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連載

#161 鈴木旭の芸人WATCH

〝異端芸人〟池城どんぐしが優勝 スタジオで見た臨場感とゆるい空気

ザコシ「『全員スベるんじゃないか』って思ったんですけども…」

9月に決勝が行われた『MXグランプリ~異端芸人決定戦~』
9月に決勝が行われた『MXグランプリ~異端芸人決定戦~』 出典: 筆者撮影

目次

今月6日、TOKYO MX発の賞レース『MXグランプリ~異端芸人決定戦~』の決勝が開催され、ピン芸人の池城どんぐしが優勝を果たした。筆者が現地を取材して見た光景や、審査員・番組プロデューサーらのコメントを交えて、第1回大会を振り返る。(ライター・鈴木旭)

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<『MXグランプリ~異端芸人決定戦~』>
TOKYO MXの開局30周年を記念したお笑いコンテスト。2025年4月から7月まで月1回予選が放送されて月ごとに勝者を選出し、9月に決勝が生放送された。出場資格は「先輩芸人または事務所マネージャーなどに推薦された芸人」。ケンドーコバヤシをMCに据え、審査員4名が出場芸人のネタを採点(各持ち点100点の400点満点)することに加えて、人間力も評価の対象となる。

生放送の臨場感とゆるい空気感

スタジオの観覧席が埋まると、スタッフの機敏な動きが目立ち始め、気付けば番組の関係者が続々と集まっていた。

MCのケンドーコバヤシ(以下、ケンコバ)、TOKYO MXアナウンサーの田中陽南、審査員のハリウッドザコシショウ(以下、ザコシ)、チュートリアルの徳井義実、マヂカルラブリーの野田クリスタル、ヒコロヒーが姿を見せ、程なく番組はスタート。オープニングVTRを経てスタジオが映し出され、初の『MXグランプリ』決勝は幕を開けた。

MCのケンドーコバヤシ(中央)と審査員ら
MCのケンドーコバヤシ(中央)と審査員ら 出典: 筆者撮影

コンセプトは〝異端芸人決定戦〟。これまでメディアにほぼ露出のない〝型破りなネタと芸風〟を持つ者たちによる、唯一無二の大会だ。

月ごとの予選を勝ち抜いたファイナリストは、池城どんぐし、橋山メイデン、虹の黄昏(たそがれ)、承子クラーケンの4組。

決勝当日は、各月で「次点」に選ばれたボンボンハウス、ムラムラタムラ、ちぇく田、ユビッジャ・ポポポー、高田柾希、ふとっちょ☆カウボーイの6組による残り1枠を賭けた「一撃必笑ステージ」からスタートした。結果は、ケンコバの推薦枠でふとっちょ☆カウボーイが勝ち上がった。

ネタ順はイス取りゲームで決定。採点は、持ちネタを披露する「ネタブロック」、人間力をアピールするコーナーと感謝の手紙を朗読する「人間力ブロック」が対象だが、最後は審査員による合議制で優勝者が決まるなど、審査システムも実にユニークだ。

加えて、マヂカルラブリーの村上が出場者を見守る応援団をリポートするシーンもたびたび訪れ、終始スタジオには生放送の臨場感と、それとは真逆のゆるい空気感が絶妙なバランスを保って流れていた。

リポートするマヂカルラブリーの村上
リポートするマヂカルラブリーの村上 出典: 筆者撮影

「一風変わったチャンピオン像」を目指す

まずは「ネタブロック」を振り返ってみたい。トップバッターの橋山は、タケシ(人形)を救うべく自身の長髪や小道具を生かして体を張り、続く自称〝お笑いソルジャー〟の承子クラーケンは、「みなさんの口元、割けちぎり上げます」とかましつつ、変顔とコミカルな動きで笑わせる。

池城は地下アイドルキャラの〝いけあず〟に扮し、「いけあずは~まだ 恋を知ら~ない♪」と短いブリッジを挟みつつ最後に歌って笑わせるネタ、ふとっちょ☆カウボーイはぽっこりお腹を生かした衣装で「デブが嫌いなA.T.フィールド(アニメ『エヴァンゲリオン』シリーズにおける心の壁)」を壊すネタを披露。

ラストは、〝地下芸人の帝王〟とも称されるコンビ・虹の黄昏が、「行くぜ、大衆演芸!」などと叫ぶ勢いのままギャグを繰り出し、途中からラーメンマンがラーメン屋を訪れるシュールなコントへとつなげて会場を盛り上げた。

〝地下芸人の帝王〟虹の黄昏
〝地下芸人の帝王〟虹の黄昏 出典: 筆者撮影

その後、「人間力ブロック」へ。承子クラーケンは変顔とコミカルな動きできつねダンス、虹の黄昏はテレビドラマ『ショムニ』(フジテレビ系)の主演を務めた江角マキコにちなんだギャグで笑わせた。橋山は自身の長髪で〝邪悪なミニ四駆〟から玩具の犬を守り、ふとっちょ☆カウボーイはお腹に目玉をつけて腹芸を披露。池城は赤い円柱が突き出たタスキとTシャツ姿で「立体日の丸応援団です」と登場して見る者を驚かせた。

感謝の手紙のコーナーに入ると、池城は地元・沖縄の両親、虹の黄昏の野沢ダイブ禁止は会場に駆けつけた姉、ふとっちょ☆カウボーイは7歳上の兄、橋山はインポッシブルのひるちゃん、承子クラーケンは母親に対する思いを吐露。ウルッとくるシーンとしょうもない寸劇が混在する特異な空気に包まれた。

