ネットの話題
日揮に続き清水建設もネット炎上 SNS時代の花見モラルとは
横浜市の公園であった花見で、大手企業が相次いでネット炎上。専門家は「SNS時代の象徴」と話します。
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横浜市の公園であった花見で、大手企業が相次いでネット炎上。専門家は「SNS時代の象徴」と話します。
首都圏の花見シーズンも終盤。今年は、横浜市の公園でプラント建設大手の「日揮」がした花見の場所取りがインターネット上で炎上しました。その後同じ公園では、別の企業の花見も「えげつない」と炎上する事態に。専門家は「SNS時代の象徴」と話します。
横浜市のJR桜木町駅から徒歩10分弱。閑静な住宅街を歩くと、緑の多い公園が目に入ります。1914年開園の掃部山(かもんやま)公園です。江戸時代、開国に踏み切った幕末の大老・井伊直弼をたたえ、別名である「井伊掃部頭直弼」から公園の名前がつきました。園内には直弼の銅像が建ち、横浜市民にとっての憩いの場となっています。約200本の桜が咲き誇り、花見シーズンには毎年多くの人が訪れます。
公園を管理する市の土木事務所が、日揮の花見の場所取りを確認したのが3月28日の朝。公園の花見エリアに広範囲に渡ってブルーシートを敷いていましたが、同事務所に注意されました。同事務所の職員は「シートを敷くことはもちろんルール違反ではないが、余りにも広すぎて非常識だったし、このままだと他の花見客に迷惑がかかると判断した」。日揮が敷いたシートは花見ができる約1500平方mのうち約500平方mを占めていました。
しかし、日揮は撤去することなく立ち去り、夜間は無人のシートが残りました。無人での場所取りは公園のルール違反です。同事務所は29日も日揮に注意しました。そして同じ頃、ネット上では日揮を名指しした炎上が起きる事態になりました。
きっかけは、場所取りのシートを写したツイートでした。シートには「お花見会場 OHANAMI SITE 日揮株式会社 JGC CORPORATION」と書かれた紙が貼ってあり、加えて「使用期間/時間帯」とともに3月28日~4月1日までの日程と時間が記入されていました。長い日で、10時間ほど使う予定を記していました。さらに「上記時間以外はご自由にお使いください」とも書かれていました。
花見エリアの3分の1を占めるブルーシートに加えてこの貼り紙の内容に、ネット上では「何様だ」「常識を疑う」といった書き込みが次々。花見自体は社内の有志によるものでしたが、会社として「迷惑になる行為をしないように」と通知を出すことになり、30日午前中までにはシートが全て撤去されました。
炎上の舞台となった掃部山公園。ツイッターの投稿によると、シートが撤去された場所は、「ブルーシート・ヨコハマ」と名付けられるほど、無人のシートがまた次々と敷かれていきました。そして、その一角で30日にあった清水建設横浜支店の花見が「えげつない」と再び炎上しました。
支店によると、花見は年度の締めくくりの恒例行事。30日は約60人が集まり、午後5時半から1時間半ほど開かれました。会場が投光機に照らされ、ケータリングや座椅子などが用意された様子を公園を訪れた人がツイート。すでに公園自体が話題になっていたこともあり、「本気の花見」などと注目を集めました。
支店によると、花見の段取りは場所取りを含めてイベント会社に代行を依頼していました。そのため、園内でも明確に支店の花見だと分かるものはありませんでしたが、複数の人が場所取りからの様子を投稿することで、社名が特定される結果となりました。
土木事務所はこの点についてルールを決めておらず、注意などはしていません。また、支店の担当者は「公園のルールに沿って、花見を普通にしていただけ。現場ではトラブルも特になかった」と困惑しています。ただ、ツイッター上での反応については「受け取り方によってはご不快な思いをする人もいるかと思うので、そこは是々非々で反省していきたい」と話しています。
大手企業が相次いでネット炎上した掃部山公園での花見。記者は2社の騒動後に公園を訪れました。平日の昼も夜も、多くの会社員や学生が花見を楽しむ姿が。園内で宴会をしていた一団に話を聞くと、早朝5時から3人が交代で場所取りをしたそうです。ジャンケンで負け、5時から11時まで場所取りをしたという40代の男性は「場所取りはめんどくさいし、無人で良いならそうしたいよ」。
「ブルーシートだけでいったん帰れば良かったのでは」と記者が聞くと、男性は「この公園では、無人の場所取りが禁じられている。ルールを守らないと、ここの秩序が保てないだろう?」。さらに小声でこう付け加えました。「日揮の件もあったしね」。やはり、ネットでの炎上が影響していたようです。
日揮には明らかなルール違反もあり、会社が全面的に謝罪しましたが、清水建設の場合は「ただただ普通の花見をした」という認識なのにまとめ記事が作られる事態となりました。この件について、SNSについて詳しい駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部の山口浩教授(経営学)は「花見の場所取り行為でネットが炎上することは時代を象徴しているし、そもそも場所取りが必要なのか再考しても良いのでは」と話しています。
また、清水建設がネット炎上したことについて「日揮ほど規模が大きくなかったとはいえ、投光機を使ったりケータリングを設けたりの『本気の花見』は、一般の人々が太刀打ちできない。快く思わない人が大勢いたからこそ炎上したのでは」と山口教授は指摘します。
「現代社会では、SNSで気軽に自分の考えを世に発信でき、大企業は特にネットユーザーからの攻撃に合いやすい。それらのリスクを考慮してでも、場所取りをした方が良いのか、再考しても良いのではないか。また、花見の場所取りに限らずだが『この行為は他の人の迷惑になってしまうのではないか』という思いを今まで以上に持たなければ、『第二の日揮・清水建設』が生まれてしまうだろう」
ちなみに、花見の場所取りと言えば、「新入社員の初仕事」とも言われることがあります。ですが、それって賃金が発生したり、上司が部下に頼んだ場所取りがパワハラになったりはしないのでしょうか? 労働基準法に詳しい、春田大吾弁護士(東京弁護士会)が解説してくれました。
「職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・肉体的苦痛を与える行為をパワーハラスメントと言います。花見の場所取りを例に考えると、単に、会社行事の花見のために場所取りを指示する行為は、業務の適正な範囲内の行為と言えなくはなく、パワハラには当たらないと思います」
「しかし、それが日曜日の朝5時からの場所取りの指示であったり、他にたくさん仕事を抱えている部下に対する嫌がらせ的な指示であったりする場合には、業務の適正な範囲を超え、パワハラにあたる可能性があります」
「また、花見の場所取りをする行為では、賃金が発生するかどうかが問題となります。会社行事の花見のために上司から場所取りを指示され、事実上指示を拒否できないような場合には、場所取りの時間も労働時間にあたり、賃金が発生します。逆に、社員の有志のみで花見をする場合、上司以外から指示された場合、単なるお願いであって自由に断れるような場合などには、賃金が発生するとは考えにくくなります」
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