう』や『良かったよ』という反応を頂き、本当に驚いています。僕自身、作品を本にする機会に恵まれるなんて夢にも思っていませんでしたし、そんな夢がこうして叶ったのは、温かく見守ってくれる皆さんのおかげなんだなぁと改めて感謝の思いをかみしめています」
――これからの予定は
「これまでは短編が多かったので、舞台をしっかりと据えた少し長めの話を描きたいと思っています。web漫画という性格上、長編を継続して見てもらうのはなかなか難しいかなと思いますが、頑張りますので見守っていただけると嬉しいです」
【下のフォトギャラリーで、つぶやきをもとに生まれた漫画3部作が読めます】
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