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「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに…」日常を揺さぶる視点
ある人にとって当たり前と感じることでも、別の人からみればそうでないことがあると、身近な例えで表現したキャッチコピーがあります。
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ある人にとって当たり前と感じることでも、別の人からみればそうでないことがあると、身近な例えで表現したキャッチコピーがあります。
「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」(タイトル=めでたし、めでたし?)「食べていいものと、食べちゃいけないものの、境目ってどこだろう。」(タイトル=動物図鑑)。ある人にとって当たり前と感じることでも、別の人からみればそうでないことがあると、身近な例えで表現したキャッチコピーです。これらを手がけたのはコピーライターの山﨑博司さん(31)。伝えたいことを伝えるために何が必要なのか、山﨑さんに聞きました。
山﨑さんは2010年に博報堂に入社。現在は、アメリカの広告会社と合弁で設立した「TBWA HAKUHODO」に出向中です。「めでたし、めでたし?」は、2013年度「新聞広告クリエーティブコンテスト」の最優秀賞を、「動物図鑑」は、同じく2014年度の優秀賞を受賞。コピーライターやCMプランナーの団体「東京コピーライターズクラブ」の2014年度最高新人賞も獲得するなど、気鋭の若手です。
早稲田大学大学院で建築学を専攻していた山﨑さん。博報堂のインターンシップに参加したことで、コピーライターという仕事に興味を持ちました。「建築とコピーライターの仕事は近いものがあります。それぞれ建築主やクライアント(顧客)がいて、課題を解決しながら依頼主の想像を超える提案をするという点です」
入社後、半年の研修を終えて現場に配属されたとき、師匠のコピーライターから「キャンペーンコピー100本書いてきて」と言われて準備した打ち合わせ会議。A4用紙に書いたコピーを1枚ずつ見せていったものの、まったく反応がなかったそうです。「大量の汗が湧き出てきて、自分の無知さをこれでもかと思い知った瞬間でした」。その後に師匠のコピーが出されると「これ、いいね」と声が上がりました。最終的にはチームとして競合他社に勝ったものの、嬉しいとも何とも思わなかったという山﨑さん。ここから3年間、毎回100本づつコピーを書き続けたといいます。
そんな山﨑さんの転機となった仕事が二つあります。その一つが「ふるさと」をテーマにした広告デザイン賞に挑戦したときのことです。
山、川、田園、おじいちゃん、おばあちゃん、治安の良さ……といった自然や人のやさしさを表現したコピーをつくっていたら、師匠からこう言われました。「当たり前のこと書いても、誰も振り向かないんじゃない? 広告を見た人が田舎に移り住んでみたくなることを書かなきゃ」
そのときに思い出したのが、高校時代に見たアマゾンが日本に進出するというニュース。アマゾン、アップル、グーグルといった企業は、本社がニューヨークやワシントンではなく地方都市や郊外にあります。そこで考えたコピーが「グーグルの本社は、田舎にある。」。これに「ネットの時代は、地方の時代。世界はもうはじめています。」と添えました。このコピーで奨励賞を受賞。「コピーは視点だ、ということを身をもって学びました」と山﨑さん。
もう一つの転機が携帯電話の防水性能を訴求するラジオCM。
朝の洗顔に始まって夜寝るまでに何度も触れる水。「1日を水の音だけで構成し母親の語りで聞かせたらどうか」というアイデアを出したときに師匠から言われた一言。「企画はあるけど世界観がないね」。
この母親はどんな人なのか。普段どんなことを考えていて、どういう口調なのか。そして、作り手である自分は誰にどういった気持ちでこのラジオCMに触れて欲しいのか。そうした点まで想像していないから魅力がないということを指摘されたのです。「コピーは視点だということに加えて、コピーや企画を詰めるときには、しっかりとした世界観が必要だということを実感しました」
そんな山﨑さんが一気に注目を集めたのが「めでたし、めでたし?」のコピーでした。
ここには日頃から感じていた思いを込めています。戦争や紛争、独裁的な国家指導者のニュースを見ていて思うこと。「自分は当事者としてそこに居ないのに、この報道が正しいと判断できるか? 一部の情報だけで決めてしまったら、間違うこともあるんじゃないか?」
「しあわせ」というテーマに対し、本当にしあわせかどうかを問いかけるコピーで勝負しました。「みんなが知っている桃太郎をもとに、当たり前に使われる『めでたし、めでたし』が、異なる視点から見ればそう言えないのでは、ということを表現しました。広告を見た人が一度立ち止まり、自分の中にさまざまな視点を持つことの大切さを考えるきっかけになれば」
翌年の「動物図鑑」も根底に同じテーマがあります。捕鯨やイルカ漁が国際的な話題になるなか、動物図鑑というタイトルでさまざまな動物を並べて、「食べていいものと、食べちゃいけないものの、境目ってどこだろう。」とメッセージを添えました。「ペットとして飼っているから? 知能の高い動物だから? 見た目がグロテスクだから? 戒律で禁止されているから? どの立場で、どの国で、どの時代で捉えるかによって食というものは変わると考えて、こう表現しました」
そんな山﨑さんに、これからの広告づくりについて聞きました。
「クライアントの希望を盛り込むだけが広告ではありません。期待に応えるべく提案した上で、その先にいる生活者を常にイメージするようにしています。それがクライアントの利益や満足に貢献すると思うからです。一方的に伝えるのではなく、考えてもらって『自分事』にしてもらえる。そんな広告をこれからも作り続けていきたいと思います」
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