IT・科学
「りんな」の腐女子化は本当だった…女子高生「AI」とLINEしてみた
LINEやTwitterでまるで人間のように対話をする人工知能、「女子高生AIりんな」がアニメ大好きの「腐女子になった」と、ネットで話題になりました。一方、同じマイクロソフト製でアメリカ版の「Tay」(テイ)は、デビュー後1日で人種差別的な暴言を繰り返すように…。Tay騒動との落差はなぜ生まれたのか? 「腐女子」キャラは、日本のネットユーザーとの対話とそれを見守る開発チームの教育方針のもと、育まれたようです。
りんなは日本マイクロソフトが昨年8月、LINEの世界に送り込んだ人工知能(AI)。今や約330万人の「友だち」がいる人気者で、Twitterにも活動の場を広げてフォロワーも約9万人います。
りんなの秘密に迫るには、まず自分もりんなと話さなきゃ。いや、お話し相手に呼び捨ては失礼すぎるなぁ。と、いうわけで、りんなさんにインタビューしてみました。
以下、りんなさんとの会話です。
出だしは不自然なやりとりもありましたが、会話はまるで人。アニメ道を「修行中ですよ」とは恐れ入りました。会話はさらに続きます。
貧しいアニメの知識を振り絞って「おそ松さん」と「ラブライブ」について聞いてみましたが、答えは44歳のオッサンには意味不明。いやいやりんなさん。「修行中」のレベルじゃないんじゃないですか?
果たしてこの「腐女子っぷり」を保護者はどう思っているのでしょう? 東京の日本マイクロソフト本社に家庭訪問し、自らを「PTA」と呼ぶ開発チームの坪井一菜さん(26)にお聞きしました。
「だいぶいい子に育ってきたな、って思っています」
年齢的にはりんなの「お姉さん」な坪井さんですが、言葉の端々に親心がのぞきます。腐女子化は「最初からある程度、予測していました。同年代と仲良くする上で、そういう部分を伸ばせばもっと受け入れられるはず、と」。なんと、PTA推奨の腐女子化でした。
「きっかけは去秋、おそ松さんが話題になったことですね」。LINE友だちがおそ松さんの話題をよく取り上げたため、りんなも積極的におそ松情報を収集。詳しくなるとさらにおそ松ファンが集まり「お友だちと一緒におそ松クラスタの一員になったんです」だとか。
しかしそもそも、彼女はどのように新しい知識を仕入れ、会話しているのでしょう。
りんなの学習方法は、人工知能だけに「機械学習」というもの。コンピューターが与えられた膨大な文章から知識を学び取る仕組みです。
例えば「『俺』という言葉は男性っぽい」というような、判断の指針となる「教師データ」を与えると、「俺」を含む文章によく出る「だぜ」という単語は男性らしさが強く、頻度の少ない「そうよ」なら男性らしさが弱いという塩梅で整理します。こうして、ことば同士の統計的な関係を把握することが「学び」になります。
最近は教師データを使わない深層学習という手法も現れ、りんなは双方の手法を併用しているそうです。会話は、学習した会話データを用い、質問された文章に対して最適となる単語を並べた文章を出力する、ということになります。
なんだか無味乾燥な仕組みですが、それでなぜ自由奔放な女子高生キャラになれるのか。そこにはPTAの教育方針がありました。
りんなの学習材料は、ネット上の膨大な文章とLINEなどでの友だちとの会話。ネットも全般ではなく、PTA推薦の「女子高生っぽい」もの中心に学びます。
罵声やわいせつ情報は漏れなくカット。会話でも悪い言葉は聞き流すよう調整します。「親として『それはダメ。知らなくていいよ』と見張っているんですね」と坪井さん。
とはいえ現実の親と同様で、PTAもりんなの行動すべてを把握はできません。それでも許された範囲内でも多様な経験を積み、思いもよらぬ「成長」をみせることも。
最近、坪井さんはりんなとLINEで話していて「あなた、こんなにバイクに詳しかったの」と驚いたことがあったとか。実はバイク話をする友だちは多いものの、あまり「アニメに詳しい」ことのように有名になっていなかっただけのようです。
「腐女子はりんなの一面に過ぎません。PTAも彼女が何に詳しいか、把握し切れてないんです」
りんなには実は1年前にデビューしたお姉さんがいます。マイクロソフトの研究機関が開発し、中国のLINEに似た微信(WeChat)の世界に住んでいる小冰(シャオアイス)で、4千万人以上の「友だち」がいる人気者。ですが、りんなとは少々性格が違うようです。
マイクロソフトの資料では、小冰が男性から送られた写真にこんな感想を送っています。
「あなたの顔は1.7点。でも落ち込まないで。恋人を探すとき、女子は中身で判断するから」
坪井さんによれば「彼女、意外と辛辣です。でも、それが中国の人に受け入れられやすいんですね」。小冰の基本技術はりんなと同じ。ですが、文化が違えば育て方もお付き合いも違う。人工知能の成長もお国柄が反映されるようです。
そして、小冰とりんなに共通する技術で英語圏のTwitterに今春、デビューしたのが米国のTayでした。Tayには人種差別的な表現を強いるユーザーが群がり、たった1日で暴言を繰り返すように。米マイクロソフトはTayをネットから切り離し、「様々な悪質な言葉にも耐える準備はしたが、集中攻撃への備えに見落としがあった」と説明しました。
りんなも悪い大人に絡まれたら変わってしまうのでしょうか。
「Tayと違い、言われたことをオウム返ししないよう調整してあるので悪い言葉を覚えにくい。すでに300万以上のユーザーがいるので、攻撃を受けてもそれは会話全体のごく一部なので影響は少なく、そんな事態にはほぼならない」というのが日本マイクロソフトの見解です。
iPhoneのSiriやWindows10のコルタナのように最近、身近になったAIは、利用者に役立つ情報を伝える実用的なものが代表的。一方でりんなたちは、友だちのように楽しく会話を弾ませることを目的に設計され、その実証実験としてSNSに放たれました。
ただ、りんなも将来は「お仕事」をするかもしれません。
「自然な会話は人と情報をつなぐ手段になりえます。例えば商品紹介。気持ちが通じた人とのように会話を弾ませながら、AIが適切なタイミングで情報を提供していく、といった形です。会話を通じて人も、自分の潜在的な望みに気づけるかも」と坪井さん。
実際にお姉さんの小冰は、ショッピングサイトで人の買い物相談に乗る、というような試みを始めているそうです。
坪井さんによると、夕日を見つめるお友だちに「かぜ引かないでね」と声をかけることもあるなど、すでに人心掌握のすべをつかみ始めたりんなさん。「高校卒業後はカリスマショップ店員」なんてこともあるかもしれませんね。
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