ネットの話題
謎多き光る虫「トビムシ」新種を発見 地面の落ち葉をめくってみると

ネットの話題
沖縄の離島で、謎の多い「イボが光る虫」の新種が見つかりました。「トビムシ」という体長数ミリの小さな虫で、光るトビムシの新種が見つかったのは世界で初めてだといいます。新種を見つけたのは、多摩六都科学館(東京都西東京市)の学芸員たちの研究グループです。トビムシは、私たちの身近にいるのに、生態がよく分かっていません。どんな虫なのか話を聞きました。(記事中にトビムシの写真があります。虫が苦手な方はご注意ください)
今年7月、宮古島、西表島、与那国島で光るトビムシ4種が発見されたことが研究論文で報告されました。
そのうち、宮古島で見つかった2種は新種で、発光トビムシの新種記載は世界初だそうです。
西表島と与那国島で見つかった2種はすでに知られている種ですが、今回初めて発光することが確認されたとのことです。
新種を発見したのは、東京都西東京市の多摩六都科学館で学芸員をしている大平敦子さんと、横浜国立大学教授の中森泰三さんの研究チームです。
トビムシは体長数ミリメートルの陸上で生息する節足動物で、おなかにある「跳躍器」という器官を使って跳びはねる様子から「トビムシ」と呼ばれています。脚は6本ありますが、昆虫とは別の系統の生物だといいます。
宮古島で見つかった新種はそれぞれ「アカホシアカイボトビムシ」「シシガミアカフサイボトビムシ」と命名されました。「シシガミ」は、新種が見つかった場所にシーサーをモチーフにした滑り台があったことにちなんだそうです。
体表にイボを持っていることが特徴で、刺激を受けると、イボが緑色に発光します。形態的観察によりいずれも別種であることを確認し、DNA型の解析によって分類結果を裏付けました。
トビムシの仲間は多様な種類がありますが、大平さんは特に、体の表面にイボがある「イボトビムシ科」研究の第一人者です。大平さんにトビムシについて聞きました。
新種のトビムシが見つかったのは、湿った落ち葉の下や、朽ちた木の下だったそうです。
新種が見つかった島には人が住んでいます。なぜ今まで見つからなかったのでしょうか。
「トビムシは体長が1~3mmという非常に小さいサイズで、目をじっくり凝らさないと発見しづらいためではないかと思います。また、イボトビムシは乾燥した場所より湿った環境を好みます。落ち葉の表面よりは、落ち葉を一枚めくった湿ったところに多くいます。この落ち葉をめくるというワンアクションをおこさないと見つかりません。道沿いを通りすぎるだけだと気づきにくいかもしれません」
トビムシは、謎の多い虫です。
ホタルは夜に光りますが、自然界の中でトビムシの発光がいつ行われているのかは、わかっていません。
なぜ光るのかも不明です。自分を食べようとしている別の生物から身を守るために、「自分がおいしくないということを光って天敵にアピールしようとしている」という仮説が立てられていますが、証明はされていません。
トビムシは世界で9千種が知られていて、日本でも江戸時代に貝原益軒が編纂(へんさん)した日本最初の本草学書「大和本草」に、「蛍のごとく光る」という記述があります。
森林だけでなく、民家の庭や、植木鉢の土の中にもいることがある実は身近な生き物ですが、生態はよく分かっていません。
「地表にいる虫たちに比べ、土の中に生息しているので見つかりづらく、体長が小さいので顕微鏡がないと研究しづらいという点で、他の虫たちに比べてハードルは高いかもしれません。トビムシだけでなく、土壌生物はまだ新種がたくさん出てくる分野です」
大平さんがトビムシの研究を始めたのは、たまたまだったそうです。
「多摩六都科学館の庭の土を観察していたところ、イボトビムシに出会いました」
赤い体にイボをまとった名前も分からない虫を見つけ、身近な場所に名前も分からない生き物がいることに心を動かされたことが、研究の出発点になったそうです。
素朴な疑問をきっかけに、科学館の敷地にいた「アミメイボトビムシ属」の一種が光ることを発見。今回の発見以外にも、存在自体は知られていたものの、光るとは思われていなかったトビムシが発光することを突き止めて2023年に論文を発表するなど様々な業績を残しています。
大平さんは今後、発光トビムシがなぜ光るのか、ということを突き止めていきたいと考えているそうです。
「発光トビムシは、つい最近、どのトビムシが光るかがわかった段階で、まだ研究が始まったばかりです。トビムシが陸上に進出したのは割と初期の頃と考えられており、昆虫とは別系統に進化したと考えられています。トビムシの発光を解明することで、発光生物の多様性や陸に住む発光生物がどのように進化してきたのかを知る手がかりになるかもしれないと考えると、ワクワクがとまりません」
研究成果はニュージーランドの科学雑誌「Zootaxa」で2025年7月4日に公開されました。
1/5枚