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「高校生の自由な選書、尊い」 書店の〝推し本〟企画に100冊超

「たったの一、二文でしか教科書では語られていない悲惨な歴史を……」

三省堂書店札幌店で行われているフェア「図書委員の私が選んだ本が、本屋のフェアになっていた件」には、高校生から「夜と霧」の推薦も=同店提供
三省堂書店札幌店で行われているフェア「図書委員の私が選んだ本が、本屋のフェアになっていた件」には、高校生から「夜と霧」の推薦も=同店提供

目次

「図書委員の私が選んだ本が、本屋のフェアになっていた件」――。そんなタイトルの書店のフェアが話題を呼んでいます。同世代に読んでほしいと高校生が選んだ「推し本」。フェアを企画した担当者は「高校生の自由な選書って、とても尊い」と話しています。

100冊以上の「私の推し本」

フェアを開催しているのは、三省堂書店札幌店。6月中旬から8月にかけて特設コーナーを設け、道内の高校19校の図書局(図書委員)が「同世代に読んでほしい私の推し本」をテーマに選書した約140冊を紹介しています。

このフェアを企画した、同店の工藤志昇さんによると、道内の他の書店からも「選書を置かせてほしい」といった反響が届いているといいます。今回の企画の経緯を聞きました。

募集1週間で5冊だけ…

きっかけは昨年、『利尻島から流れ流れて本屋になった』(寿郎社)というエッセイを出版した工藤さんのもとに、母校である札幌月寒高校の図書委員が取材に来たことでした。

「できあがった記事を読んで、視点や取材力がすごいなと感じました。そこで、これを書いてくれた高校生たちとフェアを開催したいと思いました」

工藤さんはまず、道内の高校の図書局を組織する北海道高文連の事務局に相談。協力をとりつけました。

事務局から、加盟校に選書を募る告知を流してもらうと、札幌市内11校に加え、函館市や釧路市の学校からも選書が集まりました。

実は募集開始から1週間時点では5点しか集まっていなかったといい、工藤さんは「想定していたスペースではなく、こじんまりとやろうかな……」と不安に駆られたといいます。

ただ、その不安は杞憂に終わり、その後は続々と選書が届き始め、最終的には123人からの「推し本」が集まりました。

「選書リストにある約140タイトルに、ほぼかぶりがなかったことに一番驚きました」

三省堂書店札幌店では、選書に寄せられた高校生のコメントも読むことができる=同店提供
三省堂書店札幌店では、選書に寄せられた高校生のコメントも読むことができる=同店提供

「自分にしか出せない」プライド感じる選書

集まったタイトルのジャンルはバラバラでしたが、2~3割が同店でも若年層向けに力を入れるライトノベル。高校生など若者が主人公の小説を含めると、半数ほどになりました。

一方で、アドラー心理学を扱った「嫌われる勇気」(岸見一郎 、古賀史健著、ダイヤモンド社 )や、ナチスにより強制収容所に送られた体験を記した「夜と霧」(ヴィクトール・E・フランクル著)など、「重めの人文書」を選んだ生徒もいました。

「図書委員は、本を大事に思っている人も多いと思います。『これは自分にしか出せない』というプライドを持ち、そのことを意識して選んでくれていたことがうれしかった」

さらに、選書と共に募った「コメント」一つ一つも味わい深かったといいます。
「特に人文書はどう伝えるかが難しいと思いますが、同世代に読んでもらうにはどうすればいいのかを考えてくれていました。本の良さを自分で言葉にするのは、書店員でも難しいことです」

「夜と霧」を選んだ、函館西高校の坪川さやかさんは「歴史の教科書にも出てくる、ナチスによるユダヤ人の迫害。たったの一、二文でしか教科書では語られていない悲惨な歴史を、極限状態の人々の心理と生々しい体験談から、もう少しだけ深めてみませんか?」とコメントしています。

「夜と霧」(ヴィクトール・E・フランクル著)にも、高校生のコメントが。=三省堂書店札幌店提供
「夜と霧」(ヴィクトール・E・フランクル著)にも、高校生のコメントが。=三省堂書店札幌店提供

高校生は「売れているか否か」は関係ない

今回、「選書」を軸とした企画をするにあたり、工藤さんの念頭には「夏休みの課題図書」とは違うものを作りたいという思いがありました。

これからの時期、夏休みの宿題として読書感想文が出されることも多く、その課題図書などが書店でも並びます。

「課題図書は大人が定めたもの。もちろんそれはそれであっていいのですが、子どもの方からはなかなか主体的に読もうとはなりにくいかと思います。それで感想文を、といわれてもどうしても義務や強制感が出てしまう面もあります」

それとは違った形でみせられると思ったのが「友だちから薦められた本」。同世代から推薦された本の方が読んでもらえるのではないかと思ったといいます。

さらに、その結果「高校生の自由な選書」を味わうことができたといいます。
「書店員だとどうしても、自分の売りたい本よりも、『売れている本』を薦めがちなところがあります。でも、選書した高校生にとっては売れているかどうかは関係ない。純粋に好きなものを薦めてくれます」

「高校生の自由な選書って、すごく尊いと思います」

店頭で配布されている冊子=三省堂書店札幌店提供
店頭で配布されている冊子=三省堂書店札幌店提供

道内20店舗が興味「うちでも」

今回のフェアを知り、道内の他の書店からも「うちでもやりたい」と声かけがあるといいます。選書を出してくれた生徒の地元の書店などを中心に20店舗ほどの手挙げがあるそう。

地方の書店がなくなっていくニュースも話題に上ります。
工藤さんも「経営が厳しい書店も多いです」とした上で、「書店だけでやろうとしてもできないこともあります。本に関わる人同士が手を組んで考えていくことで、今回のように話題にも来店動機にもなる可能性があり、企画してよかったです」と話します。

また、今回のような参加型のフェアは、場所や属性を問わずに展開することができると工藤さん。さらに、「書店で企画するだけでなく、図書館関係者や学生さんが『こういうのをできませんか』と書店に持ち込むアプローチもあると思います。同様の取り組みが他の地域にも広がっていけばいいなと思います」

    ◇
(7/6日追記)【選書リストはこちら】https://www.books-sanseido.co.jp/ssd_wpc/uploads/2024/06/dae0af752890f68124934697aeecee4d.pdf(三省堂書店のHPより)

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