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2015年03月08日

ホテルオークラ、アートの塊 ハウエルも惜しむ、モダンと伝統の芸術

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ホテルオークラ東京の本館ロビー

ホテルオークラ東京の本館ロビー


 日本モダニズム建築の代表格「ホテルオークラ東京」の本館が、建て替えのため8月末で閉館します。日本の伝統美がつめこまれ、「1万8千坪の芸術」のキャッチフレーズで1962年に開業しました。外国人客からも愛され、30年来定宿にしてきたマーガレット・ハウエルさんは建て替えを考え直してほしいと訴えているほどです。最近は、アートや建築に関心のある若者らがカメラ片手に次々と訪れるようになっています。

ホテルオークラ東京の本館。坂の上にあり、アクセスがよいとは言えず「わざわざホテル」と呼ばれることも。周辺には大使館が多い

ホテルオークラ東京の本館。坂の上にあり、アクセスがよいとは言えず「わざわざホテル」と呼ばれることも。周辺には大使館が多い

本館の正面玄関を入ったところ。起伏のある敷地で、5階が正面玄関、地上6階地下4階の建物になっている

本館の正面玄関を入ったところ。起伏のある敷地で、5階が正面玄関、地上6階地下4階の建物になっている

出典: ©ホテルオークラ東京

贅をつくした建物まるごとアート

 ホテルオークラ東京は、帝国ホテル社長などを務め、大倉財閥当主だった大倉喜七郎氏が私財をなげうち、美を究めた建築物です。設計委員会は谷口吉郎氏ら5人が結集。当時第一線で活躍していた日本画家や華道家などによる意匠委員会も設けられました。
 特徴的なのはロビー。公共の場と考え、誰にでも開かれたスペースです。あえて喫茶室にはなっておらず、梅の花の形に並べられたイスとテーブルでは、ビジネスマンが打ち合わせをする光景も見られます。

本館ロビー全景

本館ロビー全景

出典: ©ホテルオークラ東京

輪島塗のテーブルとイスは満開の梅の花に見えるように置かれている

輪島塗のテーブルとイスは満開の梅の花に見えるように置かれている

四弁花の壁面。デザインは人間国宝・富本憲吉氏、西陣のつづれ錦で製作した。非常に手間のかかる作業で、織物の一片が出来上がるたびに列車や飛行機で運び、完成したのは開業レセプションの当日午前5時だったという

四弁花の壁面。デザインは人間国宝・富本憲吉氏、西陣のつづれ錦で製作した。非常に手間のかかる作業で、織物の一片が出来上がるたびに列車や飛行機で運び、完成したのは開業レセプションの当日午前5時だったという

出典: ©ホテルオークラ東京

 やわらかい落ち着いたムードで、居心地がよいと評判のロビーですが、静けさと間接照明のランタンがもたらす効果かもしれません。
 ロビーに喫茶など商業スペースを設けなかったのは、食器の音やスタッフが動き回る音が出てしまうからです。フロントやエレベーターも奥まったところにあり、ざわつきが遮られるようになっています。
 ランタンは「オークラ・ランターン」と呼ばれ、古墳時代のネックレスなどに使われた切子玉がモチーフです。内側に和紙がはられ、光を和らげています。窓からは麻の葉文様の木組スクリーンと障子越しに陽光が差し込みます。

オークラ・ランターン

オークラ・ランターン

本館ロビー。障子に映る竹林の影が刻々と変わり、幽玄な雰囲気が漂う

本館ロビー。障子に映る竹林の影が刻々と変わり、幽玄な雰囲気が漂う

出典: ©ホテルオークラ東京

 オバマ大統領はじめ歴代の米大統領やシラク仏大統領ら外国の要人らが宿泊しています。開業当初は9割近くが外国人客でした。ハリウッド・スターのユル・ブリンナー、ジョージ・チャキリス、チャールトン・ヘストンらが宿泊した記録が残っています。
 また、高円宮憲仁さま・久子さまの披露宴や中村勘九郎さん(当時)の結婚式、江川卓投手の巨人入団会見なども行われました。さまざまな歴史を刻んできたのがわかります。
  麻生太郎氏が首相時代、連日の高級バー通いで話題になった一軒「オーキッドバー」もあります。

