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小学生が考えた〝夢の〟カレー 具現化させたプロと「すごい君たち」

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子どもの「好きなメニュー」ランキング上位に必ず上がる「カレー」。そんな子どもたちが考えたカレーは、最強に違いない! 「小学生が考えた夢のカレー」という商品を見つけた筆者は、〝開発者〟である小学生たちに会いに行くことにしました。
「小学生が考えた夢のカレー」を見つけたのは、東京都豊島区内のイベント。あるブースに、そのおしゃれなレトルトカレーが陳列されていました。
ひときわ目を引くのは聞いたことがない〝味〟。「バターリンゴカレー」と「親子カレー」。パッケージには子どもらしいかわいいイラストと、手書き風の「豊島区立豊成小学校の児童が考えたカレー」という説明があります。
SNSでも「小学生が考えた夢のカレーとか絶対おいしいに決まってるじゃん」「めっちゃ気になる」と噂に。さっそく購入して食べた筆者は、バターのコクとリンゴの甘みが絶妙なカレー、和風のだしの効いた親子カレー、それぞれの完成度が高いことに驚かされました。
取材するしかない。どんな人たちが〝開発〟したのか、豊島区立豊成小学校に向かいました。
プロジェクトに取り組んだのは豊成小学校の6年生(70人)でした。筆者が訪ねた日は、子どもたちの「夢のカレー」プロジェクトにかかわった一般企業の大人たち13人が招かれ、卒業を控えた子どもたちと交流していました。
伴走したのは、長く豊島区東池袋に本社を置いていた〝地元の企業〟良品計画。無印良品のレトルトカレーも作っている〝ニシキヤキッチン〟ブランドの宮城県岩沼市の「にしき食品」。印刷のプロ「TOPPAN」。おしゃれなレトルトカレーでおなじみの最強タッグです。
このチームが結成されたのは、昨年の卒業生が取り組んだ初代「夢のカレー」づくりの時。1回限りの一大プロジェクトだと思っていたところ、当時5年生だった子どもたちが「僕たちも作りたい」と嘆願し、実際に作りたいカレーの約70案を考え、にしき食品に送ったそうです。
青色の「星空カレー」や「おもちーずカレー」……。同社商品開発部の齋藤聡子さんは、「どのアイデアも、固定観念にとらわれない、子どもたちならではの素晴らしい発想だった」と驚かされました。熱意に押される形で、新たなカレープロジェクトを立ち上げ、今年度1年かけて、8回の授業で形にしていったそうです。
最初の授業は「商品開発」。にしき食品が実現可能性が高そうな10案に絞り、6年1組と6年2組の子どもたちがそれぞれ1つずつメニューを決めました。「自分が食べたい」ではなく、「大切な人に食べてもらいたい」を想像して投票したそう。
1組が決めた「バターりんごカレー」は、これまで〝隠し味〟だったリンゴを「具材としても使う」という、リンゴが主役のカレーでした。
決まった時、今野雅裕・にしき食品商品開発部主任は「リンゴが溶けてなくなるんじゃないか」と不安を感じたと言います。
レトルトカレーは殺菌のため、高温高圧で調理します。その工程を考慮して、通常は溶けそうな具材は外すもの。リンゴを〝具材〟として扱うのは、調理師から転職して入社12年目の今野さんも、初めての試みでした。
2組が決めた「親子カレー」は親子丼から着想されたもの。「豚の角煮」など和風素材をカレーに入れることはあったものの、料理そのものを表現するのは初めて。具材として「卵」を扱った実績もほとんどなく、こちらも手探りでした。「わくわくしました」
にしき食品で、ドライリンゴなど複数のリンゴを試した結果、生のリンゴが形が残り、味わいもよいことが分かりました。親子カレーの「卵」はタイ料理から着想を得て、そぼろ状にすることで表現しました。子どもたちの常識にとらわれないアイデアが新たな「発見」を生みました。
子どもたちは、にしき食品による試作品を、数カ月かけて3度も試食。そのたびに、評価シートで具体的な改良点を挙げました。「もっとりんご感がほしい」「スパイス感がほしい」「これ以上スパイシーにしたら、辛いのが苦手な人は食べられなくなってしまう」など意見を出し合いました。
「的を得た意見ばかりで、大人顔負けだった」。出来上がったカレーは「どこにもない、おもしろいもので、かつ、どこに出しても良いおいしさになった」と今野さんは太鼓判を押します。
続いては「パッケージデザイン」と「価格決定」。
「作り手の想いをお客さんに伝える手段のひとつ」とパッケージの大切さを教わり、短い文で思いを伝えるキャッチコピーも子どもたちが考えました。
カレーを入れる包材も印刷から学習。価格を決めるための「原価」や「利益」「付加価値」なども教えてもらった上で、最終的には子どもたちが「590円」と決めました。
最後は「売り場」の授業。
無印良品のスタッフから、見やすくわかりやすいPOPの作り方や「お客様に欲しいと思ってもらえる」並べ方、演出の工夫までを教えてもらい、実際に売り場づくりを体験しました。
ついに完成したカレーは1月、全校児童全員にお披露目され、みんなで食べました。子どもたちは二種類を2食ずつプレゼントされ、作りながら思い浮かべていた「大切な人」たちに食べてもらったそうです。
これが子どもたちの「ゴール」でした。
大好物の親子丼から「親子カレー」を発案した、6年2組の西陽真(はるま)さんは、「試食ごとに味が変わって、どんどんイメージに近づけていった。出汁が効いたおいしいカレーになった」と言い、「人生で食べた2番目においしいカレー」と満足げです。
「1番は?」と聞くと、「お母さんが作ったカレー」。その母からも「おいしい」と喜ばれたと言います。「たくさんの人に手に取ってもらえたらうれしい」
商品づくりを通して、2組担任の立野忠利さんは「子どもたちが世の中を俯瞰して見るようになった」と変化を感じていました。机上で終わらずに、考えが「具現化」するのを経験できたことで、子どもたちがより実感を持って社会について考えられたと振り返ります。
これまで見えなかったものも見えるようになりました。「バターりんごカレー」に取り組んだ1組のチダムバラム海伊(かい)さんは、「いろいろな人の意見を取り入れて味を決めた」経験が、自分の夢にも生かせると考えました。将来の夢は「パティシエ」。「印象的な売り場の作り方も学べた」と言い、最近では、買い物で見る売り場の見方が変わったと言います。
真剣に向き合った子どもたち。1組担任の加藤隆志さんは、「プロの〝本気〟に触れられたことが大きかった」と感謝します。
カレープロジェクトのきっかけは、そもそも、地元企業として良品計画に授業してもらってきた縁と、2022年ににしき食品に東日本大震災についての講演を依頼した縁から生まれました。
きっかけは大人たちが「お膳立て」したものですが、それが「プロジェクト」として動き出すことは当初、誰も想定していませんでした。
ただ、講演を熱心に聞いていた子どもたちの姿に心を打たれて、にしき食品の菊池洋会長が放った「みんなにメニューを考えてもらいたい」という一言に対して、本当にメニューを考えて送った子どもたち。その情熱が大人たちを動かしたーー。山本知範校長はそう言います。
25日で卒業する子どもたちに、山本校長は「大人を動かした、君たちの存在はそれほどすごい。希望なんだよ。これから大変なことがあっても、それをずっと忘れないでほしい」と語りかけました。
「小学生が考えた夢のカレー」プロジェクトは、豊成小学校で培った授業の経験を生かして、いま、ほかの学校にも広がりを見せています。
来年度は、賛同してくれる東北の小学校にプロジェクトを広げたいと考えているそうです。
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