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IT・科学

遺されたサイトは何を語るか 話題の「故人サイト」著者に聞く

病気・事故・自殺など、不慮の出来事で更新が止まってしまったサイトを紹介した本「故人サイト」がネットで話題になっています。著者にインタビューしました。

「故人サイト」の著者、古田雄介さん=長谷川健撮影
「故人サイト」の著者、古田雄介さん=長谷川健撮影

目次

 病気・事故・自殺…。そんな不慮の出来事で更新が止まってしまったサイトを「故人サイト」と名付け、紹介した本がネットで話題になっています。「死はインターネットで学べる」と断言する著者。私たちは「故人サイト」とどう向き合うべきか、著者にインタビューしました。

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死はインターネットで学べる?

 「すごい本を作った」「故人の想いが詰め込まれていてウルっときた」。ツイッターなどで話題になっているのは12月に社会評論社から出版された「故人サイト」。著者はフリーライターの古田雄介さん(38)です。

 2008年に亡くなった元タレント飯島愛さんのブログや、シリアで過激派組織「イスラム国」(IS)により殺害された後藤健二さんのツイッターなど、有名・無名を問わず、亡くなった人が死の直前まで管理していた103件の「故人サイト」を紹介。生前のエピソードや、その人がどのように「死」と向き合ったかをブログやツイッターなどへの本人の書き込みからひもといています。

 本書の「まえがき」にはこう記されています。

  死はインターネットで学べる。
  知ることは後ろめたいことではない。
  大切にするということは、腫れ物扱いすることではない。

 故人サイトから何を読み取ることが出来るのか――。古田さんに聞きました。

12月に社会評論社から出版された「故人サイト」(1700円+税)
12月に社会評論社から出版された「故人サイト」(1700円+税)

故人サイトの「リアルさ」

――「故人サイト」で取り上げられているのは103例ですが、ご自身で収集された故人サイトの数は4桁にもなるそうですね。

 20強の情報ソースを定期的に巡回しています。ブログのまとめサイトや「闘病記」とジャンル化されているもの、「これが亡くなったひとのサイトです」などと紹介したページなどを見て回っています。そこにある一般に公開されているものを追って、リストにしているわけです。LINEなど完全にクローズドなものは対象にしていません。

――なぜそのようなことを始めたのですか。

 故人サイトの収集は5年ほど前から始めたのですが、「死」というものには子供の頃から何となく関心を持っていました。当時人気だったガンダムとかエヴァンゲリオンとか、あるいはディズニーランドとかよりも、ニュースとかで流れてくる「死」にまつわる情報に強くひかれていたんですね。また、祖父・祖母の葬儀を経験しましたけれども、その葬儀という儀式の「厳かさ」についても、「一体これは何なのかな」と思うことがありました。

 「死んだら嫌だ」「死ぬのは怖い」という思いは多くの人にあると思うのですが、そこから「死んだらどうなるのか」「人類は死とどう向き合ってきたのか」というところに興味が広がっていった感じです。宗教や心のケアといったところからではなく、純粋な知的好奇心から「死」というものを知りたいと思うようになってきたんです。

――ライターになる前は葬儀社で勤務された経験もあるんですね。

 大学卒業後、建設会社に就職しましたが合わず、すぐに退職して以前から興味のあった葬儀会社の門を叩きました。人の手が加わっていない、何も隠されていないありのままの「死」の空間、現場に携わりたかったんです。私の勤めていた葬儀社は、通常の葬儀のほかに、例えば自殺や急死された現場に直接出向いてご遺体を回収するという業務もあり、非常に勉強になりましたね。

 部屋の中で急死され、倒れたまま腐敗が進んでいるといったケースがありました。でも壁にあるポスターとか、テーブルの上に置かれたおはぎとかはそのままなんですね。亡くなる直前まで普通に生活をしていたその跡が何の飾り気もなく、誰の手も介することなく、残されていたんですよね。そうした現場はすごく印象に残っています。

故人サイトが持つ「リアルさ」について語る古田さん
故人サイトが持つ「リアルさ」について語る古田さん

 故人サイトへの関心はそれと同根です。以前から闘病記もそれなりに読んでいますが、闘病記が出版されるにあたっては遺族の方だったり、編集の方だったり、多くの人に読まれることを想定した本人の目だったりが入っていますよね。でも故人サイトには、そういった意識を強く持たれている方もいますが、まったくそうでない方もいて、読者との距離にとても幅があります。そして、迫ってくる死との距離も。そのバラつきに、葬儀社時代に見た急死した方の部屋の様子と共通する「リアルさ」や、出版物とは異なる、ネット媒体である故人サイトの個性をを見たわけです。

