話題
「清原はマッチ売りの少女だった」 石丸元章が語る体験的ドラッグ論
「清原はマッチ売りの少女だったのでは」。ジャーナリストで作家の石丸元章さんが、実体験に基づいて薬物との向き合い方や依存症からの立ち直り方を語った。
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「清原はマッチ売りの少女だったのでは」。ジャーナリストで作家の石丸元章さんが、実体験に基づいて薬物との向き合い方や依存症からの立ち直り方を語った。
ASKA氏や清原和博容疑者ら、覚醒剤取締法違反での相次ぐ「大物」の逮捕を契機に、改めて薬物問題への注目が高まっています。『スピード』『アフター・スピード』で自身のドラッグ体験をつづったジャーナリスト・作家の石丸元章さん(50)に、薬物との向き合い方や依存症からの立ち直り方について聞きました。
――石丸さんは1995年に覚醒剤取締法違反で逮捕されました(懲役1年6カ月、執行猶予4年)。ドラッグに手を出したきっかけは何だったのですか。
好奇心ですね。ウィリアム・バロウズ(※ビートニクスを代表する米国の作家。著書に『ジャンキー』など)とか、ティモシー・リアリー(※LSDによる意識の変容を研究。カウンターカルチャーに大きな影響を与えた)とか、外国の表現者やミュージシャンの本を読むと、ドラッグについての記述が結構出てくる。1960年代には、自分が何者なのかを確かめるためのツールとして、ドラッグが使われていました。そうしたことの延長線上で興味を持ったわけです。
ライターなので、色々なドラッグをやってみて、それを文章に書こうじゃないかと。20代中頃のことです。ところが、ドラッグってのは、なかなか厄介なものでね。よくよく気をつけているつもりでも、制御しながら実験的に使うのは難しい。結局、巻き込まれてしまって、得体の知れない状況やら、めくるめく妄想やら、自分が自分でなくなる状態やらに陥っていく。それを味わうことが、ドラッグを味わうことですからね。
よく「気持ち良くなる」「胸がスーッとする」とか言うけど、そんなのほんの一部ですよ。狂って、ワケがわからなくなって、恐怖のドン底に落っこちることこそが面白いんです。
――それって、いわゆるバッド・トリップですよね。気持ちいいからドラッグに溺れるんじゃないんですか?
何にも効かないより、その方がいいの。というか、それこそがむしろドラッグの本質です。長くドラッグをやっている人は、大体8割以上バッド・トリップの時間を過ごしているんじゃないですか。
清原さんだって、決して気持ちいいからやってたわけじゃないと思いますよ。ドラッグをやっている時も、切れた後も、ほとんどバッド・トリップから抜け出せない状況でしょう。薬から覚めて正気になればなったで、とてもじゃないけど認めがたい惨状が目の前にあるわけです。バッド・トリップして、戻ってきた現実もバッドになっちゃってる。
清原さんは「マッチ売りの少女」みたいな状態だったのでは。覚醒剤をあぶって立ち上る白い煙の向こうに見えるのは、子どもや奥さんと一緒に暮らしていた頃の幻影や、現役時代の大歓声に沸く甲子園の光景だったのかもしれない。恐らく吸っている瞬間だけ、ワーッと気持ちが盛り上がってきて、そういうものが見えるんですよ。
だけど、マッチが消えてしまえば温かい食卓も消えてしまう。幻想、妄想なんですから。少女だって、売り物のマッチに火をつけちゃいけないことぐらいわかってる。それでも、幻想に逃げずにはいられない。マッチ売りの少女と一緒で、清原さんも寒かったんだと思いますよ。心がね。
――そうした寂しさは、薬物でしか埋められなかったんでしょうか。
何万人の大観衆に拍手を浴び、みんなから「ステキ!」と言われる高揚感。それが失われた時のガックリと冷めていく感じを埋め合わせるのに、ピッタリだったんじゃないかな。人気が落ちてきた芸能人は、よく覚醒剤をやりますよね。人気って正体がわからないから、努力じゃどうにもならない。覚醒剤のもたらす高揚感は、人気がもたらすそれと似ているのかもしれません。寂しいドラッグですよね。
報道で見る限り、清原さんは一日中、覚醒剤をやっているような状態だったのだと思う。何で一日中やっていたかと言えば、やってもやっても気持ち良くならないからですよ。本当につかの間だけ、現実のしんどさや寒さを忘れられるものだったんでしょう。仕事もない。奥さんや子どももいない。友達もいない。覚めている時の状態が地獄のように残酷で、そんな自分を認めたくなかったのかな。
――石丸さんの実体験を振り返ると、ドラッグにのめりこむ過程ではどんな風に精神状態が変化していきましたか。
最初は好奇心や高揚感で始めるんですよ。「これは書くためなんだ」という自分自身への言い訳もあったかもしれない。でも、そういう高揚感ってすぐになくなっちゃう。自分で自分をコントロールできないことに気づいた時には、やっぱりショックでした。やめた方がいい、やめようと思っているんだけど、やめられない。自分自身に裏切られるわけですよね。そういうことを繰り返していると、自分がダメな人間に思えて自信がなくなってくるんです。
2014年、危険ドラッグの依存症治療のため、自主的に千葉県内の精神医療センターに入院しました。薬物依存の専門病棟ですから、日本全国から選りすぐりのジャンキーたちが集まっている(笑)。ここは一流のところだから、ASKAさんが一流だったら来るだろうねなんて言ってたら、本当に来て。
――酒井法子さんの元夫や、薬事法違反容疑で逮捕された神奈川の元県議もいたそうですね。
