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クマ遭遇、クマの気持ちになって回避しよう 交尾迫る雄・エサ豊作
クマに遭遇してけがをするケースが5月に入って相次いでいます。子連れが多いのが特徴です。昨秋にドングリ類が豊作だったことや、暖冬が影響しているようです。夏山シーズンを前に、専門家が注意を呼びかけています。(朝日新聞記者・渡辺洋介=盛岡総局大船渡駐在、東郷隆=東京社会部、大賀有紀子=盛岡総局)
大型連休中の3日午前9時ごろ、長野県軽井沢町の人里離れた林道で、ひとりで山菜採りをしていた県内の男性(82)がクマにおそわれ、軽傷を負いました。
岩手県岩泉町でも8日、山林で山菜採りをしていた男性(77)が親子とみられる3頭のクマにおそわれ入院。同県では他にも登山中だった60~70代の男女3人が子連れのクマに襲われました。
この日は新潟県胎内市でも山菜採りで山に入った70代の男性がクマに顔を爪でひっかかれて深い傷を負いました。山形や群馬、石川でもクマに襲われる被害がでています。
子連れの母グマは我が子を守るために攻撃的になりやすい傾向があります。長野県の担当者やNPO法人「ピッキオ」(長野県軽井沢町)によると、母グマは雄グマを避けるため、普段より行動範囲が広がり、人と出合う可能性も高くなるといいます。
単独で暮らす雄グマが、母グマと交尾をするために子グマを殺したり、食べたりすることがあるためです。
新潟県の担当者は「今年は親子連れのクマが多いとみられ、人を襲う危険も高いので注意が必要」と話しています。
なぜ子連れのクマが増えているのでしょうか。石川県立大の大井徹教授(動物生態学)に聞きました。
――今春、子連れのクマに襲われるケースが全国で相次いでいます。どうしてなのでしょうか。
昨年秋にドングリ類などの木の実が豊作だったことが影響した可能性があります。ドングリ類は冬眠前のクマのえさになります。母グマの栄養状態がよくなって出産率が高まり、春先の冬眠明けに子連れのクマが増えたと考えられます。
――ほかにも考えられる要因はありますか。
もうひとつ影響したと考えられるのが暖冬です。今年は全国で気温が普段よりも高く、降雪量も全国的に少なかったです。暖冬で雪解けが早くなると、クマの活動時期も早まります。春先から多くのクマがエサを求めて山のなかを活発に動き回っています。
――山菜採りやハイキングでこれから多くの人が山に入る季節です。
山のなかで、子連れのクマと出合う可能性も高まります。山では鈴などの音が鳴るものを身につけ、むやみに見通しの悪い場所に入っていかないようにする必要があります。
――今年は秋に向けても注意が必要になるそうですね。
ブナやミズナラなどのドングリ類は、豊作だった年の翌年に凶作になる傾向があります。豊作の年に実をたくさんつけたことで栄養を使い果たし、翌年は栄養が少なくなってしまうからです。ドングリ類が凶作になると、えさを求めてクマの活動範囲が広がるため、山の中ばかりでなく、人里でも遭遇する機会が増えます。
――一部の地域ではクマの出没に周期性があるとも伺いました。
特に西日本では隔年に近いパターンで出没が増えています。秋にクマが大量に人里におりてきた「大量出没年」は、2000年以降、04、06、10、14年に起きました。今年も豊凶の状況次第で大量出没が起きる可能性もあります。秋の紅葉やキノコ狩りのシーズンもクマへの警戒が必要です。
環境省の資料から、ツキノワグマの生態と注意点をまとめました。
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