連載
#2 若者のひとり旅
Z世代の3割が「今年の夏は海外旅行へ」 女性の半数が選んだ国は?
「深夜特急」のような旅ではないかも。でも……

今年の夏休み、旅行の予定はありますか? JTBが発表した「2025年の旅行動向見通し」では、2025年の1年間で29歳以下の男女ともにおよそ3割が「海外旅行に行く」と答えています。SNSネイティブな若者たちは、どんな旅を楽しんでいるのでしょうか。調査をしたJTB総合研究所(JTB総研)に話を聞きました。
JTB総研は今年2月、全世代を対象に「ライフスタイルと旅行に関する調査2025」を行い、1030人から回答を集めました。
調査では、旅行に求めるものを聞くと同時に、時間やお金の使い方、居場所や生きがいなど価値観にまつわる質問も設けました。
そのなかから、JTB総研が18~29歳と定義するZ世代の旅の傾向やそのほかの世代との違いを分析しました。
JTB総研の担当者は、「Z世代の価値観に、日常生活で強くSNSの影響が見られた」としています。旅においてもSNSの影響はあり、好きな旅行スタイルを尋ねた質問では、「SNS 映えをする場所を巡る」という回答が男女共通でほかの世代より高くなったといいます。
男女別にみると、男性には「自分の趣味・好きなことや得意分野を追求する」傾向が高くみられたそうで、好きな旅のスタイルについては、全世代に比べて特に高い項目としては「ひとり旅(25.2%)」、「趣味を深める旅行(24.3%)」、「SNS映えする場所を巡る(11.7%)」が上がりました。
他方、女性の好きな旅のスタイルは「食事が主な目的の旅行 (52.4%)」、「有名な観光地を巡る(44.7%)」、「SNS映えする場所を巡る(22.3%)」が高い結果となりました。
JTB総研は「Z世代の女性は、『2つのことを同時に行う』、『ながら行動』などのタイパ重視の行動を行っていることがわかりました」とした上で、「旅行先での情報収集や、体験の際の行動も、タイパが重視されている可能性が考えられます」としています。
この調査をまとめた、JTB総研の副主任研究員・中尾有希さんに、過去の調査なども踏まえつつ、若者の旅について、現状を聞きました。
――いまの若い世代の旅の特徴はありますか。
2月に発表した調査の中で、「好きな旅行スタイル」について質問していますが、その中で特徴的だったのはやはり「SNS映えする場所を巡る」というもの。男女ともに、全世代の平均を上回りました。
他の調査を含め、全体の傾向をみると、そのときSNSで話題になっているものやSNSで見かけたものを買ったり食べたり体験したいという意欲が強いように思います。
――生活の中にSNSがあるという時点で、上の世代の人たちの旅のあり方とは変わってきますよね。
上の世代が若かった頃は、事前の情報収集で、テレビやガイドブック以上の情報が得にくかった時代です。でも、いまの若者は、調べれば無限に情報が出てくる。
かつての旅では、たとえば旅先でたまたま「この赤提灯の古いお店よさそうだな」と直感的にお店に入った結果、良くも悪くもどうなるかまでを含めての旅でしたが、いまは見つけるとまず、Googleマップを開いて、扉の中の様子や口コミまで調べてしまえる。直感でいいと思ったとしても、その口コミ次第ではやめることもあるわけです。
何重にも確認できてしまうからこそ、「確実なものを選びたい」という気持ちは出てきてしまうと思います。
――旅のスタイルとしては、「ひとり旅」もありますが、いまの若い世代には支持されているでしょうか?
29歳以下の男性には「ひとり旅」の人気が高いようです。
年代的には結婚前の方も多く、自分のペースで旅ができるというポイントがあります。
――ひとり旅というと、バックパッカーのイメージもあります。
私も20年ほど前にバックパッカーをやったこともありましたが、過去には国内でも場所によっては女性ひとりで旅館にすら泊まりにくかった時代もありました。今はバックパッカーに限らず、女性もひとり旅に出やすくなった印象があります。
また、バックパッカーに関しては、「ブーム」が何度か来ているように思います。
1960年から1970年にかけての「カニ族」、1980年代後半はプラザ合意による円高に加え、沢木耕太郎さんの「深夜特急」のヒット、1990年代後半には「進め!電波少年」の番組内でヒッチハイクが取り上げられたりしたこともありました。
そのような「波」が時々起こり、バックパッカーへの注目はそのたびに高まっていると思います。
――いまはあまりバックパッカーの「波」はきていませんよね。
バックパッカーをどう定義するかによるかもしれません。
長期旅行という意味では、格段にしやすくなっていると思います。ネット環境の発達と働くことに対する社会の変化によって、長く旅行を続けながらノマドワーカーとして働くこともしやすくなっており、ここ数年ではノマドワーカー用のビザを発給する国も増えてきています。
また、SNSなどを活用し、インフルエンサーとして旅すること自体で稼ぎながら、旅を続けられる人がいるのも今の時代ならではないかと思います。
「深夜特急」で描かれていたような、完全に仕事をやめて、無期限に情報なしに旅する人が昔ほどいるかというと、そうではないかもしれない。でも、様々な旅の形が増えているのが現在かもしれません。
――旅のしにくさについてはどうでしょうか。経済的側面では物価高、時間の制約面では就活の早期化など、旅行意欲を削ぐようなポイントがあるように推測するのですが、実際はどうでしょうか?
