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女性向けAVの撮影現場を取材。男目線だけの「エロ」終了のお知らせ
女性が見るためのAVや漫画、小説…女性用の官能コンテンツが盛り上がりを見せています。なぜ今?男性用と何が違うの?
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女性が見るためのAVや漫画、小説…女性用の官能コンテンツが盛り上がりを見せています。なぜ今?男性用と何が違うの?
男性に比べほとんど語られて来なかった女性の「官能」の世界。しかし最近は女性をターゲットに様々なコンテンツが生み出されています。雑誌an・anのSEX特集も手伝い、女性向けアダルトビデオ(AV)も少しずつ普及。2013年には出版社が女性向けの官能小説ラインを創設したり、アダルトグッズメーカー内の女性社員が女性向けグッズを開発したりと、「官能元年」とも言える変化がありました。
しかし、そもそもなぜ今なのか、男性向けと何が違うのか、取材してみました。
まずは何事も経験。女性向け官能コンテンツを見てみました。
AVでも小説でも、男性用と大きく違うと感じたのは、そこに至るまでのストーリーです。男性向けならカットされがちな、「出会いのエピソード」や「互いの戸惑い」も描写されています。
SEXにおける二人のコミュニケーションも重要な要素。女性が戸惑っている時には褒めて安心させたり、無理強いせず「大丈夫?」と確認したり。とにかく男性が女性を大切に思っていることが丁寧に描かれます。
そして、男性のルックスは大切。小説では、周囲の女性も憧れる容姿として描かれることが多いようです。AVでも、人気なのは、黒光りするゴツゴツの「ザ・肉食系」ではなく、さらっとした細身に、かわいい顔。女性向けAVの人気男優で「エロメン」と呼ばれる、一徹さんと月野帯人さんを見ても・・・普通にイケメンです。
また男女のSEX技術も「熟練感」はなくソフトな印象。男性向けAVの場合、女性が「あなたの○○が欲しい」と言うような過度な積極性や、男女の「技術」に引くこともあります。しかし女性向けは、恋人同士ならあり得る会話や場面設定におさまり、ある程度のリアリティを持って楽しめます。
一方、女性向けの官能小説の場合は、男性のセリフが「少女漫画方向」へ進化。生身の人間が言ったら鼻で笑ってしまうようなセリフ、例えば「今日は隅々まで視診したい」(「Dr.高間の発情診察」 フルール文庫)「私は○○以外の女などいらない」なんていうのも許されちゃいます。
では、つくり手側はどんなことを意識しているのでしょうか?女性向けAVの撮影現場にお邪魔してみました。
うかがったのは、監督もADさんも女性が務め、女性向けAVを専門で制作している会社「SILKLABO(シルクラボ)」の現場。シルクラボはAVメーカー大手ソフト・オン・デマンドのグループです。
現れた俳優2人は、表参道あたりにいそうな、おしゃれでかわいい雰囲気の美男美女で、こういうところも男性向けとは違います。男優は新人ながら堂々のセリフ回し。聞くと、女性ユーザーはAVでも男優のルックスや清潔感、そして演技力を気にするそうで、この男優さんも演技経験がある人を口説いたそう。
撮影で印象に残ったのが、男優がコンドームをつけようとした際にせき払いしたところ、カメラマンがストップ。「それちょっと感じが悪いから」と撮り直しになったこと。女性から見て、ちょっとでも嫌な印象を残すものにしないよう配慮されていました。
シルクラボによると、つくり手側にも女性が入り、女性に害がないストーリー展開を心がけているそう。暴力がないことはもちろんのこと、避妊は必ずし、不倫などもあまり扱いません。モザイクに抵抗感を持つ女性もいるため、できるだけモザイクが必要ない撮り方にしているそうです。
顧客層は30~40代中心で主婦が多く、ひとつのファンタジーとしてAVを楽しんでいるようです。性的なものを敬遠していたような人も、一度見るきっかけを得ると、アイドルを追うような感覚で「エロメン」のイベントに参加したり、業界自体に興味を持ったりする人も多いといいます。インターネットの普及で周りの目を気にせず作品を楽しめ、他のファンとつながれるというのもブームを後押ししているようです。
一方の出版業界。2013年の「官能元年」の道を拓いたのは、前年に翻訳出版された小説「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」でした。イギリスの女性が書いたエロティックな描写を含んだ作品で、主婦を中心に全世界で大ヒット。女性向け官能コンテンツへの潜在的ニーズを見せつけました。同じ頃に日本ではタレントの壇蜜さんが人気に。女性からも支持される壇蜜さんがテレビで性について語ることで、一般社会でも受け入れられやすくなったといいます。
KADOKAWAメディアファクトリーも2013年、女性向けの官能小説「フルール文庫」をスタート。編集長の波多野公美さんは「そもそも今は女性も社会進出しているのに、性は男性に教えてもらうか、男性の要望に応えるだけという状況がおかしかった」。女性も仕事で疲れた日などに元気になるサプリメントの一つとして官能コンテンツを提供したいといいます。
「サプリメント」として、いい読後感を残すため、小説でもやはり不倫などはなく相思相愛が基本。ただ設定にはリアリティを出すことを心がけているそうです。例えば男性は貴族や石油王などではなく、獣医やデザイナーなど「高スペックすぎない人」。女性も社会人として自立し、限られた時間の中で恋をし、上司や同僚との関係も描かれます。「ただ男性は弱音を吐いたりはしない。リアリティはあってもリアルじゃない。疲れて読んでいるのに、本の中で愚痴られたら、うっとうしいので(笑)」。
波多野さんによれば、ストーリーを重視するのは、女性の場合、一人の本当に好きな人と結ばれたいという思いが強いから。「男性が自分の身を投じられる人間像かが描かれていないと、そもそもしたいと思えない」
SEXの最中のコミュニケーションも大切にしているそうです。フルール文庫では女性も男性にして欲しいことや、その時の気持ちを正直に伝え、互いにより居心地のいい関係を築いていく。「こういうコミュニケーションが生まれれば、普段は仲がいいのにセックスレスという夫婦も減るはず。男性も読めばこれまで気付かなかった女性の視点が見えてくるのでは」といいます。
取材を通じて感じたのは、女性向け官能コンテンツは、興奮するかよりも、幸せ感を得られるかが大切ということ。性的な描写は多いものの、それは主人公が愛を感じるためのコミュニケーションの一つという印象です。つまりそれだけ、女性の官能は、相手との信頼関係や自分の仕事も含めた、心の安定とつながっているということなんだと思います。
もちろん、官能に求めるものは女性でも人それぞれ。現状の女性向けコンテンツでは物足りない人もいるかと思います。歴史の長い男性向けコンテンツが、設定や撮り方でもあれだけ細分化していることを考えると、女性向けもこれから「進化」するのかもしれません。
企業側は女性のニーズを分析し、女性側もその中で自分の好みを探り、それをリアルな相手とのコミュニケーションにも生かしていく……といういい流れができるのかも。性においても女性が発言力を持つ時代へ、今後の女性向けコンテンツ文化の発展に期待です。