話題
「セーラー服おじさん」が語る現代社会 承認欲求とシステム至上主義
女子高生を中心に「見かけたら幸せになれる」とウワサの「セーラー服おじさん」こと、小林秀章さん(51)。じつは大手企業の技術者で、海外からの取材にも流暢な英語で応じる。そんな彼が、現代の日本社会を語った。
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女子高生を中心に「見かけたら幸せになれる」とウワサの「セーラー服おじさん」こと、小林秀章さん(51)。じつは大手企業の技術者で、海外からの取材にも流暢な英語で応じる。そんな彼が、現代の日本社会を語った。
まるで落ち武者のような白髪。口元には仙人のようなヒゲの三つ編み。そして、身に着けているのはセーラー服。女子高生を中心に「見かけたら幸せになれる」とウワサされているのが「セーラー服おじさん」こと、小林秀章さん(51)だ。
平日は大手企業に勤めていて、技術者として携帯電話のカメラ機能に関する特許も手がけた。CNNにも取材され、見事な英語で応じた。
そんな小林さんの目に、現代社会はどう映るのか。
まず、はやりの「承認欲求」について尋ねた。
小林さんが昨年10月に大阪を訪れた際に「事件」は起こった。高校生らから写真撮影を求められ応じていると、警官が到着して職務質問された。実はこのうちの一人が通報し、職質の様子をツイッターに上げたのだ。
これに対し、「被害者」である小林さんに代わってネット民たちが「加害者」の特定を開始。まもなく学校が特定され、学校側がホームページに謝罪文を掲載する騒ぎになった。
自分が当事者でもないのに糾弾する。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が言うところの「怒りの代理人」だ。
小林さんは、騒ぎの収束を期待して、こうツイートした。
「うーん、なんかすさまじい炎上っぷりだなー。職質ったって、警官笑ってたし、有名な人ですか? って聞かれただけだし。その程度のこと、本人ぜんぜん気にしてないんだけどなー。」
騒動は1週間ほど続いた。
事件の背景には、承認欲求がある。小林さんは、高校生だけでなく、特定に動いたネット民にも、承認欲求の強さを感じたという。
「(職質させといてツイートするといった)いらないことをするヤツはバカだ。何もしてないオレは偉い。これが正しいあり方でしょうか」
小林さんは、現代の日本社会の特徴を「システム」だと考えている。
人間がシステムの一部品になり、自分らしさを発揮することなくマニュアルに従って動くことで、代わりがきく「消耗品」になっている、と。
そんな中で、人は「過適応」と「不適応」に二極化しているという。
【過適応な人】
物事をテキパキと処理でき、細かいところまで考えが行き届いていることを自尊心のよりどころとしている。自分に甘い人や、しょっちゅうミスをする人を低くみることで、相対的に自分を持ち上げている
【不適応な人】
理屈ではなく感覚的にモヤモヤしたものを抱えている。なぜ自分が不適応の側に来ているのかを合理的に説明できない
小林さんは自身を「不適応」だと話す。なぜ、そんな人が世の中に受け入れられ、セーラー服を着て生きることができるのか。
「みんな、システム社会の閉塞感にうんざりしていた。そこへ大きく逸脱した私が現れたから、こりゃ面白い、となったのでしょう。AKBにも通じる『自己実現の委託』だと思います。自分はもう頑張れない、だからあなたに託す、といった。人々が求めているものは『祭り』なんです。江戸末期の『ええじゃないか運動』のような、変革につながる祭りを期待しているんじゃないでしょうか」
他人からの承認を求めながら、他人を承認しようとしない風潮。過適応と不適応に二極化された現代人。これらを加速させているのは「情報のセグメント(断片)化」だと小林さんは言う。
「情報は同じ幻想をもった人々の間では流通します。オタクと言われる人たちが一定のコミュニティを形成するように。ただし、コミュニティを超えてはなかなか流通しません。『分かってもらえない人には教えない』となるから、余計に断片化します」
情報の断片化が進む背景には、「他者より優越した立場にいたい」という願望も影響しているという。
「優越願望という幻想を維持したいから、相手と交わって衝突することを避けます。優越があれば劣等がある。全員の優越願望は幻想によってしか満たされないことを、どこかで気づいているはずなんですけどね」
もはや、現代日本は後戻りできないところまで来ているのだろうか。小林さんは悲観していない。
「必要なのは、セグメントを超えることです。自分探しの旅に出るのもいいし、自分と相いれない人と話してもいい。手を出したことがないジャンルに飛び込んでみるんです。東浩紀さんの本に書いてあるように、ノイズを生みだすことで検索ボックスのサジェスト機能では予測できない人間になればいい」
そう語る小林さんは、現代社会のノイズとして、断片化した社会を変えるためにセーラー服を着ているのか。
「そんな大それた人間じゃないですよ。人々が飽きてきて『あのじいさん、いつまでやってんだよ』とか言われても、平然と続ける。いつしか日常の光景になって誰も気にしなくなる。それでも飄々と続けてる。それでいいんじゃないかと思うんです」
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