既述のJTBの調査でも、29歳以下の2024年の国内旅行、海外旅行の実施率は他の世代に比べても高いです。
その理由として、子育て世代にさしかかってくる30代から40代よりは可処分所得が多いことと、子育てに入る前に旅行に行っておこうという気持ちがあるのだと思います。また、2023年のゴールデンウィーク直前まではまだコロナ対策が継続中だったこともあり、その反動が2024年に出た面もあると思います。
今年旅行へ行きたいかどうかという「意向」も男女、年代別で調べましたが、29歳以下の意向が高い傾向は今年も続いています。
国内へ行きたいと答えたのは30代男性が最も高くなりましたが、それ以外(海外に行きたいと答えた男女、国内に行きたいと答えた女性)は、29歳以下の意向が最も高くなっています。
――海外旅行だけをみると、全体を通して「行く予定」だと答えた人は21.1%でした。29歳以下でみると男性で27.5%、女性で34.3%となっています。円安の状況で海外には行きにくいのではないかと思っていたので、意外と高いと感じました。
もうなかなか円高にならないことや経済状況を受け入れた上での判断の結果だと思います。
「先行きがわからないので控えるのではなく、行けるときに行っておこう」そんな心理も垣間見え、今年はヨーロッパなどの遠方も回復しています。
一方、食事の一部を安くすまそうとカップラーメンを持参して渡航したり、LCCを活用したりして、工夫しながら海外に行っている人もいる印象です。
――特に女性ですが、渡航先に韓国を選ぶ方が増えていますよね。
1月に公表した、今年の旅行動向の見通しの中で海外の旅行先も調査しています。
29歳以下の女性の52.1%が「韓国」を旅行先に選んでいます。2番目に人気な台湾が21.3%なのをみても圧倒的で、これは、ほかの世代に比べて突出しています。同年代の男性でも、一番人気の旅行先は韓国(36.7%)です。
――なぜ韓国が選ばれているのでしょうか。
韓国旅行は、特にコロナ禍後に増えています。
LCC含めて、多くの便が飛んでいるため、1泊2日の「推し活」や美容目的などの理由でも気軽行きやすくなっています。国内旅行と変わらない感覚で行くようになっていると思います。
――とはいえ、旅行はお金のかかるもの、という印象もまだまだ強いと思います。
2月に公表した調査では、旅行に行かない理由についても聞きました。国内、海外とも、全体平均が高いのは経済的な理由です。
一方、若者に関しては、親からの影響も大きいと考えます。
――親からの影響ですか。
旅行などの「コト消費」は親から影響を受けるといわれています。
つまり、個人差はあれど子どもの頃に旅行の経験があれば、旅行へのハードルは比較的低い状態にあり、そうでなければ、旅行がそもそも趣味の選択肢に入らない可能性もあります。
そう考えると、現在20代から30代の若者の親はバブル世代である場合も多く、日本市場がコト消費を楽しんでいた世代でもあり、旅行の原体験をもっている若者も一定数いると考えられます。
一方で、当時とは社会情勢が異なります。「お父さん・お母さんの時代とは違うんだよ」という反発混じりの意識になる可能性も否定できません。
――これから、若者の旅はどうなっていくでしょうか。
ゲームやVR、動画のサブスクを利用するなど、移動せずに自宅で楽しめる娯楽がたくさんある現代では、経済状況に加え、天気やトラブルなど不確実性の高い「旅行」は、「コスパの悪い娯楽」だと考える人も一定数いると思います。
現実的に言ってしまうと、やはり旅は工夫の余地はあれど、基本的にお金と時間があってできるものです。そのため、「高いから」諦めることもあるだろうし「コスパが悪い」から選ばないこともあると思います。
一方で、働きながら旅を続けたり、LCCの活用でコストを減らしつつ旅をしたり、「2拠点生活」のためのサービスも出てきており、これまでになかった旅の方法がある時代とも言えます。
特に海外旅行などは「不安」から躊躇することもあると思いますが、最近では、翻訳アプリの精度も上がり、各種予約サイト、配車アプリなども充実しており、以前より安全に旅ができるようになっています。また、ひとり旅でも家族や友人たちとつながっていられることは、現代ならではの安心感ともいえます。
1967年、国際連合は「観光は平和へのパスポート(Tourism;Passport to Peace)」というスローガンを発表しています。旅は単に経済成長に寄与するだけでなく、視野を広げ、文化や価値観への相互理解を深める手段でもあります。
実際にその土地を訪れ、五感で感じる体験や時間、偶発的な出来事や人との出会いなど、リアルで旅するからこそ得られる価値はあります。
このような時代だからこそ、私たちもそこを丁寧に言語化することで、若い世代の選択肢の中に旅を持ってもらいたいと考えています。
1/65枚