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ネットの話題

〝物価高〟のレジあるある「すごい勢いで数字が…」SNS動画が話題

話題になった動画「現実は厳しい。」のワンシーン
話題になった動画「現実は厳しい。」のワンシーン 出典: 画像提供:いぶよへスカッシュ

目次

スーパーで会計をする男性客。レジ打ちをする女性に「おい」と横柄な口調で話しかけます。悪質なクレーマーかと思いきや……事態は予想外の展開に。そんな“物価高”をテーマにしたコメディのショート動画がSNSで大きな注目を集めました。過去にもYouTubeで世界的な話題になった劇団を主宰する、動画の制作者に話を聞きました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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「お米です」「やめろおおお」

@ibuyohesquash 現実は厳しい。#ドラマ #コント #コネクリ延岡 #connectandcreatenobeoka #宮崎 #延岡 ♬ オリジナル楽曲 - いぶよへスカッシュ
「おい」。スーパーで会計をする男性客が、レジ打ちをする女性に、横柄な口調で話しかけます。

男性が文句をつけたのは、商品の値段。ピッとレジが音を立てる度に「ぐあ」「あああ」と奇声を上げ、「もう8000円、超えちゃった」と指をさします。そんな男性に「日本中で物の値段が上がってるみたいです」と冷静に返す女性。

「怖いよ」「このまま打ち続けていくと、いくらになるんだ」「間違えてないのは分かるよ、でも間違えてないから怖いんだ」そうまくし立てる男性に、女性は「この後、お肉とお米とお野菜が残ってます」と伝えます。

「すごい速さで数字が上がっていく」「そっちを見ないで、私の目を見てください」「やだ、もうやだよお」「副店長~!」

会計をする男性の隣に現れて腕を取り「私があなたの手を握っています」と励ます副店長の男性。レジ打ちの女性が「これで最後です」「お米です」と告げると、会計をする男性は「やめろ」「やめろおおお」と叫びますが――。

“物価高”をテーマに、登場人物たちが迫真の演技を繰り広げるも、何かがおかしい。そんな約2分のショート動画が2024年12月、X(旧Twitter)に投稿されて話題になりました。

近ごろ多くの人が感じているであろう“物価高”をテーマにした投稿は約3000回リポストされ、約270万回表示されました。
 

「隙間男」で世界的話題の劇団

動画を投稿したのは、SNSやYouTubeにショート動画でドラマを投稿する、いぶよへスカッシュ( @ibuyohesquash )のアカウント。近年TikTokで活動するコンビの伊吹とよへ(「伊吹」と「よへ」)と、2002年立ち上げの劇団スカッシュがコラボした、スマートフォンに最適化された縦型ショート動画ドラマ制作のグループです。

いぶへよスカッシュのYouTubeチャンネルは、同12月、登録者数50万人を突破しました。

劇団スカッシュは、2010年代に世界的な話題になったYouTube動画作品「隙間男」シリーズを手がけ、国内初期のYouTubeを牽引した存在でもあります。今回話題になった動画を観た人からは「この俳優さん、『隙間男』に出てた人じゃない?」といった反応もありました。

今回話題になった動画の制作の経緯と、これまでの活動について、劇団主宰の大塚竜也さんに話を聞きました。

今回話題になった動画「現実は厳しい。」は、もともと宮崎県延岡市で開催される縦型動画の映像祭「Connect & Create NOBEOKA Movie Festival 2023(コネクリ延岡)」のゲスト作品として制作されたもの。

映画祭には、映画『カメラを止めるな!』の監督の上田慎一郎さんがメンターとして参加。地元のケーブルテレビ「ケーブルメディアワイワイ」の協力の元、地域を挙げてこのプロジェクトをバックアップしているそうです。そのため「現実は厳しい。」では、延岡の実際のスーパーを撮影用に借り切って撮影したといいます。

脚本・監督は大塚さん。YouTubeの海外の動画で「スーパーのレジの会計時に『値段が高い』と大げさに騒ぐ客とシリアスに対応する店員」というストーリーのものを観たことがきっかけで、そのいわば“日本版”を制作した、ときっかけを明かします。

撮影は1年前の2023年12月に実施され、2024年1月にTikTokなどで動画が配信されました。TikTokの動画はこれまでに約1500万回再生され、約70万いいねを集めています。

会計をする男性は、劇団スカッシュ所属の俳優で大塚さんの実弟の祐也さん、副店長は同所属の前川健二さん、レジ打ちの女性はレプロ所属の俳優の白石優愛さん。

立ち上げから20年以上の劇団メンバー中心の作品ということで、俳優陣の演技力や、スマホ向けのカット割り、BGMの使い方など撮影・編集の技術力が高いのも特徴です。

スマートフォンに最適化された縦型ショート動画ドラマであるため、動画が配信されたのはいぶへよスカッシュのアカウントやチャンネルでしたが、この作品には伊吹とよへは関わっていないということでした。
 

撮影から1年、さらなる物価高

2024年はじめからさまざまなSNSで繰り返し発信していた動画が、年末のタイミングで大きな注目を集めたことに、大塚さんは「驚きました」とした上で「“物価高”という多くの人が感じる状況にマッチしたのでは」と話します。

気がかりなのは、2023年に撮影されたものであるため、現在はさらに物価が上がってしまったこと。最近また話題になったことで、作中の会計時のお米の値段が注目され、「お米5kgは1680円では買えない」という指摘も相次いだそうです。これについては「まさかこの1年でさらに高くなるとは……」と苦笑いします。

世界的な話題になった「隙間男」シリーズから、10年以上が経過。劇団スカッシュとしての公式チャンネルでも50万人以上の登録者数を有しますが、制作の環境は決して「良いとは言えない」そう。過去にはサブチャンネルで資金難も明かしています。

「華々しく自分たちの名前が挙がっていた時期もあるのですが、振り返るとこの10年は、その時の貯金を切り崩しながら、ずっとカツカツでやってきました。幸い、最近はショート動画が話題になることが多いので、動画案件のコンサルや受託制作をしながら、自分たちのオリジナル作品も作り続けています」

「現在のショート動画ブームは、国内黎明期のYouTubeブームに似ている」とみる大塚さん。「開始数秒でつかむ」といった制作のノウハウは「『これ知ってるぞ』という感じ」だといいます。

大塚さんは、コンテンツ業界で主流になるのは引き続き「スマートフォンに最適化された縦型ショート動画」とみます。「伊吹とよへ」のような若手のTikTokerと関わりながら、今の時代に合わせた作品を世に送り出しています。

「ブームが来ては、終わってを繰り返す業界で、ずっとあがいて、しがみついている」と、この10年を表現する大塚さん。

苦労があっても作品を作るのは「演劇がしたいから」。「方法は何でもいいから、食べていくため、新しい作品を作るためのお金を稼いで、演劇を続けたい」と話しました。
 

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