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都議会ヤジ処分求め9万件 署名サイト「チェンジ」広がる理由

都議会ヤジを批判するネット署名は9万件を超えた。一昨年、日本版が設立されたばかりのChange.orgを使い、人々の声を力に変える新しい社会運動とは。

塩村文夏都議に謝罪する鈴木章浩都議=福留庸友撮影
塩村文夏都議に謝罪する鈴木章浩都議=福留庸友撮影 出典: 朝日新聞

目次

何の団体にも所属していない個人が、どうやって9万件の署名を集めたのか

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東京都議会の塩村文夏都議に対する女性差別ヤジは、当初はシラを切っていた自民党の鈴木章浩都議が自分の発言と認めて謝罪した。世論の強い反発が事態をうやむやにすることを許さなかった。その大きな力となったのが、インターネット署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」だ。

身の回りや社会の問題に対し、誰でも自由にネット署名を求めるキャンペーンを始められるチェンジは、米国生まれで一昨年から日本でもサービスを開始した。18日にあった都議会ヤジ問題に対しては、翌日に都内のフリーランス翻訳者の男性が「都議の特定と処分を求める」とキャンペーンをはじめ、24時間で3万件超と「驚異的な記録」(ハリス鈴木絵美代表)で署名が集まった。23日現在、署名は9万件に迫っている。

キャンペーン主の男性によると、都議会の自民党事務局に署名を届けた際、「どこの組織に所属しているのか」という趣旨の質問を何度も受けたという。彼は政治的な団体には所属していない。一人でチェンジを利用し、キャンペーンを集めた。これだけ反響が大きかったことを「正直に言って、驚いている」と話す。

組織的な背景がない個人が、9万件の声を集める。「チェンジ」の拡散力の背景とは――。

「『変えたい』気持ちを形に」 あらゆる願いのプラットフォーム

Change.orgに並ぶキャンペーン
Change.orgに並ぶキャンペーン

「いまある国立競技場を直して使おう」「学童クラブの増設を求める」「無戸籍児支援ファンドの設立を」「吉祥寺バウスシアターの再生を求めます」

これらはすべてChagen.orgのサイト上で現在進行中のキャンペーンだ。身の回りの問題から政治的な課題まで、あらゆるテーマへの署名が募集されており、署名が10万件を超えるものもあれば、数十件程度のものもある。

キャンペーンを始めるのも、署名をするのも簡単だ。姓名とEメールアドレスを登録するか、Facebookアカウントがあれば、それだけで登録できる。キャンペーンを始めたければ、どういった内容で誰に署名を届けたいかを記入する。署名するだけなら、賛同するキャンペーンを探してワンクリックするだけだ。署名したキャンペーンにはコメントすることもできる。

ワンクリックで賛同 シェアで広がる共感

チェンジは一度登録を済ませれば、次からワンクリックだけで署名ができる。一度署名をした人は、次に署名をするときの心理的なハードルが下がる。街中で署名を求められ、少し気になりながらも足を止めて署名をする気にはなれなかった、というのは多くの人が持つ体験だろう。

それ以上に大きいのが、ソーシャルメディア上での「シェア(共有)」だ。

Change.orgのサイトから
Change.orgのサイトから

賛同したキャンペーンをFacebookでシェアすると、友人や知人がそのキャンペーンを知らせることができる。自分の近しい人が賛同しているキャンペーンであれば、信頼度は上がる。こうしてキャンペーン参加者が次々と増えていく。

無戸籍児童を支援したい 休学費を減らしたい 声が力に

Change.orgサイトから
Change.orgサイトから

無戸籍という社会課題がある。民法は「離婚後300日以内に生まれた子どもは前の夫の子と推定する」と定めるが、前夫との関係などから実子と認められずに無戸籍になってしまう人たちだ。推計では、年間3千人生まれ、その状態が長期化している人たちが全国に1万人いるという。戸籍がなければ、あらゆる証明書の取得、進学、就職などに影響する深刻な人権問題だ。

そういった子どもたちが戸籍を得られるように支援するファンドを作ろう、と呼びかけるキャンペーンには1万3千人近い署名が集まった。無戸籍児家族の会の代表を務める井戸正枝さんは「署名の数だけじゃない。寄せられたコメントに勇気づけられた」と話す。

かつて、無戸籍児とその親に対して、ネット上で批判が上がったことがある。「離婚してすぐ次の夫と結婚しようとしている」という言いがかりのような内容だ。そのため、家族の会の中にはネット署名を集めるキャンペーンに不安を抱く人もいた。

だが、チェンジで寄せられるコメントはキャンペーンに賛同する人たちが書き込む。
《このような苦しみにあう人がいなくなるよう切に願います》
《こんなに存在しているとは知らなかった。自らの不明を恥じます》

「多くの人が真剣にこの問題を考え、温かいコメントを書いてくれた。味方がこんなにいると私たち自身が学んだ」と井戸さんは話す。

Change.orgサイトから
Change.orgサイトから

慶応義塾大環境情報学部2年の佐藤遥香さんは昨年11月に休学費の値下げを求めるキャンペーンを始めた。現在1千人超が署名している。

海外に留学したり、インターンしたりするために休学する際に学生にとって負担となっているのが、休学費だ。佐藤さんは上智大学の学生が同様の活動を通じて、休学費値下げに成功したと聞き、ネットを検索してチェンジに行き着いた。2012年11月から上智大学を舞台にキャンペーンをしたのは、当時2年生だった堀慎太郎さん。佐藤さんは堀さんに会ってキャンペーンの進め方などのアドバイスをもらった。

上智大では2013年4月に休学にかかる費用がそれまでの年間約45万~90万(学部によって異なる)から一律6万円に下がった。大学側によると、実は休学費用の値下げはキャンペーンが動き始める前から検討課題に挙がっており、「署名が直接影響したわけではない」という。

だが、堀さんの活動は佐藤さんの活動につながり、さらに他大学の学生からも堀さんにキャンペーンのことについてアドバイスを求めて連絡してくる人たちがいる。
堀さんと佐藤さんに、チェンジは今後も広がっていくと思うかと聞くと「そう思う」と即答した。

風は無色透明で目には見えない。帆に受け止められることで、形となり、推力を生む。

チェンジは、目には見えない人々の声を受け止める帆となっている。あるときは学校を、あるときは都議会を動かす力になりうる。いずれは、国も。

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