ええ、だからオールスターですよ(笑)。富裕層の方だと、病院に入って、退院すると親のお金でダルク(薬物依存症のリハビリ施設)に行って、でまたスリップ(再使用)して、入院して……という繰り返しになってしまっている人もいます。貧困層では、家族に見捨てられて、生活保護とダルクと病院を行ったり来たりしている人。
富裕層であれ、貧困層であれ、共通しているのは、未来に対する希望が持てないということ。激しく打ちのめされ、自分自身に期待することを忘れてしまっている。空虚な未来にすがって、見せかけの明るさを必死に取り繕うとしているようなところがありましたね。
――ドラッグに関心を抱きがちな若い人に対して、何か言えることはありますか。
この間、電車でティッシュを探しながらポケットをポンポンたたいていたら、小学5年生の息子に「パパ、ドラッグ持ってるの?」と言われて参りました。「持ってねえよ!」って(笑)。息子には、ドラッグについてこんな風に言い聞かせてます。
「よくよく調べて、自分で勉強しなさい」
「20歳までは絶対やるな」
「その国の法律を尊重しなさい」
「捕まっちゃダメ」
「覚醒剤はやめておけ」
「勉強しろ」「法律を尊重しろ」というのは、その国でどうして薬物が違法になっているのか、よく調べなさいということです。中国で薬物犯罪に死刑を科しているのは、阿片戦争の歴史が背景にわるわけですよね。「捕まっちゃダメ」っていうのは、損だから。覚醒剤に関しては、しんどいし、戻ってくるのが難しいから、やめた方がいいよと言っています。
覚醒剤って何で高いんだと思います? 命の値段だから高いんだっていうのが自分の説なんですけど。売人が捕まって死刑になることがあれば、密売の過程で人が死ぬこともある。覚醒剤をやって死ぬ人もいる。誰かの命を入れて、自分の命を出している。怖いことですよ。覚醒剤は人の命だから、売ったり、買ったり、吸ったり、打ったりしちゃいけないんです。
いま言ったことでそれぞれ矛盾している部分もあると思うんですけど、世の中って矛盾のなかをどう生きるかってことですからね。逮捕から20年以上経って、ようやく自分もひとつ乗り越えたところから、こういう話をできるようになってきました。周りで死んでいる人もいるし。
――亡くなった仲間もいるんですね。
います。去年「ギター男」(※『スピード』で石丸さんの相棒として登場する男性)が亡くなりました。最後は睡眠薬と酒とガソリンでしたね。枕元にガソリンがあったそうです。夏には追悼イベントを開いて、200人ぐらいが参加しました。集めたお金でお母さんに香典を届けに行ったのですが、頭を上げられなかったですね……。
――子どもが薬物中毒になってしまった時、親はどうすればいいのでしょう。
これは大問題ですよね。まず、きちんと勉強しましょう。勉強というのはお医者さんの話を聞くだけじゃなくて、バロウズの『ジャンキー』や、アーヴィン・ウェルシュの『トレインスポッティング』、映画「バスケットボール・ダイアリーズ」「SPUN」など、ドラッグを扱った優れた作品に触れることも大切です。
病院の先生は「患者」として語るし、捜査当局は「犯罪者」として語るけど、親御さんには子どもが必死に生きている姿を受け止めてほしい。ドラッグをやってない人からすると、「人生を踏み外した気の毒な人」にしか見えてしまうかもしれませんが、決してそうではない。苦しみのなかで翻弄されながら、それでも必死に生きているんです。絶望も人生の一部なんですよね。
それと、子どもと1対1で付き合うのは避けた方がいい。だって相手はドラッグやってるんだから、負けちゃいますよ。どんなに言い聞かせても、自分の意思だけではやめられませんから。NA(※ナルコティックス・アノニマス、薬物依存症からの回復を目指す自助グループ)などに行ってみるのも手だと思います。
――最後に、薬物依存に苦しんでいる人たちへのメッセージをお願いします。
フラッシュバックなどの後遺症をあまり怖がらない方がいい。フラッシュバックで眠れない夜も、自分の人生の一部なんだと肯定していく。そう考えると、だいぶ楽になるんじゃないかな。あとはお医者さんを信頼するのが大事です。いま薬もよくなってますから、妄想が出たり、自律神経のバランスが崩れたりした時に、相談できるお医者さんがいるといいですね。
「薬物依存症は治らない」とよく言われますが、ガックリする必要はありません。医学的に治らないとしても、人生の問題としては乗り越えることができます。様々な病気を抱えながら生きている人は、たくさんいるんですから。
ドラッグをやってる人は、要所要所でしくじるんですよ。よくなってきたなと思ったらしくじって、全部おじゃんにしてしまう。でも、その度に立ち上がらなくちゃいけない。立ち上がろうとし続ける限り、負け犬じゃない。挑戦者なんです。マーシー(田代まさし氏)もASKAさんも、必死で挑戦者をやってるんだと思います。いまはつらいでしょうが、清原さんにもそうあってほしいですね。
〈いしまる・げんしょう〉 1965年生まれ。法政大学中退。実体験を重視し、主観を色濃く打ち出した「ゴンゾ・ジャーナリズム」の日本における草分け。著書に『スピード』『平壌ハイ』『KAMIKAZE』など。現在は出版ベンチャー「感電社」の取締役顧問として、土木系総合カルチャー誌『BLUE'S MAGAZINE』を刊行している。
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