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伐採した木材で〝頭文字Dグッズ〟 外来種増える小笠原諸島の森林

小笠原諸島で繁茂する外来種の樹木
小笠原諸島で繁茂する外来種の樹木 出典: ひかりてらす

目次

東京から約1千キロ南にある小笠原諸島は、東洋のガラパゴスと呼ばれ、貴重な生物がたくさん生息しています。近年、小笠原諸島の森林が外来種によって脅かされています。森林の環境を守るためには適切な伐採が必要ですが、これまでは産業廃棄物になっていた伐採で出た木材を有効活用しようという取り組みが始まりました。

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名言刻んだ小笠原の木材

10月下旬、東京・外神田にある神田明神資料館で開催されているモータースポーツ漫画「頭文字D」「MF ゴースト」の特別展で、木材を使ったオリジナルグッズが販売されていました。

頭文字Dはしげの秀一さんの作品で、1990年代に週刊ヤングマガジンで連載されました。豆腐店の配達で運転技術を磨いた主人公がトヨタ・スプリンタートレノでライバルを打ち負かす姿にファンが熱狂しました。MFゴーストもしげの秀一さんの作品で、公道でのカーレースバトルを描いた名作です。

小笠原諸島の木材で作られた頭文字D、MFゴーストグッズ
小笠原諸島の木材で作られた頭文字D、MFゴーストグッズ 出典: 朝日新聞社

「ボクの本気のスプリントを見せてやる」など、名セリフのランダムウッドキーホルダー。絵馬風のキーホルダー、木の粉とプラスチックを混ぜて作ったタンブラー。これらのグッズに使われている木材は、小笠原諸島で生産されました。

小笠原の自然環境と生態系を再生するための伐採や枝切りなどで発生した木材を有効利用しようと生まれたブランド「BONINIANS」(ボニニアンズ)の第一号の商品です。

神田明神権禰宜(ごんねぎ)の松本和峰さんは「神社は絵馬や木札などで木とは近しい関係にあります。小笠原諸島の森林を守ることにつながるグッズを置けることは私たちにとっても意義深いことです」と話します。

森林の生態系脅かす外来種

小笠原諸島は断崖に囲まれた大小30 ほどの島々からなります。1830年まで定住する人はおらず、無人島でした。

これまで大陸と陸続きになったことがないので、動植物が独自の進化を遂げてきました。オガサワラカワニナ、ムニンノボタン、オガサワラトンボをはじめ貴重な動植物がたくさんいます。小笠原諸島の生物進化はいまも進行中だといわれています。

長らく外部からの影響にさらされずに生きてきたため、小笠原固有の生き物は外からの影響にとても弱いです。外来種に食べられたり、すみかを奪われたりして、数を減らしています。

小笠原諸島で繁茂する外来種の樹木
小笠原諸島で繁茂する外来種の樹木 出典: ひかりてらす

樹木も例外ではありません。現在、小笠原諸島の森林では、モクマオウ、ギンネム、アカギなどの外来植物が生い茂り、在来植物の成長を邪魔しています。また、外来種が増えて降り積もる落ち葉の種類が変わったり、日当たりが悪くなったりして、森林に住む固有種の生息環境にも影響を及ぼしているそうです。

なかでもやっかいなのが、アカギという木です。小笠原村役場産業観光課の大津源さんは、「アカギは、小笠原では競争する木がないのですごく繁茂してしまい、困っています」と話します。

アカギの巨木
アカギの巨木 出典: ひかりてらす


アカギは明治時代、薪にして燃料にするために島外から持ち込まれました。

小笠原諸島の生態系に詳しい京都大学生態学研究センター教授の石田厚さんは、「アカギは小笠原固有の樹木より大きく、放っておいたらアカギだらけになってしまう」といいます。湿った場所を好み、いったん伐採したとしても、切った部分からすぐに葉が生えてくるほど繁殖力が強いそうです。林野庁の森林生態系保護地域保全管理計画でも「アカギの侵入箇所は広範で、かつ侵入度合いも多様であるため一元的な対策の実施は困難」とされているほどです。

「戦前は人々が外来種を伐採して使っていたので制御できていたが、戦争を経て人が使わずにほったらかしだった時代があって、日本人が戻ってきたときには外来種天国になってしまっていた。出来れば木を切って、それを使うのがベストだと思います」と指摘します。

環境保全につながる木材ブランド

父島に本社を置き、小笠原諸島の環境保全などに取り組んでいる会社・小笠原グリーン世界遺産・保守保全事業部の横山浩一さんによると、以前から生態系を守るための伐採は行われていますが、伐採で発生した木材を有効利用する方法がありませんでした。小笠原では林業がさかんでなく、伐採された木の多くは産業廃棄物として処理されているそうです。

横山さんらは、樹木の伐採や枝切りなどで発生した木材を有効利用し、その特性を生かしたさまざまな製品へと加工して活用できないかと考え、新たな木材ブランド「BONINIANS」を立ち上げました。

頭文字Dに使ったのは、テリハボクという樹木。小笠原では「タマナ」と呼ばれています。海流で種が散布される広域分布種とされていますが、小笠原では敷地の境界にこの木を植える風習があり、古い木が台風の暴風でよく倒れるそうです。

「一年中暑いので、木の成長量がすごい。冬でもグイグイ伸びてくる。例えば電線の周りの木を年に1回だいぶ強めに枝切りしても、翌年には大体同じようなコンディションになってしまう」ほどで、伐採した木の処理が課題になっていました。

プロジェクトに携わるみなさん
プロジェクトに携わるみなさん 出典: 朝日新聞社

「BONINIANS」は、寄付行為ではなくビジネスとしての展開を通じて、売り上げの一部を小笠原の環境保全活動や環境教育活動の資金に還元する仕組みを導入しました。

ブランドのプロジェクトに携わるコンテンツ・ビジネス会社ひかりてらすの山田裕介さんは、「BONINIANSブランドの商品を買っていただければ、収益の一部がもう一度小笠原に帰ってきて、それを環境保全活動に生かしていく。そういう循環していくようなモデルを作っていきたいと思っています」と話します。

また、アカギを使って楽器を作れないかと考え、クラシックギター、カスタネット、リコーダー、ウクレレを試作してきました。特にリコーダーの音色が良く、プロ仕様の楽器として世界で売り出していくことを検討しているそうです。

横山さんは、「世界自然遺産の小笠原諸島だからこそ、環境保全について他の地域に対してリーダーシップを示すことができるくらいのブランドに育てていきたいと思います」

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