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お笑い芸人で、映画監督 グランプリ受賞して実感した「利点」
漫才で鍛えられた特殊能力…「えふ」の門田樹さん
芸人でありながら映画監督としても活動する「えふ」の門田樹さん。手掛ける作品がさまざまな映画祭でノミネートされています。「テンポよく進むワンシチュエーションの会話劇」という作風は、芸人だからこそ生まれたといいます。それぞれの活動が与える、いい影響とは?(ライター・安倍季実子)
「映画やカメラが好きな芸人なら、映画監督にめちゃくちゃ向いていると思います」
そう話すのは、芸人と映画監督の二足の草鞋を履く、お笑いコンビ「えふ」の門田樹さん。
脚本・監督をつとめた最新作の短編映画「クジラの背中で話すコト」は、『TOKYO青春映画祭2024』をはじめとする数々の映画祭でノミネート&受賞を重ねています。
「子どもの頃からドラマとバラエティー番組が大好きで、将来はドラマを作る人か芸人になりたかった」という門田さん。美術系の大学に進学して脚本家を目指していましたが、ある脚本コンクールの授賞式で笑いをとったことで、芸人の道へとシフトしました。
芸人になってからも、芸人仲間の単独ライブで流すオープニング映像を撮るなど、映像制作を続けていたといいます。
再び、真剣に映画作りと向き合おうと思ったのは、「映画好き芸人が自分たちで撮った作品を流す」というライブへの参加がきっかけでした。
「漫才のネタを考える時に思いついたアイデアをまとめて、『くろまじゅつ』という作品を作って流したら、思いのほかお客さんの反応が良かったんです。試しに映画祭に出したところ、4つの映画祭で入選しました」
「実際に映画を撮ってみたら、すごく楽しかったですし、評価もしてもらえたんで、本気を出してやってみようと思いました」
その後、仲のいい後輩芸人のドドんが組むコミックバンド「THE 南無ズ」のミュージックビデオを手がけたところ、SNSでバズりました。
そこから映画や映像作品を撮れる芸人として知られるようになり、現在は短編映画、YouTube番組、ミュージックビデオの制作にも携わっています。
複数の映像制作が進行しているため、門田さんのスケジュールは流動的で、忙しさもまちまちです。
「常に4つくらいの作品が動いていて、作品によって関わり方が違うので、毎日やることも違います。例えば、あるYouTube番組では撮影と編集を担当していますが、あるミュージックビデオの場合は、コンセプト作りからサポートしていて、ロケハン、絵コンテ代わりの指示書や香盤表の作成、撮影、編集までワンストップで引き受けることもあります」
そのため、一日中ロケハンで外出する日もあれば、自宅にこもって編集作業をする日もあります。
出張ロケで地方に行く場合は、パソコンを持ち込んで、現地で編集作業をすることも。目まぐるしい毎日ですが「大変だけど、やっぱり楽しい」と笑います。
「最近は機材のレベルが上がって、ワンオペで作品が作れるようになりました。なので、カメラ、監督、照明、音声、編集までほとんど一人でやっています」
映像作品をワンストップで作れる理由は、「芸人なんで、低コストで成立する脚本を考えやすい頭になっているから」と門田さん。
「賞レースの予選のネタ時間は大体2~3分なんで、その時間内に笑いの入ったストーリーを作らないといけません。ライブでも、お客さんを笑わせるために、ネタ中は『ずっと何かを提供しなきゃ』っていう気持ちがあるんで、あまり時間をムダにしたくないんですよね。なので、僕の作る映像作品は、常に何かしらの出来事が発生しています」
テンポよく進むワンシチュエーションの会話劇という作風は、そんな背景から生まれました。
『TOKYO青春映画祭2024』でグランプリを受賞した「クジラの背中で話すコト」は、7分という短い時間の中に、たくさんのメッセージが詰まっていること・それをしっかり伝えられている点が評価されました。
「お笑い芸人としてのネタ作りが監督業で生きています。漫才も脚本も二人の会話劇なので。それに、ネタ合わせの時には、相方と『どうやったらリアルに見えるだろうか?』と考えることも多かったですし、『ここを何秒見てから、こういう言い方してみて』という風に、見せ方の練習をしてきたので、そういったことも監督業に役立っているんだと思います」
現在、「えふ」はライブとYouTubeをメインに活動しています。ライブは月に3~4回ほど。普段、門田さんは映像制作をしていて、相方の「松下社長」さんはタクシー運転手として働いているので、このペースがお互いにちょうどいいのだといいます。
「映像制作は芸人と両立もしやすいですし、それぞれの活動にもメリットがあるんですよ。例えば、映画祭に行った話は、ライブでエピソードトークとして話せます。ほかの芸人とかぶらないんで、とても珍しがられます。また、映画祭の方では、芸人をしているというと盛り上がります」
演技にも自信がついてきて、自分たちの漫才にもお芝居シーンを入れるようになってきたそう。
そんな門田さんがひそかに狙っているのは、相方の松下さんのブレイクです。
「僕個人は相方に早くテレビに出てほしいと思っています。松下くんって顔は強面なんですが、めちゃくちゃいいやつで、めちゃくちゃ抜けてるんです。どんなライブに出ても、すぐに先輩からも後輩からもイジられます(笑)。相方の僕がいうのも変ですが、今時珍しい存在だと思うんで、早くテレビのスタッフさんに見つけてもらいたいです」
一方、映像制作では、短編映像を作る仕事を長く続けていくことが目標なのだそう。
「売れない芸人時代を15年ほど経験しているので、映画監督やディレクターとして求められている今の状態が、けっこう幸せです」と語ります。
「『ゆくゆくは長編作品を撮りたい?』なども聞かれますが、過去に長編作品を撮らせてもらった時に、僕は短編作品を作る方が向いているなと思いました。ずっとこのまま短編作品を撮りながら、芸人を続けていきたいですね」
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