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中国で最も有名な日本の書店、激動の80年「最近、旅行ガイドが…」
中国で最もよく知られている神保町の書店「内山書店」。開店80年の老舗が見つめた日中関係の歴史を聞きました。
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中国で最もよく知られている神保町の書店「内山書店」。開店80年の老舗が見つめた日中関係の歴史を聞きました。
中国で最もよく知られている日本の書店が、神保町にあります。今年、開店80年の「内山書店」です。戦前、上海にあった同名の「内山書店」をルーツに持ち創業者は魯迅と交流、中国の中学教科書にも載っています。上海時代を入れると、創立から100年近くの歳月、日中の歴史を見つめてきました。「最近は旅行ガイド本が売れなくなった」と言います。本屋から見る時代の変化について、内山書店4代目の内山深店長に聞きました。
現在の内山書店のルーツ、上海の内山書店は1917年、岡山県出身の内山完造が創立しました。最初は自宅玄関で開いた小さな本屋でしたが、1924年に本格的な書店となり、上海に住む日中文化人の交流の場になっていきました。
1930年代に入ると日中は戦火を交えますが、それでも文化人の交流は続き、完造と魯迅の親交は美談として語り継がれていきます。完造は新中国建国後も日中友好に尽力し、中国で没しました。
現在、神保町にある内山書店は、完造の弟である嘉吉が1935年に設立しました。最初は世田谷の祖師谷大蔵にありましたが、1968年に神保町すずらん通りに移転しました。書店に掲げている看板「内山書店」の四文字は、中国の文豪・郭沫若の題字です。
中国関連書籍の専門書店として営業してきた内山書店。時代の変化は、その時々のベストセラーにも現われます。
1980年代、店頭で多く置かれていたのは、老舎や巴金などの文筆家の作品や、著名な学者が書いた哲学などの研究書でした。しかし1990年代以降、中国で大量の学術書籍が出版されると、質がよいものが減り、販売も難しくなりました。
現在は語学を中心に、実用書や小説がよく売られています。そのなかに、特に中国の「80後」作家の韓寒、郭敬明の小説が人気です。
韓寒は中国では最もハンサムな作家とも呼ばれており、国語を含む7科目が不合格だったため高校退学するなど、作家としては型破りな生き方で有名です。小説『三重門』『零下一度』などが中国で文学賞を獲得しています。韓寒は、作家をしながらレーサーとしても活動しています。最近は映画監督にもなりました。ブログなどでは常に鋭いコメントを発信し、ウェブ上ではオピニオン・リーダー的な存在になっています。
このように、中国社会の変化が、日本の本棚にも反映されています。
中国で人気の日本の書籍にも動きが出ています。内山書店によると、最近、人気なのは雑誌『知日』(ZHI JAPAN)です。2011年1月に創刊された『知日』は、日本の文化、歴史などを広く取り上げています。主な読者層は北京・上海・広州の30歳以下の若者です。毎月5-10万部の発行されています。
小説家では、なんと言っても村上春樹さんが人気です。漫画では長く『ワン・ピース』(中国語『海賊王』)が人気でしたが、最も旬なのは『深夜食堂』です。深夜食堂の、お客さんたちにまつわる心温まる、時々ほろ苦い物語は、中国人の心もとらえています。
政治的な問題は、書店にも影響を与えます。内山深店長によると、2000年以降、日中関係で政治的な問題が起こると、中国の旅行関連のガイドブックの売り上げが減るようになったそうです。
北京大学に留学したこともある内山深店長は「経済が発展し、中国では町並みがどんな急激な変化を遂げたとしても、根底にある人間性は変わっていない」と言います。
日中の歴史とともに歩んできた「内山書店」。4代目となる内山深店長は「中国人って、どこか無愛想のように見えるところもありますが、親身になって親切にしてくれることも多いんです。これからも日中の文化交流の場を続けていきたいと思っています」と話しています。
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