お金と仕事
リプトンから「朝の紅茶」、キリンの反応は… 比較広告ってアリ?
リプトンが9月に発売した新商品のネーミングが話題となっています。その名も「朝の紅茶」。ライバル社を意識するような戦略、その背景には何が?
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リプトンが9月に発売した新商品のネーミングが話題となっています。その名も「朝の紅茶」。ライバル社を意識するような戦略、その背景には何が?
9月に発売された紅茶ブランド「リプトン」の商品名に、思わず足を止めてしまいました。その名も「朝の紅茶」。紅茶といえば、キリンビバレッジの「午後の紅茶」があまりにも有名ですが、それに似ているような…。かの有名なアメリカの「ボストン茶会事件」から240年余り。紅茶界の新たな火種となってしまうのか…。プロ野球・千葉ロッテマリーンズの「挑発ポスター」を手がけるコピーライターは「業界を盛り上げるためならアリ」と歓迎しています。
「朝の紅茶」は紙パックのリプトン製品を販売する森永乳業が9月8日に発売。レモンティーとピーチティーの2種類があり、330ミリリットル入り122円(税別)です。発売直後にJR東京駅であった販促イベントを訪ねると、ポスターのキャッチコピー「私は、朝の紅茶」が目に飛び込んできました。そして、配布されているサンプルにも、「午後じゃなくて!?」の文句。就職活動中の金沢大学の男子学生(23)はサンプルを受け取り、「パクリじゃん」と取材に一言。午後の紅茶の派生商品と勘違いしている人もいました。
ツイッター上でも「ネーミングが際どくない…?」「煽っててわろす」といった反響が。狙い通りかと思いきや、開発を担当した森永乳業の益田多美さん(31)は「午後の紅茶は意識していません」ときっぱり。同僚の野﨑祐さん(34)は「むしろ、朝にコーヒーや水を飲む人に新たな選択肢を提示したかった」と話しました。
リプトンの朝の紅茶ってどうなの?味がどうとか以前にネーミングが際どくない…?
— シャルル (@rsfsr030) September 10, 2015
リプトンの朝の紅茶とかいう試供品もらったけど 午後じゃなくて?! とかかいてあって煽っててわろす
— kurasto (@kurasto) September 10, 2015
新商品は昨年の夏に開発がスタート。市場が縮小している業界を活性化するため、インターネットの調査でニーズが高かった「朝にふさわしい紅茶」の商品化に取りかかったそうです。香りを感じてもらえるよう、従来の2倍の紅茶葉を使いながらも、低温で抽出することですっきりとした後味を実現。隠し味のハーブがさわやかさを表現しています。東京駅でサンプルを受け取っていた都内の会社員女性(22)は「さわやかな甘さがいい。コーヒーを飲みたくない朝もあるので」と評価していました。
肝心のネーミングについては、「朝tea」や「モーニングティー」など50以上の案から「朝の紅茶」と「モーニングリプトン」に絞り込まれ、ネット調査で「朝の紅茶」に。益田さんは「パッと見てすぐにコンセプトが伝わる」と話します。
一方のキリン。広報担当者は「駅の広告を見て、『おっ、似てる』と思った」と寝耳に水だったようです。しかし、「今年で30年目になる『午後ティー』が定着しているからこそ、朝に訴えるアイデアが出たんだと思います」と冷静な対応。「話題化されて、紅茶市場が盛り上がるのはいいこと」とライバル社へエールを送りました。
キャッチコピーでは最近、サントリービールが新商品のテレビCMで「ドライに生きて、楽しいか」と打ち出したことも話題がなりました。アサヒビールの主力商品への「挑戦状」ともとれるCMですが、サントリーの幹部は「皆で仲良くやろうという意味だ」。アサヒの社長も「競合各社がいろいろ言っても意に介さない」と受け流しましたが、ツイッター上でも「際どいところ攻めてるな~」「喧嘩売ってて笑った」と反応が上がってます。
「意識していないはずはないと思いますよ」と話すのは千葉ロッテの「挑発ポスター」を手がけるコピーライターの渡辺潤平さん(38)。元博報堂社員でもある渡辺さんによると、こうした手法は「比較広告」と呼ばれ、コカ・コーラを意識したペプシコーラの広告が有名だといいます。しかし、「最近は比較広告を提案すると苦い顔をされる」と渡辺さん。業界内の複数の企業を同じ広告代理店が担当しているため、他社と比較しないよう「自主ルール」が働いていると分析します。
それだけに「こういうプロモーションは勇気があっていい」と話す渡辺さん。比較広告でも、業界全体を盛り上げていく目的でやれば、ネガティブなものにはならないとみています。渡辺さんが作成したクライマックスシリーズのポスターも、福岡ソフトバンクホークスに対し「いい思い出しか残ってないぞ!」とかなり「攻めた」文言になっていますが、これも「話題になることで『CSやってるんだ』と関心が高まってくれれば」と狙いを話してくれました。
一方、企業広報に詳しいコンサルタント鶴野充茂さんは「比較広告のような手法は、油断すると業界内の内輪ネタになってしまう危険がある」と指摘。「実際にその商品がもたらすユーザー体験や驚きを的確に表した表現でなければ、定番商品になることは難しいだろう」とみています。また、渡辺さんは「相手側をおとしめるようなことになってはならない」とモラルも大切になると強調。「要は作り手の愛情やセンスの問題になると思います」と話しました。
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