話題
響く「寮祭貫徹」のシュプレヒコール 京大・吉田寮の止まらぬ営み
「寮祭に密着してみた」後編です

112年の歴史を持つ京都大学吉田寮。寮の一部の建物の明け渡しを求める大学側とは大阪高裁で和解交渉が進行中ですが、寮の営みは止めません。9日間ぶっ通しで開かれる年に一回の「吉田寮祭」。終盤では、歴史ある寮の食堂がDJイベントの会場になったり、ライブにも使われたり。みんなの遊び心は止まりません。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)
5月24日から6月1日まで開かれた吉田寮祭。前半の様子は〈前編〉の記事でお伝えしました。
寮生、そして寮に住んでいなくても普段から寮の運営に関わっている「寮外生」、さらには学外の人たちも混ざり合って遊び尽くします。
さて、寮祭の6日目にあたる、5月29日。
寮の食堂の前に行くと、40センチほどありそうな黒いコイが水槽に入れられていました。どこから来たのかはわかりません。
呼吸がしやすいように寮生の1人が自転車の空気入れを使って酸素の供給を試みていました。絵面がなんとも新鮮。
その隣では大きな鍋でプリンが製造されていました。
さらにその隣ではヘアカットが進行中。
寮祭には日時が決まっている企画のほか、たくさんの「常設企画」や「ゲリラ企画」もあります。
「バーバーんゃぴ」では、寮生の「んゃぴ」さんに申し出れば無料でヘアカットをしてもらえます。ゴミ袋をかぶって屋外で髪を切ってもらう様子はなんとも牧歌的です。
夜には食堂で「吉田寮今昔物語」なる吉田寮の建築や自治権についての研究発表が開かれました。
「おバカ」な企画のあいだに学術的な会も挟まるのは寮祭の魅力の一つです。
7日目、30日。この日も食堂でイベントが盛りだくさん。
毎日日替わりでジャンルの異なる食事が提供される「バラバーラ」で腹ごしらえをしていると、隣でスパゲティを食べていたのはSF作家の宮西建礼さん。
2月に日本SF大賞特別賞を受賞した元寮生も、寮祭に遊びに来ていました。
夕方に始まったのは「幼少期神経衰弱」。0~4歳のころと10~14歳のころの寮生の顔写真を並べて神経衰弱をします。
ペアにならないダミー写真もあるとのことで、「これは寮生じゃないでしょ!ジャニーズのブロマイドっぽい」と盛り上がっていた写真がまさか寮生の写真で驚いたのがハイライト。
夜には「Club Yoshida」というクラブイベントが開催。寮生や寮外生たちが代わる代わるDJをつとめ、会場に集まった人々は踊り騒ぎます。
食堂はイベントのたびに内装が大きく変わり、その変幻自在っぷりに驚かされます。
8日目、31日。いよいよ寮祭も佳境へ。
残り2日間のメインイベントは「寮祭ライブ」。午前11時ごろから日付を越すころまで、1日あたり15~20組ほどのバンドが演奏していきます。
31日の1組目は「ティーアガルテン」。京大大学院の人間・環境学研究科や文学研究科の教員4人からなるバンドです。
ギターボーカルの細見和之教授(ドイツ思想)は「京大からタテ看が消える日」など大学に対して風刺的な曲を作ってきた人。
続く「ソージンボウル」は、ティーアガルテンのメンバーでもある小林哲也准教授(ドイツ文学)と学生3人からなるバンド。
学生と教員が目を合わせて息をそろえながら演奏する様子に、「指導する/される」という立場を越えたフラットな関係を感じました。
スコットランドから来たシンガーや太鼓をたたき続ける集団、三線の演奏など個性が全く異なる出演者の数々。ステージのたびに寮生たちが音量や音質、照明を調整して雰囲気を作ります。
ふと外に出てみると、シナモンにローレル、ブラックペッパーなどの調味料がテーブルにたくさん並んでいます。
これは「スパイス手巻きたばこ」の材料。市販の手巻きたばこにお好みの調味料を混ぜ合わせてオリジナルのたばこを作る、ワークショップ形式の遊びです。
普段はたばこを吸わない私も試してみました。カルダモンが良い香り。
9日目、6月1日。ついに最終日。この日も一日中寮祭ライブ。
時間帯にもよりますが、寮祭ライブ中の会場には多いときには100人以上の観客が入ります。
食堂の前には近所の飲食店などの出店があり、まさしくお祭りの雰囲気です。
寮祭の大トリを飾るのは「新入寮生ズ」。今春寮に入った15人ほどがOASISなどの王道ソングを熱唱。寮祭の最後だけあって会場のボルテージも最高潮。
演奏が終了すると観客席から「なんか良いこと言え!」「締めろ!」とリクエストが投げかけられ、登場したのは開幕時にも登壇した寮祭実行委員長の奥山朱凜さん。
「吉田寮、ここにいる人は全員残したいと思います。良い場所ですよね。で、僕(開幕のとき)シュプレヒコールちゃんと覚えてなかったんですよ。もう一回させてくれませんか」
そしてふたたび「寮祭、貫徹!自治寮、防衛!在期、粉砕!闘争、勝利!」。8回ほど繰り返して、寮祭を閉じました。
一気に食堂内の設備を片付けたあと、一部の参加者たちは朝まで飲み明かしていました。
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