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野球がデフリンピック競技でない理由 「いつか」夢見て励む選手たち

新競技になるには「条件」が…

2024年には「第1回世界ろう野球大会」が開かれた
2024年には「第1回世界ろう野球大会」が開かれた 出典: 日本ろう野球協会提供

目次

きこえない・きこえにくいアスリートたちの国際大会「東京2025デフリンピック」が11月15日に開幕します。聴覚障害のある選手たちが21の競技に参加しますが、ここに野球は含まれていません。なぜなのでしょうか。今後デフリンピック競技になることを目指しながら活動している選手にも話を聞きました。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)

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「ろう野球」

聴覚障害のある選手たちによる野球は「ろう野球」といわれます。

音が聞こえない、あるいは聞こえにくい選手たちは手話やジェスチャーを使ってコミュニケーションをとります。

さらに世界大会では、聴力の補助のためにつけている補聴器や人工内耳の外側の部分を外します。

視覚で試合の展開を読み、攻守で仲間と連携するのがろう野球の醍醐味です。

2024年、初の世界大会

国内ではろう野球の環境整備や普及、認知度の向上を目指して2020年1月に「日本ろう野球協会」が設立されました。

その年の8月には韓国で初の「世界ろう野球大会」が開催される予定でしたが、新型コロナウイルスの流行によって中止となりました。

そして2024年、ようやく台湾で世界大会が実現。台湾、日本、韓国、アメリカ、メキシコの5カ国が参加し、日本代表は優勝の座をつかみ取りました。

第1回世界ろう野球大会で勝利を喜ぶ選手たち
第1回世界ろう野球大会で勝利を喜ぶ選手たち 出典: 日本ろう野球協会提供

強豪校出身の選手たち

さらに来年2026年11月には神奈川県で第2回となる世界大会の開催が予定されており、国内ではメンバー選考が進行中です。

すでに内定しているメンバーには、滋賀・近江高校出身の森豊選手、千葉・学館浦安高出身の殿山塁規選手など強豪校でプレーした選手たちもいます。

デフリンピック競技の条件

選手たちや協会が世界大会に懸命に励む理由のひとつは、デフリンピック競技になることを目指しているからです。

夏季デフリンピックは今回で25回目の開催ですが、これまで野球が競技として採用されたことはありません。

【今大会で行われる全21競技】

陸上競技、バドミントン、バスケットボール、ビーチバレーボール、ボウリング、自転車競技(ロード)、サッカー、ゴルフ、ハンドボール、柔道、空手、自転車競技(マウンテンバイク)、オリエンテーリング、射撃、水泳、卓球、テコンドー、テニス、バレーボール、レスリング(フリースタイル)、レスリング(グレコローマン)

全日本ろうあ連盟スポーツ委員会によると、デフリンピックへ新競技として追加されるための条件は国際ろう者スポーツ委員会の憲章で決められています。

「過去3年以内の世界大会に8カ国以上が参加していること」などの条件がありますが、2024年の世界ろう野球大会に参加したのは5カ国。基準にはまだ届いていません。

なお、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の参加国を見ると、2023年大会の予選に参加したのは28カ国でした。

残念、悔しい、けど…

2024年の代表メンバーで今回も選考に参加する冨樫由稀選手は、現状としてデフリンピックに野球がないことは残念で悔しいと話します。

「でも悔しさを原動力に今ある大会や遠征で全力を尽くし、ろう野球の魅力を一人でも多くの人に伝えたいです」

「いつかデフリンピックの正式種目になることを願いながら、自分たちの活動でその実現に貢献できればと思っています」

冨樫由稀選手
冨樫由稀選手 出典: 日本ろう野球協会提供

クラファン実施中

世界大会に向けて、代表チームはおよそ2カ月ごとに強化合宿を行っています。

北は青森、南は熊本など全国から選手たちが集まります。

ただ、知名度がまだ高くない競技のため資金は潤沢ではなく、交通費や宿泊費、食費はすべて自己負担だといいます。

普段は民間企業で働くなどしている選手たちは自力で必要額を捻出しています。

2026年1月には台湾で開かれる「アジア太平洋聴覚障害者野球交流大会」へ出場予定で、その渡航費を10月31日までクラウドファンディングで募っています。

冨樫選手は「台湾遠征では海外の選手との交流を通してプレーの幅だけでなく、考え方や姿勢など多くの刺激を受けたいです。異なる環境でたたかうことで自分の課題を見つめ直し、次の成長につなげられたらと思います」と話しています。

2024年、初の世界大会で優勝した「聞こえない」侍ジャパン。

クラウドファンディングのサイトにはこうした言葉が並んでいます。

「どんなに成績を残しても、どんなに努力しても、私たちの野球は、まだ多くの人に『知られていない』のが現実です」

「『日本代表がもう一度世界一』になることが、ろう野球の認知を高める最大のチャンスです。世界一になれば、きっと報道される。ろう野球という競技が知られ、応援され、支援も広がる。私たちはそう信じて、活動を続けています」

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