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ゴリラの胸たたき、グーじゃなかった 世界中を誤解させた名作映画
知っているようで意外と知らないゴリラ。胸をたたく手、実はグーじゃないって知ってました?
まずはみなさん、ゴリラのマネをしてみてください。手をだらんとたらして歩いたり、胸をたたいてみたり…。はい、その手。もしかしてグーじゃありませんか?それ実は正しくはパーなんです。誰もが誤解していたであろう、この事実。ある名作映画の影響がありました。
胸をたたく行動を「ドラミング」というのですが、実は成長した雄ゴリラの胸には大きな袋があり、息でふくらませた胸を開いた手でたたくと、太鼓のように響き、2キロ先まで届くといいます。
しかもこのドラミング、犬のうなり声のような「威嚇」でもないようです。ゴリラ研究の第一人者で現在、京都大学総長の山極寿一さんも初めてドラミングに出合った時は戦いの合図と思い緊張したといいますが、近くに敵らしきものはいないし、他のゴリラたちものんびりしている…。その後の観察で、好奇心を持った時や興奮したとき、自分の気持ちを示すツールだとわかったそうです。
大きな音は出ないものの雌も胸をたたき、赤ちゃんも1歳ぐらいになると、小さい胸の代わりにお腹をたたくそうです。使われる場面もさまざまで子供が遊びに誘うときや、楽しい気分を相手に知らせるときの他、順番に高い所に登ってドラミングをしてみせるなどそれ自体が遊びになっている場合もあるといいます。
本来、平和的なゴリラのドラミングにどうして攻撃的なイメージがついたのか。山極さんは朝日新聞の取材に、映画「キング・コング」(1933年)の影響ではないかと語っています。
19世紀にヨーロッパ人によって発見されたゴリラは恐ろしい野獣のイメージで、それを元につくられた映画のキングコングは人間の数倍の大きさの巨大な猿。見せ物にするために連れてこられたニューヨークでドラミングしながら人間に抵抗し、エンパイアステートビルに登って戦闘機と戦う姿は人々の印象に強く残りました。これを機にドラミングは相手を脅す行動だと誤解が広まったとみられます。
しかし実際は、群れのリーダー同士がドラミングで自己主張し、「群れが近づきすぎないよう警告し合っている」と山極さん。戦うためでなく、むしろ戦いを避けるための手段だそうです。
そんな山極さんが京大の総長になるにあたって語った抱負は、「ゴリラのように泰然自若としていたい」。今後ゴリラのマネをするにしても、一般的に定着したイメージから「パー」では伝わらない可能性も大ですが、せめて、誤解されがちなゴリラの本来の平和的な姿は覚えておきたいものです。