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「控えめメイク」「可憐」女性だけ細かな指示 婚活支援冊子の炎上
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ナチュラルで上品な控えめメイク、スカートやワンピースを着て、可憐(かれん)で透明感を――。岩手県が婚活支援の一環として発行した冊子の内容に、SNS上で批判が殺到しました。県はホームページでの公開を取りやめました。岩手県は「ジェンダー平等の実現」を最重要課題に掲げていますが、取材をすると「出生数を増やす」という本音が透けてみえてきます。(朝日新聞記者・伊藤恵里奈)
結局、出生数を増やすことのみが目的で、女性はその「手段」として扱われているのではないか――。
岩手県が2019年に発行した婚活支援の冊子「いわてでステキな出会い『叶(かな)えるBOOK』」の取材をして、そんな思いを一層強くしました。
岩手県は「ジェンダー格差の解消」を最重要課題に掲げ、出産・子育て支援や若者の働く環境整備などに力を入れています。
しかし、施策を丁寧にみると「出生数を増やすため」という本音が透け、「少子化は女性の責任」という圧力が、形を変えて女性に向かっているように思えます。
今回の冊子は、9月末に日米でジェンダー研究を続ける山口智美・立命館大教授がX(旧ツイッター)で取り上げ、注目されました。
女性には「控えめメイク」「パンプスにスカートで可憐(かれん)に」など、外見への細かい指示が並んでいます。
始終「男性からどう見られるか」を意識させ、我慢や「相手に合わせる努力」を求めていました。
「相手を探す気がない」と内面に踏み込む記述もありました。
一方、男性には「清潔感を大切に」「体形に合う服を」と身だしなみについては基本的なことを示すだけで、「自信を持って」と励ます内容でした。
この違いは、特に地方で根強く残る性別役割意識そのものです。
記者自身、岩手に限らず日本各地で根強く残る性別役割意識をこれまで何度となく見てきたり、体験してきたりしました。
女性には、仕事はあっても低賃金や非正規雇用、さらに家族の介護・育児といったケア労働の多くが押しつけられています。「男性が主たる稼ぎ手」という前提のもと、女性の賃金は低く抑えられています。
若く「産める時期」は期待され支援されるが、それを過ぎれば社会の視線は途端に冷たくなるのです。
岩手県の達増拓也知事は訓示などでたびたび、「ジェンダー格差の解消」を県の重要課題として掲げています。
しかし、その訓示を聞く幹部職員の多くは男性でした。「若い女性が地元を離れる理由」を象徴する光景だと感じました。
岩手で暮らす50代の知人女性は、「岩手での窮屈さって、こういうことなんだよね。結婚する・しない、子どもを持つ・持たないは、自分で選ぶこと。少子化も若い女性の流出も、個人の問題じゃなく社会の問題。県には、その根本を考えてほしい」と語りました。
女性には娘が2人いますが、いずれも首都圏での進学・就職を選んだといいます。
自治体の少子化対策はしばしば、「女性を応援する」といいます。
しかし、今回の婚活指南書があぶり出したのは、女性を「自立した主体」ではなく、「出生率を上げるための資源」と捉える視線だったのではないでしょうか。この問題は、冊子の良しあしだけで終わりません。