結果は、承子クラーケン(ネタ:328+人間力:5=333)、橋山(ネタ:187+人間力:225=412)、虹の黄昏(ネタ:258+人間力:320=578)、ふとっちょ☆カウボーイ(ネタ:335+人間力:265=600)、池城(ネタ:347+人間力:360=707)。総合得点の高かった池城とふとっちょ☆カウボーイの2組が最終ステージへと勝ち上がる。

最後は、ネタと大声による対決。ふとっちょ☆カウボーイは小道具とお腹を生かしたショートネタを連発し、池城は新キャラクター「池城ダークアイズこと〝ダクアズちゃん〟」のネタで勝負。ふとっちょ☆カウボーイの絶叫に圧倒されながらも、池城が優勝に向けた強い気持ちを張り上げ、異端芸人の頂点に立った。

優勝したピン芸人の池城どんぐし
優勝したピン芸人の池城どんぐし 出典: 筆者撮影

大会終了後、池城は「ミラクルが起こった」と驚きを口にする一方で、自身が4月ラウンドの勝者だったことから「(決勝までに)時間があったおかげでいろいろ考えることができた」と自身の勝因を分析。東京・蔵前にある小さな劇場で芸人仲間からアドバイスをもらい、新ネタを改良していったことが実を結んだようだ。

池城は現在、行政書士事務所で働いているが、形態は「アルバイト」だ。あくまでも芸人として活動するため、「資格は持っているんですけど、登録をしていない」状態をキープしているという。優勝賞金100万円は「(母親にプレゼントする)プラダの鞄も考えているんですけど、一旦〝いけあず〟をもっとカッコよくしたい」と衣装への投資を考えている。

今後は「テレビに出していただきたいんですけど、怖い」と苦手な平場に不安もあるが、異端芸人の王者として「一風変わったチャンピオン像」を目指す。また、「僕、Wikipediaがなくて。今日をきっかけに、1行目に『MXグランプリ王者』っていうのが入ったらめっちゃカッコいいなって」といかにも異端芸人らしい、ささやかな夢を語り笑顔を見せていた。

優勝したピン芸人の池城どんぐし
優勝したピン芸人の池城どんぐし 出典: 筆者撮影

脳裏に刻まれた特別な賞レース

生放送終了後、番組MCのケンコバは「面白かった」と率直な思いを口にし、「終わってみたらそれなりの順位になってた」「驚きのシステム」と番組フォーマットに感心していた。

審査員を務めた徳井は「むちゃくちゃやってるはずやのに、ちゃんと結果が出るのが不思議」と笑い、ヒコロヒーは「どう扱ったらいいかわかられてないようなみなさんが出て、面白いことしていただくっていうのが豊か」だと大会の意義を噛みしめる。

野田クリスタルは「虹の黄昏が最後の5番手で出てきてネタを見たときに、『あ、コントだな』と思ってお笑いの深さを感じました」と独自の視点で語り、ザコシは「『全員スベるんじゃないか』って思ったんですけども、お客さんにウケていたのでよかった」と大会が盛り上がったことに安堵したようだった。

さらにザコシは「人間力ブロック」の審査について「『作文を読め』って言って、茶化すやつはちょっと低めに(笑)。『マジメにやれ』って言われて、マジメにやらないってなると、みんなそうなっちゃうから」と自身の採点基準を明かしてくれた。

優勝者の決め手については、ヒコロヒーが「池城さんの〝立体日の丸〟は、かなり我々の心を掴んだ」と口にすると、そのほかの審査員も一斉に「すごかった」「ハマってました」と賛同していたのが印象的だ。

『MXグランプリ~異端芸人決定戦~』の出演者たち
『MXグランプリ~異端芸人決定戦~』の出演者たち 出典: 筆者撮影

今年6月に拙コラムで取材した番組プロデューサーのふたりにも改めて話を聞いた。

総合プロデューサーの山本雅士氏は「いろんな芸人から『そういうところ(小さな劇場で活動する芸人)にスポットを当ててくれてありがとう』みたいなことを言われて。非常にやってよかった」と決勝に至るまでの反響に手応えを感じたという。

プロデューサーの北澤史隆氏は「ネタの精度、面白さ、構成力、みたいなところではない『単純に面白い』と思う人たちを勝たせる」コンセプトのもと、「人間力ブロック」を設けたと大会の狙いを語った。一方で、結果的にネタが面白い芸人が勝っている点は「それによって見えてきたものもある」と笑い、ポジティブな態度を見せていた。

手紙の朗読は、大会の予選が始まる前からあるアイデアだったが、「生放送では怖い」と収録用のコーナーとして考えていた。それが決勝で復活した要因のひとつとして、山本氏は「ケンコバさんが『いいね』って言ったのが大きい」と語る。実際に舵を取る番組MCが「いける」と判断したからこそ、盛り上がった側面もあるのではないか。

来年、大会は開催されるのか。

山本氏は「このフォーマットを生かして、例えば『異端芸人』じゃない『○○芸人』をまたやっていくかもしれないですし。いろいろ鑑みて継続できたらいいですよね」と前のめりな姿勢を示した。

今大会を振り返り、どうしても触れておきたい点がある。それは番組の後半、2分のCMに入ってすぐにケンコバが「もう帰ってきません」と言い放ってスタジオ外のトイレに向かった後、残り10秒足らずでようやく姿を見せ、残り5秒でゆっくりとステージに上がり、残り1秒で司会者台に到着して会場を沸かせたシーンだ。

そのCM中にケンコバの姿を目撃したスタッフに話を聞いたところ、用を済ませて「ひとくちコーヒーを飲んでから行った」らしい。この豪胆さとサービス精神によって、さらに大会のバイブスが高まったことは言うまでもない。そんな舞台裏も含め、特別な賞レースとして筆者の脳裏に刻まれた。

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