連載
目の前で人が倒れたとき、何ができる? 救命講習に参加して思うこと
救急車到着までの時間は平均約10分です
目の前で人が倒れたとき、どのように行動すればいいか知っていますか? 9月9日の「救急の日」、都内で開かれた救命技能講習に筆者が参加し、学びました。9月8~14日は、救急業務や救急医療への理解と認識を深める「救急医療週間」です。
「分かりますか?」「大丈夫ですか?」
講習用に用意された人形の肩をたたき、意識があるかを確認する。
「胸骨圧迫(心臓マッサージ)を始めてください」という指導員の言葉と同時に、参加者が人形の胸の中心を強く、深く、一定のリズムで何度も押す――。
救急の日に東京都新宿区で開かれた東京消防庁救急フェア。救急車の適切な利用についてのトークイベントや救急隊が使う機材の展示、救命技能講習があり、約270人が参加しました。
筆者は過去に2度、講習を受けたことがありますが、最後に受けたのは数年前。AED(自動体外式除細動器)の取材をしていることもあり、改めて救命処置を学ぼうと申し込みました。
今回の講習は、心肺蘇生やAED、異物除去、止血法などを学ぶ「普通救命講習」です。
突然倒れた人がいた場合、居合わせた人が一刻も早く胸骨圧迫やAEDを使って救命処置をすることで、助かる可能性が高まります。
講習では、応急手当の三つの目的「救命」「悪化防止」「苦痛の軽減」や、救急車の現場到着時間などの説明を受け、心肺蘇生を実践しました。
講習では、指令員の説明を受けて参加者ひとりひとりが胸骨圧迫を実践し、AEDのパッドを人形に貼りました。人工呼吸は実際に口はつけず、やり方を習いました。
胸骨圧迫はリズムも速く、力を入れなければいけません。筆者は30秒続けただけでも腕に痛みを感じました。
さらに30秒の胸骨圧迫と人工呼吸の動作を4セット繰り返し実践。4セット目は腕の力が抜け、胸を深く押し込めていませんでした。
会場には「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ」とテンポの目安になる機械音が流れていましたが、ついていくのがやっとです。
終わったあと思わず「すごく疲れますね」と口にしてしまいましたが、救急隊員だったという指導員の方も「大丈夫ですか? 無理しないでくださいね。私たちでも疲れますよ」とフォローしてくれました。
総務省消防庁によると、救急車が現場に到着するまでの全国平均時間は、2022年に初めて10分を超え、10.3分となりました。
実際には道路や現場の状況によって、何分かかるか分かりません。救急車が来るまでの間、胸骨圧迫は繰り返しする必要があります。救助者が何人かいる場合は、交代して続けるといいと感じました。
胸骨圧迫は強い力が必要ですが、1分間に100~120回のテンポで、約5センチ垂直に押し込むこと自体に難しさは感じませんでした。胸骨圧迫のテンポは、「アンパンマンのマーチ」の曲などが目安となるとされています。
筆者は3度目の受講だったこともあってか、動作への不安はほどんどありません。
東京消防庁救急指導課の担当者は、「もし目の前に心停止の方がいたら、複数人で協力して取り組んでいただきたい。積極的に周りにいる人が手をさしのべてほしいです」と話します。
「実際に講習で胸骨圧迫をやると、自信につながると思います。講習会は定期的に行っているので、最寄りの消防署などに問い合わせて受けていただけるとうれしいです」
東京都内での救命技能講習は、コロナ禍以前は年間25万人が受けていたといいます。一時受講者が落ち込みましたが、再び申し込みが増えているそうです。
担当者は、「講習を受けていても、実際に目の前に倒れた方がいたらすぐには実行できないかもしれません。そのようなときは、119番通報をした人から現場の映像を管制員に送ってもらって映像を見ながら応急手当の方法を伝える『Live119』など、サポートもあります」と話しています。
1/12枚