お金と仕事
ココナッツサブレ、味も製法も変えず半世紀 年6億枚の稼ぎ頭に
日清シスコが製造している「ココナッツサブレ」。発売開始から今年で50年を迎えました。ロングセラーの秘訣(ひけつ)は「あえて変えない」です。
お金と仕事
日清シスコが製造している「ココナッツサブレ」。発売開始から今年で50年を迎えました。ロングセラーの秘訣(ひけつ)は「あえて変えない」です。
日清シスコが製造している「ココナッツサブレ」。発売開始から今年で50年を迎えました。原材料や製法をほとんど変えることなく毎年6億枚以上を製造していて、その長さは縦につなげると地球一周以上になります。半世紀たった今年は大幅なイメチェンに取り組んでいます。ロングセラーの秘訣(ひけつ)は「あえて変えない」です。
ココナッツサブレが発売されたのは1965年。22枚も入って価格は100円前後、食べ飽きないシンプルな味が売りの商品ですが、発売当時は違いました。ビスケットといえば乾パンのような粉っぽいものが主流だったころ、表面に砂糖が塗ってあってココナッツの味がすることから、高級な洋菓子として受け入れられていました。ココナッツ→南国→ハワイ→あこがれの海外旅行といったイメージも一役買っていたようです。
日清シスコの売り上げの柱は菓子とシリアルです。その菓子部門の売り上げの半分以上はココナッツサブレが占めています。このことからも、この商品が今でも同社の大黒柱であることがわかります。
発売から50年経ちますが、変わったのは一袋あたりの枚数が減ったことと、ココナッツの量を増やしたことぐらい。使う材料や製法は変わっていません。
・一等粉と呼ばれる小麦粉を2種類ブレンド
・ココナッツフレーバーは使わずココナッツにこだわる
・ココナッツの粒の大きさを二つに分けて食感の違いを出す
・砂糖はまぶすだけでなく熱で溶かすことで味をしみ込ませ、パリッとした食感にする
マーケティング部のブランドマネージャーを務める松長直樹さん(41)は、同業他社から転職してきました。前の会社でも国民的なロングセラー商品を担当していましたが、ココナッツサブレとは異なる点があるといいます。「定番商品といえども時代に合わせて細かな改良をすることがあるなか、この商品は本当に変わっていないのです」
変わらないのは味だけではありません。価格もほぼ据え置いています。原料が高騰した際に枚数を減らしたものの、製法や品質は変えなかったといいます。「安定的に売れ続けているからこそ価格を据え置くことができるんです。逆に、売れているからこそ値上げしたり、品質を下げたりできない面もありますけどね」
カロリーを抑えた商品も開発したそうですが、販売は見送られました。「それでは別な商品になってしまう」。変わらないことがココナッツサブレらしさだという自負がありました。
ロングセラーゆえの悩みもあります。購買層のうち50代以上が半数超を占めているのです。このままでは数十年後に商品が消えてしまうおそれがあります。
若い世代に試食してもらうと「おいしいけど、店で見かけない」という声が多く聞かれました。実際は多くの店頭に並んでいるにもかかわらず、認知されていないことに気づきました。そこで取り組んだのがパッケージの改良です。
半数以上を占める50代のお客さんにとっては、ひと目見たら分かるデザインで、なおかつ若い世代にもアピールできるパッケージとは? あれこれ検討した上で完成したのが昨年9月から使用している包装です。「雲竜模様」と呼ばれる和紙のような白い筋が入った柄をやめて、商品名はシンプルな字体に。両端の茶色い部分の面積を増やして目立つようにしました。
また、発売50年を記念して今年は「おかしなイメチェン」と題したキャンペーンを実施。「ココから変わろう」をスローガンに、アイドルグループ「私立恵比寿中学」をイメージキャラクターに迎えて「五五七二三二〇(ゴー・ゴー・ナナ・ニー・サン・ニー・レー)」(=ココナッツサブレの語呂合わせ)というバンドを結成しPR。期間限定でコラボパッケージも展開しています。
イメチェンといいながら、特設サイトの「50年の歩み」の欄では発売から10年おきに世の中で話題になった出来事を取り上げつつ、説明の末尾に「ココナッツサブレは、特に何もありませんでした」と自虐的に変わらなかったことをアピールしています。
そんなココナッツサブレはこれからどうなっていくのか? 松長さんは「オンリーワンだからこそ変わらないのです。より多くの人に楽しんでもらえるようマーケティングしていきたいと思います」と話します。