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IT・科学

あの「PC-98」が高値で売られ続けていた その意外な使われ方

往年の名機「PC-98」シリーズが、いまだ中古市場で根強い人気を誇る。どういう人たちが買っているのか? 専門通販ショップ店主に聞いた。

「PC-98のミシマ」に並ぶ往年のキューハチたち
「PC-98のミシマ」に並ぶ往年のキューハチたち 出典: 北林慎也撮影

 日本のパソコンの代名詞だった、往年の名機「PC-98」シリーズ。スマホとタブレットがひしめく21世紀に、いまだ中古市場で根強い人気を誇る。たった80MBしかないハードディスクが2万円近くするなど、周辺機器も高値で取引され続けている。どういう人たちが買っているのか? 専門通販ショップ店主に聞いた。

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【動画】いまだ現役PC-98 在庫約1000台の専門店に潜入取材=2020年7月、北林慎也撮影・編集

家庭向け本格PCの先駆け

 PC-98は、NECが80年代から販売していた16ビットマシン。当時としては高精細なグラフィック処理を得意とし、旧来のビジネス用途のほか対応ゲームソフトもたくさん出回り、家庭向け本格PCの先駆けとも言える存在だ。ピーク時の国内シェアは少なくともビジネス向けで8割、個人向けで5割以上あったとされる。

 しかし、インターネット時代に適応したマイクロソフトのOS「ウィンドウズ95」の登場や、より汎用(はんよう)性の高い共通規格のDOS/V機(いわゆるウィンドウズPC)が国内外のメーカーから多く出回るようになると、独自のソフトやハードが逆に足かせとなりシェアが低下。旧来の規格を土台にウィンドウズに対応していったが、ウィンドウズ98SEを積んで2000年6月に発売された「PC-9821NR300/S8TB」が最終モデルとなった。

PC-9801
PC-9801 出典: NEC

ジャンク品でも数万円で出品

 さらに時代は下って、ウィンドウズPCの全盛期も過ぎて情報通信の主役がモバイル端末に移りつつある2016年。完全に使命を終えたかに思えたPC-98だが、ネット通販などでは根強いニーズに裏打ちされた高値取引が続く。オークションサイト大手「ヤフオク!」では、「PC-98」カテゴリーで1500件超の出品がある。動作を保証しないジャンク品でさえ数万円で売り出されている。

 今もって愛用し続けているのは、一体どういった人たちなのか?

 PC-98シリーズを専門に扱う修理販売ショップ「PC-98のミシマ」(静岡県伊豆の国市)の店主・井口智晴さん(34)によると、工場での生産ライン管理や、部品を設計・製図するCAD(キャド)システムを動かすのに活躍しているという。

PC-98が組み込まれた生産ライン

 80年代後半-90年代前半のバブル経済期に設備投資された工場設備は、開発コストを抑えるため、当時の汎用機だったPC-98でシステムを組むケースが多かったという。その後、不況に見舞われるなどしてシステムを更新するタイミングを逸して当時のまま使い続けている工場こそが、今もPC-98が活躍する現場だ。

 そう聞くと、設備投資に費用をかけられず最新デバイスにもなじめないような町工場の高齢経営者を想像してしまう。しかし、意外にもロングセラー商品を作っているような大企業ほど、古い設備の更新に膨大な費用がかかるため、古いPCを使い続けるケースが多いという。

 ほとんどがウィンドウズ以前の「N88-BASIC」や「MS-DOS」といった当時のOSで動いている。ミシマの顧客には「自動車やインフラ、電車製造など、みんな知ってる有名な会社さんもいます」とのこと。

ハイスペックをうたうPC-9800シリーズのカタログ
ハイスペックをうたうPC-9800シリーズのカタログ 出典: NEC

倉庫には1千台のPC-98

 ちなみにNECによると、PC-98の保守期間は2010年10月に終了している。新品の買い替えが不可能なうえにパーツ供給もないため、ユーザーは既存の機器やパーツを修理しながら使い続けるしかない。

 そのためミシマでは、倉庫にPC本体だけで約1千台を確保。CADのデータを読み書きするためのフロッピーディスクドライブは2千台近くあるという。仕入れ時にはジャンク品同然だったりするものも、分解して部品交換したり顧客の求める仕様にカスタマイズしたりしながら、きちんと動くようにして一日に数台のペースでコンスタントに売っている。

「生産ラインが止まった」駆け込む工場担当者も

 こういった専門業者に頼るしかない現場のニーズは切実だ。なかには「PC-98が壊れたせいで生産ラインが止まってしまった」と、アタッシェケースに入れて持ち込み修理に駆け込んできた工場担当者もいたという。

 周辺機器も引っ張りだこだ。1万800円の未使用品のマウスは在庫切れ。ハードディスクは内蔵タイプの80MBモデルが1万2960円だ。

 業務用のバーコードリーダーは4万8600円。LED式の最新型を、変換アダプターを介してPC-98に接続できるように加工している。自動車部品工場で、出荷時のタグの読み取りに用いられるという。

1万円以上の値段が付く、PC-98向け内蔵ハードディスクドライブ
1万円以上の値段が付く、PC-98向け内蔵ハードディスクドライブ 出典:PC-98のミシマ

まるでヴィンテージカー

 さらに、近年は個人客からの問い合わせもある。ロールプレイングゲームやシミュレーションゲームなど80年代のレトロゲームがマニアの間で静かな人気だ。ミシマでも、「懐かしい」「昔に持っていたのと同じマシンが欲しい」と買い求める個人客が年に数人ぐらいいるという。

 ただ、井口さんは「ブームはありがたい」としながらも、「ファミコンと同じ感覚では(ハードを)維持できない」とクギを刺す。たとえば、当時のゲームソフトである古いフロッピーディスクにはカビが生えてしまっていることも少なくなく、そのまま挿入するとドライブが使えなくなってしまう。

 まるでヴィンテージカーのごとく、専門知識やきめ細かいメンテナンス、丁寧な取り扱いが求められる。

PC-9801CS
PC-9801CS 出典: NEC

製造元のNECは

 知る人ぞ知るロングセラーとなっている中古のPC-98。製造元のNECはどう思っているのか。

 NECコーポレートコミュニケーション部の担当者は、「(PCの知識が豊富で)よくお分かりになっている方にお使いいただいているのだろう。大切に末永くご愛顧いただきたい」と話している。

【動画】いまだ現役PC-98 在庫約1000台の専門店に潜入取材=2020年7月、北林慎也撮影・編集

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