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愛媛のタクシー会社の奇跡、2日でフォロワー2万増「泣いてます」
「すみません。みなさんの力を貸してください」。人口7000人の町にある、小さなタクシー会社のXの投稿が、わずか2日で、9万以上のいいねを集めました。フォロワーはもともとの「16人」から、町民を大きく上回る2万人に急増。奇跡の投稿をした「広報さん」に話を聞きました。
問題の投稿は、9月9日午後10時に発信されました。
《すみません。みなさんの力を貸してください!!!
弊社社長が、いいねが一万来たら広報に↓のカメラを買ってくれると約束してくれました》
投稿では、約20万円のミラーレス一眼カメラの画像が添付されています。
文章は続きます。
《今はスマホカメラで頑張っていますが、美川タクシー、そして久万高原町の未来の為にもっと素敵な写真を撮りたいです!!よろしくお願いします!!》
投稿をした時点で、美川タクシーのアカウントのフォロワーは「16人」でした。この投稿が、奇跡を起こします。
投稿したのは、美川タクシーの広報を務める女性です。
社員は社長を含めて10人という小さな会社。しかし、県内の市町村のなかで最も面積が広い久万高原町で、山あいに暮らすお年寄りたちにとっては、病院へ、買い物へ、なくてはならない「足」となっています。
入社1年半の「広報さん」は、投稿をしたこの日が誕生日でした。社員や家族に祝われて、幸せな気持ちになっていたとき、ふと頭によぎったのは、今年5月に立ち上げた会社のXのことでした。
坪内崇城(たかき)社長から「美川タクシーの広報だけじゃなく、町を盛り上げる広報になってほしい」と言われて、Xを立ち上げてから4カ月。フォローしてくれたのは、町のタクシー利用者と、有名な自動車競技「久万高原ラリー」のファン、合併前の旧美川村出身者ら16人。投稿してもなかなか反応はなく、いいねは「伸びても10ぐらい」という状況が続いていました。
もともと自身を「陰キャ」と表現する広報さん。それでも「少しでも見てもらいたい」と自分を奮い立たせつつ、久万高原の景色を投稿してきましたが、「どんな写真を撮っても見てもらえない…」と気落ちし、投稿が滞っていたのです。
「何かやってみよう」
誕生日の幸せな気持ちに後押しされ、広報さんは社長に強気で打診に行きました。「1万いいねが付いたら、カメラを買ってください」。そしてくだんの投稿の下書きを見せました。
坪内社長は、内心「1万なんて行くわけないやん」と思い、「いいよ」と許可しました。広報さん自身も「いいね50行けば、大感謝」ぐらいの気持ちだったそうです。
一眼カメラは広報さんの念願でした。これまでも、何度も「買ってほしい」と社長にお願いしていましたが、「スマホカメラで十分きれいだよ」と取り合ってくれませんでした。
広報さんはモヤモヤしていました。「肉眼で見ている景色とどうしても誤差が出てしまう。カメラならきれいに撮れそうなのに」
松山市出身の広報さんは、松山から町へトンネルを抜けた瞬間からパッと視界が開けたようになる、久万高原の景色に魅了されていました。
「日本のスイス」とも呼ばれる四国カルストを有する久万高原の大空。涼やかな風に波打つ稲穂。燃えるような夕焼け。六つも流れ星を見つけたペルセウス座流星群の夜……。スマホでは、どれも本当の美しさが表現しきれない。一眼カメラがあれば。
一眼カメラに関しては「素人」でしたが、広報さんは高校時代には県内の美術課程で学び、大学はアメリカで油絵など美術を勉強し、〝表現〟には並々ならぬ情熱がありました。
誕生日の夜に、「ふわ〜っとした気持ち」でつぶやいてしまったという投稿。
翌朝、起きてスマホを見た広報さんは「えっ」と叫びます。100いいねもついてる!この時点ですでに「やばい」とうろたえていたそうです。
お昼過ぎても「いいね」は増え続けます。夕方になり、スマホのバイブが突然、ずっと「ブーッブーッ」と鳴り続けたため、「アラーム? スマホが壊れた?」と手に取ると、止まらない「いいね」の通知だったと分かり、度肝を抜かれました。
そこからは、ずっといいねが伸び続け、同日夜、「社長…2万いいね超えてます……」。わずか1日で約束を達成し、坪内社長は「しゃーないな。買うてやろ…ポケットマネーでな」と答えてくれたそうです。
その後も、「いいね」の通知は一晩中止まりませんでした。
《久万高原、ファイトー!》《満天の星空を撮ってほしい》《地元の人のあたたかさが忘れられません》
いいねとともに寄せられるメッセージ。広報さんは布団に入っても眠れず「泣いてました」と言います。「こんな、本当に小さい田舎の町の、広報の一つのつぶやきに、全国の方がつながって見てくれてることが、うれしくて」
ただし、社長との約束は「カメラ」。「社長、レンズもよろしくお願いしまぁぁぁぁす!」と頼んだものの、社長には「それは知らん」とかわされており、「自腹を切るしかないか…」と悩んでいた広報さん。レンズといえば、1本10万円するものも。
そこに、見慣れないDMが届きます。カメラのレンズなどの関連商品を扱っている会社の広報からでした。「同じ広報として、また同じカメラ好きとして何かお手伝いできないかと、弊社社長と相談し、美川タクシー様にレンズをご提供する許可をもらいました!」
広報さんは「本当にありがたい」と感動し、《広報は泣いております》と投稿しました。
カメラは、12日に無事、社長に買ってもらったそうです。
10日朝まで16人だったフォロワーは、12日夕方時点で2万人となり、一気に「インフルエンサー」になった美川タクシー。
発端となった投稿は、9万いいねを超えています。
「びっくりです」「お恥ずかしい」と恐縮する広報さんの後ろで、坪内社長は「いつかやると思っとった!」とたたえます。坪内社長は広報さんにねぎらいの言葉をかけたうえで、「拡散して下さった皆様、ありがとうございます」と話しました。
創業者である会長にも「Xとは何か」から説明し、バズった意味を伝えたところ「よくやりました!」と褒められたそうです。
今回の反響は広報さんにとって「一生かけても返せないようなご協力を頂いた」経験でした。プレッシャーとともに、大きなモチベーションになり、背中を押してくれていると言います。
この感謝を、久万高原町の未来のためにつなげたいと意気込みます。
「過疎化待ったなしの小さな町です。魅力を発信して、少しでも興味が出た方に足を運んで頂けたらうれしいです。美川タクシーはおまけぐらいで(笑) 久万高原町全体を盛り上げたいです」
すみません。
— (有)美川タクシー (@mikawataxiehime) September 9, 2024
みなさんの力を貸してください!!!
弊社社長が、いいねが一万来たら
広報に↓のカメラを買ってくれると
約束してくれました。
今はスマホカメラで頑張っていますが、
美川タクシー、そして久万高原町の未来の
為にもっと素敵な写真を撮りたいです!!
よろしくお願いします!! pic.twitter.com/0Zt3y1I1yF
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