精巣ガンと診断された35歳の2児の父がホームページに書き残した遺書。「死ぬことは怖くありません。人間、いつかは死ぬのだから。でも、子供たちが成人するまで生きられないことは、親としてとてもつらいことです。 /しかし、生前にこの文章を書くことができて、幸運だったと思います。/思い返せば、私の人生は幸運続きでした。/私を支えてくれた皆さんに、感謝します」
精巣ガンと診断された35歳の2児の父がホームページに書き残した遺書。「死ぬことは怖くありません。人間、いつかは死ぬのだから。でも、子供たちが成人するまで生きられないことは、親としてとてもつらいことです。 /しかし、生前にこの文章を書くことができて、幸運だったと思います。/思い返せば、私の人生は幸運続きでした。/私を支えてくれた皆さんに、感謝します」

「故人サイトは半パブリック」

――たしかに、紹介されている故人サイトは、書き手が読み手の存在を意識していないものも多いですね。

 ええ。でも現実として全体に公開され、ネット空間を漂っている。そういうことから、私は故人サイトは「半パブリック」なものと考えています。

 一般公開されてはいるけれど、書き手や周囲の人は必ずしもそのつもりがない。そして、そこに特性を見いだしている。だから、本で採り上げるにあたり、100%パブリックなものとして「引用の範囲内なら勝手に紹介してもいい」とするのはフェアじゃない。なのでサイトに連絡手段が残されているものは、1年くらいかけて片っ端から連絡して企画意図が伝わるように動きました。遺族や関係者からNGをいただいたら除外して、OKをいただいたり、複数回連絡してなしのつぶてだったりしたら載せるというふうに。
 ただ、それもこちらが考えた筋の通し方でしかありません。この本に対して「不謹慎だ」という声が出てもそれは当然だし、受け止めなければならないと思っています。

「死はインターネットで学べる」

――「故人サイト」だけでなく、ネット空間では「死」とダイレクトに結びつく動画や画像などがあふれていますね。そうしたものに私たちがどのような接し方をしているか、何かお気づきの点はありますか。

 ISによる殺害動画のアップなどがありました。それを見ることを不謹慎と捉えるかどうかというのは人それぞれであるでしょう。ただ、ここで死生学でよく使われるこんな言葉について考えてみたいです。「一人称の死」「二人称の死」「三人称の死」です。「一人称の死」は自分の死、「二人称の死」は家族や恋人など近しい人の死、「三人称の死」は赤の他人の死ですね。基本的には死と向き合う際、それが赤の他人の死であったら一番ストレスはないです。一、二人称の死はそうはいかないですよね。

 普通に流通している死の情報というのは、どうしても楽な方でありたいから、私たちは三人称の死として捉えがちです。その人の死を自分の家族や恋人の死に置き換えることは、大抵の人はしない。「縁起でもないことするな」となります。そうなると、死について深く考える材料にはなりにくい。また、そういうつもりで発信しているわけではない死の情報も多いので、まあ、玉石混淆なんだと思います。

 ただ、故人サイトのなかには、深く読み込むと、生前のその人の様子や人間関係が浮かび上がって、場合によっては一人称の文章として深くその人の生を追えるものもあります。それは非常に得がたい体験のはずです。「自分が死ぬとなったらどうしようか」なんて家族の中でも腹を割って話す機会ってそうないと思うんですが、そうしたサイトを深く読み込むことで、様々な境遇や考え方を持つ様々な人が対峙した死と相対していろいろと考えることができると思います。

「死はインターネットで学べる」と語る古田さん
「死はインターネットで学べる」と語る古田さん

 別に「真面目に死について考えろ」と偉そうに言うつもりはありません。ただ、亡くなった人のサイトだからと腫れ物扱いするにはあまりにももったいない、ということを知ってもらえたらと思うんです。

 「死はインターネットで学べる」。そう思います。

<ふるた・ゆうすけ> 1977年、名古屋市生まれ。名古屋工業大学卒業後に上京し、建築系現場監督と葬儀社スタッフを経て、編集プロダクションに勤務。現在はフリーライター。
     ◇

 2月11日(木・祝)に埼玉県川口市川口1-1-1の「川口市立映像・情報メディアセンター メディアセブン」で、古田さんによる「亡くなった人が残していったホームページ達」と題したトークイベントがあります。14~16時。参加費500円。先着40人。メディアセブンの公式HPから申し込み。

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