本館「オーキッドバー」。麻生太郎氏の「首相動静」記事にも登場

本館「オーキッドバー」。麻生太郎氏の「首相動静」記事にも登場

出典: ©ホテルオークラ東京

オーキッドバーを飾るランの花の形をした吹きガラス。ガラス工芸家で文化功労者の岩田藤七の作

オーキッドバーを飾るランの花の形をした吹きガラス。ガラス工芸家で文化功労者の岩田藤七の作

出典: ©ホテルオークラ東京

 外装を担当したのは小坂秀雄氏。なまこ壁は、特注の平瓦をコンクリートの壁に張りつめ、目地には白いタイルをつけています。
 三角形の鱗紋のタイルは、雨ざらしになったら変色するのも計算して、特注されました。

外壁の「なまこ壁」

外壁の「なまこ壁」

本館エントランスの上部にある鱗紋。雨ざらしになった時の色の変化も計算された特注のタイルを使っている

本館エントランスの上部にある鱗紋。雨ざらしになった時の色の変化も計算された特注のタイルを使っている

 建物は東翼・南翼・北翼の3翼からなる三ツ矢式建築で、どの部屋からも窓の外の景色が眺められるようになっています。日本で初めて導入されました。

東・南・北の三翼からなる「三ツ矢式建築」

東・南・北の三翼からなる「三ツ矢式建築」

出典: ©ホテルオークラ東京

 建築美としては、派手な桃山式ではなく、平安時代中後期の洗練された優美さを基調にしています。
 ホテル内を歩くと、壁や仕切りなど、さまざまな文様が目に入ります。当初20種類が使われましたが、改修などを重ね、今では把握できないそうです。代表的なのは菱とイチョウです。菱は大倉家の家紋(五階菱)、イチョウはホテル用地にもともとイチョウの木が多かったことにちなみます。

エントランスのガラスに描かれたイチョウ。ピカピカに磨かれたガラスに気づかず、ぶつかるのを防ぐ心配り

エントランスのガラスに描かれたイチョウ。ピカピカに磨かれたガラスに気づかず、ぶつかるのを防ぐ心配り

仕切りに使われている麻の葉文様。つなぎ目に釘などを使っていない

仕切りに使われている麻の葉文様。つなぎ目に釘などを使っていない

本館宴会場ロビーにあった藤のシャンデリア。東日本大震災のときに薄紫のクリスタルガラスが破損し、いまはもうない

本館宴会場ロビーにあった藤のシャンデリア。東日本大震災のときに薄紫のクリスタルガラスが破損し、いまはもうない

出典: ©ホテルオークラ東京

本館宴会場エントランスにある藤のシャンデリア。右側にみえるのは霞棚形の木桟(もくさん)。長短の直線を互い違いに配し、たなびく霞を表現

本館宴会場エントランスにある藤のシャンデリア。右側にみえるのは霞棚形の木桟(もくさん)。長短の直線を互い違いに配し、たなびく霞を表現

出典: ©ホテルオークラ東京

本館と別館をつなぐ通路脇にある白黒の水盤は畳紋を取り入れたもの

本館と別館をつなぐ通路脇にある白黒の水盤は畳紋を取り入れたもの

本館の外観の菱紋

本館の外観の菱紋

宴会場の壁は鱗文様

宴会場の壁は鱗文様

宴会場ロビーにある「錦張り」。上代裂と名物裂の復元品100種を張りまぜた装飾

宴会場ロビーにある「錦張り」。上代裂と名物裂の復元品100種を張りまぜた装飾

トイレ標識もレトロ感が漂う

トイレ標識もレトロ感が漂う

 公共スペースであるロビーなどには和にこだわりましたが、宿泊する客室は機能性を追求した西洋式です。お客様が心底くつろげる空間にするためです。最も工夫されたのはバスルームで、出入り口の敷居も段差もなくし、傾斜をつけることで湯水が流れ出ることを防ぐ設計になっています。また、日本で初めてバスルームに電話が取り付けられたそうです。

本館の基本仕様の客室。客室は洋式の利便性を追求している

本館の基本仕様の客室。客室は洋式の利便性を追求している

出典: ©ホテルオークラ東京

マイナスイオンの空調や多機能シャワーなど、癒やしを極めた客室

マイナスイオンの空調や多機能シャワーなど、癒やしを極めた客室

出典: ©ホテルオークラ東京

宴会場「平安の間」。左右上部には国宝「三十六家集三十七帖」の料紙を模した大壁画がある

宴会場「平安の間」。左右上部には国宝「三十六家集三十七帖」の料紙を模した大壁画がある

出典: ©ホテルオークラ東京

国宝「三十六人家集三十七帖」の料紙を模した壁画

国宝「三十六人家集三十七帖」の料紙を模した壁画

別館にはジョン・レノンが通ったバーも

 1973年に建てられた別館は営業を続けます。この別館にもオークラ・ランタンをはじめ、本館と同じ意匠がちりばめられています。

 ジョン・レノンが通ったバー「ハイランダー」も別館にあり、いつも座っていた席は「ジョン・レノンシート」として残っています。ジョン・レノンはお酒は飲まず、アフタヌーンティーを楽しんでいたそうです。

