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なぜ芸人がハウスクリーニングで独立? 心がけているクレーム回避術
お笑いコンビ「マッハスピード豪速球」ガン太さん
暑い時期に欠かせないエアコン。プロに掃除をお願いしようとハウスクリーニングをした人もいるのではないでしょうか。実は、芸人の間ではハウスクリーニングは人気のバイト。お笑いコンビ「マッハスピード豪速球」のガン太さんは5年間のバイトを経て独立し、意外と芸人の経験が活きる仕事だと語ります。その理由とは…?(ライター・安倍季実子)
コンビニ、カラオケ、水道の検針……。芸人に人気の高いバイトはいくつもありますが、ハウスクリーニングもそのひとつです。
芸歴14年目を迎えるお笑いコンビ「マッハスピード豪速球」のガン太さんは、2018年にハウスクリーニングのバイトを始めました。きっかけは地元の友人の結婚だったといいます。
「友人の結婚相手の女性が『年末は人手が足りなくてヤバい』ともらしていて、ちょうどその頃バイトをしていなかったので手伝うことにしたんです。次の日、指定された場所に行ったら、それがハウスクリーニングだと知りました(苦笑)」
ひょんなことから始まったバイトでしたが、掃除に集中していて気づいたら仕事が終わっていること、お客さんから直接お礼を言われること、お笑い活動に支障が出ないことなど、「それまでのバイトと比べて、とてもやりやすかった」といいます。
当時、日給制で1万6500円。1日に2~3つの現場を担当し、テキパキやれば、その分早く終わります。当初は週に2~3日でしたが、ガン太さんの結婚を機に週5日に増やしたといいます。
「割と手先も器用な方だし、キレイ好きだけど潔癖症ではなく、時間の融通が利きやすいところが気に入っていた」のだそう。
しかし、年数を重ねるとほかのスタッフのサポートも頼まれるようになり、芸人の仕事との調整が難しくなっていきました。
「お客さんからクレームがあったスタッフのサポートを任されるようになったんですが、そうするとバイトの終了時間が見えなくて……。ライブに穴をあけるワケにもいかないし、どうしようかと考えていました」
そんな時に見つけた、他社のハウスクリーニングの募集。電話に出た担当者に、現在は同業他社でバイトしていること、芸人をしていて働く時間を調整したいことなどを洗いざらい伝えたところ、「独立した方がいい」と「まさかの回答」をもらったのだといいます。
「思ってもいなかった答えに一瞬とまどったのですが、よくよく考えたら、それが最善策だと思えました。2023年7月に独立して『ハウスクリーニングのおそうじガン太』を立ち上げて、先月ついに法人化してしまいました」
独立した理由は、十分な経験を積んだこと、「芸人」の経験を売りに営業できること。そして一番の魅力は、時間の融通が利くことでした。
「独立した時は準備が大変でしたね。専用車を中古で買ったり、ホームページを作ったり、相方に資金援助もお願いしました。初めてのことだらけで、毎日何かしらでテンパってました」と話します。
独立した時期がエアコン掃除の繁忙期だったため、仕事に困ることはありませんでした。反対に、ひとりで対応できなくなったので、すぐにスタッフを一人雇ったといいます。
繁忙期は6~8月のエアコン掃除、年末の水回り掃除、3~4月の引っ越しシーズン。
ガン太さんは「それ以外の空きをどう埋めるのかを考えるのが大変でした。去年は新築マンションの工事後の掃除をする『新築美装』もしたんですが、単価が低いので、売り上げがあまりよくなくて……。悩んでた時に、スタッフが『ドラム式洗濯乾燥機をやろう』と提案してくれました。これが当たりでしたね」と振り返ります。
複雑な構造をしたドラム式洗濯乾燥機は、糸くずやほこりなどがたまりやすく、エラーも多いのだそう。
分解クリーニングをメニューに入れたところ、季節や時期に関係なく注文が入るようになり、「提案してくれたスタッフには感謝しかないです」と言います。
現在、「おそうじガン太」のスタッフは、ガン太さんを含めて4名。うち2名は後輩芸人のバイトです。
早々にスタッフを雇ったこともあり、「手を抜いた途端に食えなくなる感じがしたから、1年目から全力でした」と語ります。
そんなガン太さんが最も注意しているのは、お客さんからのクレームがないようにすることです。
「バイトの時から思っていたんですが、お客さんがクレームを入れる大きな原因は、声が小さいとか挨拶をしないとか、担当したスタッフの対応の悪さなんですよね。汚れがちゃんと落ちてないことよりも、スタッフの小さな対応の悪さが蓄積していって、お客さんの不安や不信感が大きくなった時にクレームになるんだと思います」
依頼場所に着く前の電話、大きな声での挨拶、依頼内容の確認……。バイト時代、ライブに間に合うため、早めに仕事を終わらせようと上記のことを心がけていたガン太さん。
実は、これが一番のクレーム回避術だったそうです。独立してからは、より一層、お客さんに気持ちいいと思ってもらえる対応を心がけるようになりました。
ハウスクリーニング業も軌道に乗ってきているものの、「14年芸人をやってきて、もう生活の一部のようなものなんで、辞めることは想像できないですね」と話すガン太さん。
今、マッハスピード豪速球が狙っているのは、キングオブコントの優勝です。
「ずっと楽しく芸人を続けていくことが目標とも言えますが、やっぱり賞レースで結果を出して、憧れの芸人の大先輩たちに『面白い』って認められたいです。それでやっと、長い下積みを重ねてきた自分たちを慰められるというか、どこにもぶつけられなかった気持ちを昇華させれられるんじゃないかと思ってます」
マッハスピード豪速球はこれまでに、キングオブコントの準決勝進出を1回、準々決勝進出を5回果たしています。
「今はまだハウスクリーニングの方にも集中しないといけませんが、できるだけ早くスタッフを雇って育てて、現場を任せられるようにして、芸人の方にも力を入れていきたいですね」
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