別館ロビー。棟方志功原作「鷺畷の柵」を白黒の陶板タイルで制作したモザイク画で、横30m×縦4mある。下の壁はインド砂岩。天井のライトはアトランダムに配置され、やわらかい光になっている

別館ロビー。棟方志功原作「鷺畷の柵」を白黒の陶板タイルで制作したモザイク画で、横30m×縦4mある。下の壁はインド砂岩。天井のライトはアトランダムに配置され、やわらかい光になっている

別館ロビー。コンセプトは本館と同じで、落ち着いた雰囲気

別館ロビー。コンセプトは本館と同じで、落ち着いた雰囲気

出典: ©ホテルオークラ東京

別館にある「バーハイランダー」。スコティッシュバーで、絨毯は赤いチェック柄。海外から着いたばかりのお客様も利用できるよう午前11時半に開店

別館にある「バーハイランダー」。スコティッシュバーで、絨毯は赤いチェック柄。海外から着いたばかりのお客様も利用できるよう午前11時半に開店

ジョン・レノンシート。誰でも座れ、このシートご指名で訪れる人もいるという

ジョン・レノンシート。誰でも座れ、このシートご指名で訪れる人もいるという

別館地下1階から本館へ向かう階段上にある照明。彫刻家・橋本正司氏がデザインした

別館地下1階から本館へ向かう階段上にある照明。彫刻家・橋本正司氏がデザインした

出典: ©ホテルオークラ東京

別館エスカレーターにあるイチョウ文様

別館エスカレーターにあるイチョウ文様

別館ロビーにある棟方志功原作のライト

別館ロビーにある棟方志功原作のライト

別館アーケードの絨毯は鱗紋

別館アーケードの絨毯は鱗紋

別館ロビーの天井

別館ロビーの天井

建物しのぶアーティストやデザイナー

 本館の建て替えを巡っては、反対する声もあります。ボッテガ・ヴェネタのクリエイティブディレクター、トーマス・マイヤー氏もInstagramでオークラにちなんだ写真の投稿を呼びかけるプロジェクト「#MyMomentAtOkura」を始めました。「匠の技と魔法が詰まったこの建物への関心を広めたい」という呼びかけに、歌手の野宮真貴さんやモデルのKIKIさんやが写真をあげています。
 歌手の矢野顕子さんは「本当に惜しい」とツイートしています。

匠の技と魔法が詰まったこの建物に対する関心を広めていきたいと考えています。その一瞬一瞬が、この歴史的建造物の持つ重要性の再認識につながります

出典:ボッテガ・ヴェネタHP


 本館は8月末で営業を終え、2019年春に再開業します。11階建ての本館を取り壊し、38階建てと13階建ての2棟を建てます。
 開業時は港区の高さ制限があり、低層になったそうです。今回は都の緑化規制で敷地内に緑を増やす必要があるため、同じものには建て替えられないそうです。新たな本館にも意匠やコンセプトは引き継がれるため、同ホテル広報課では「伝統を引き継いだ新たなオークラを楽しみにしていて下さい」としています。従業員たちは再開業までの間、海外の系列ホテルを含め、各地で研鑽を積む予定です。

新しいホテルオークラ東京の完成予想図。中央が38階建ての本館

新しいホテルオークラ東京の完成予想図。中央が38階建ての本館

 建て替えへの賛否はありますが、語り継がれる建築であることは間違いありません。ホテルオークラ東京は「公共性」を大切にしているため、用がなくてもふらりと訪れることができます。こだわりを味わいに一度、探訪してみてはいかがでしょう。

20年の東京五輪を見越して客室を408室から550室に増やし、高層階はオフィスにする。現在の別館(388室)はそのまま営業を続ける

出典:朝日新聞:ホテルオークラ東京、建て替えへ 五輪見越し、19年春再開業

ホテルオークラ東京本館の館内および外観が写った思い出の一枚を募集するフォトコンテスト ~その一瞬が宝物~ を実施いたします

出典:ホテルオークラHP


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